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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
愛重き(?)兄妹

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悪い考え


 ノランさんとのやり取りから、さらに数日。

 猫――もとい、ヒーリングゴーレムが机の上で丸くなって寝ていて、俺も特にやることがなかったので、お茶を淹れて、ぼんやりと空を見ていた。

 そんな中――事件は、何の前触れもなく始まった。


「団長ッ!」


 扉が思いっきり開かれて、ラグナルの雄叫びと共に、何か大荷物を持った影が入ってくる。


「レオンさんとイーリスさんのギルド加入、誠にッ! おめでとうございますッ!」


 両手いっぱいに持っていたのは、花束と――なんか、謎に重そうな酒樽。


「こ、こんな大層に……恐れ多いです」


 ラグナルの勢いに押され気味に、後ろからレオンが現れる。


「……何持ってるの?」

「お祝いですともッ! 団長の回復祝いでもありますッ!」


 まだ痛いけどね。

 止める間もなく、テーブルの上で勝手にパーティー準備が始まる。

 それに釣られたのかセラもやってきた。

 すぐ後に、イーリスも。


「シンさん見てください、お菓子焼いてみました!」


 イーリスが照れながら、真っ白なエプロン姿でキッチンから現れる。


「わっ、いい匂い……!」


 セラの目が輝き、どこからともなくリゼットが現れる。


「これは……シン様の胃袋を狙った策略ですか?」

「ち、ちがっ……! で、でも胃袋は狙ってるかも……」


 焦るイーリス。だが、セラの目は獣のように鋭くなる。


「イーリス、いいですか? シン様の栄養管理は私の専売特許です!」

「そんなことないです」


 俺が言葉を差し込むと、リゼットが勢いよくこちらを見た。目が怖いです。

 リゼットが軽く咳払いをして、場の空気を整える。


「とてもいい香りですが……使用した食材、衛生管理、調理環境、確認してもよろしいですか?」

「も、もちろんですっ!」


 イーリスは慌てて背筋を伸ばし、手を拭く仕草をした。


「リゼット、そんなに本気で審査しなくても……」


 俺が小声で突っ込むと、リゼットはちらりとこちらを見た。


「シン様の口に入るものです。厳しくして当然でしょう?」

「えぇ……」


 セラはすでに椅子を引いてテーブルに座っていた。

 俺はクッキーをじっと見つめ、リゼットにバレないように手を伸ばそうとしたその瞬間――。


「――まだです」


 リゼットの一言で、ぴたりと手が止まる。


「私が味見します」


 リゼットがクッキーを取り上げ、慎重にひと口。数秒の静寂。


「……問題ありません。美味しいです」

「本当ですか!?」


 イーリスが嬉しそうに微笑み、セラもすかさずクッキーにかぶりついた。


「んっ……おいしい!」


 その笑顔につられるように、俺も一枚つまみ、口に入れる。


「うん、普通に美味しいな」


「……普通?」


 イーリスの眉がぴくりと動いた気がしたけど、俺の気のせいだと思いたい。


「団長ッ! これは茶が欲しくなる味ですねッ!」


 ラグナルがすかさず自前のティーポットを持ち出して、お湯を沸かそうとする。


「まぁ待て……ラグナルよ。持ってきてくれた酒があるだろう?」


 俺が言うと、ラグナルの眉が跳ね上がる。


「団長……まさか、今この昼下がりにッ!?」

「……飲もうとしたのお前だろ。お茶を淹れる前に思い出したんだよ」

「むぅ、それもそうでしたッ!」


 ラグナルは気を取り直すと、ドン、と樽をテーブルの横に置いた。

 中身が微かに揺れて、かすかに芳醇な香りが広がる。


「かの東方の山岳地帯で取れる香烈葡萄から作られた逸品ッ! 深いコクと芳香、そして燃えるような後味が――」

「ラグナルさん、それ飲み比べして確認したんですか?」


 イーリスがやんわりと首をかしげて尋ねると、ラグナルは誇らしげに鼻を鳴らした。


「店のものを全て飲み、一番良さそうなものを買ってきましたッ!」


 だからいつも以上に上機嫌なのか。

 むしろお前が飲みたかっただけだろ。

 思っているた、セラがふとこちらを見て、小さく口を開いた。


「マスター、お酒飲めるの?」

「たしなむ程度にな」

「そうなんだ! マスターと一緒に飲めるなんてうれしいな!」

 

 彼女は俺の隣にちょこんと座った。

 その仕草が妙に自然で、距離が近い。

 肩がちょっと触れてるんだけど。

 そんな俺の戸惑いをよそに、リゼットが静かにグラスを用意していき、ラグナルはすでに酒を注ぎ始めていた。


「ふっ……乾杯の音頭、よろしいでしょうか団長ッ!」

「なんの乾杯だよ」

「新たな仲間に、ですともッ!」

「……そうだな」


 俺はグラスを取り上げて、兄妹の方を向いた。


「……レオン、イーリス。改めて、ようこそ《白灯》へ」


 俺の言葉に、レオンが静かに頷き、イーリスは柔らかく笑う。



 ――彼らが正式にギルドに加わったのは、数日前のことだった。

 あの戦いのあと、ギルドに顔を出したレオンとイーリスは、まっすぐな目で俺に頭を下げた。


『シンさん、お願いします! 俺たちを《白灯》に入れてください!』

『私たち……これからは、ちゃんと守れるようになりたいんです! シンさんみたいに!』


 俺からすれば、もう十分頑張ったと思っていたが……二人はそれでは足りなかったらしい。

 正直、悩んだ。

 ギルド活動を積極的にする気のない俺にとって、新人を迎えるのはあまりにも重荷だ。

 それに、あの兄妹にはもっと活動的な、大きなギルドの方が合っていると思って、説得もした。


『君たちなら、もっと適した場所があるはずだ。うちは……あまり、動かないギルドだからな』


 それでも彼らは首を縦に振らなかった。

 

『そんな、俺たちはシンさんの元で強くなりたいんです! あなたのような強い男に!』

『そうです! シンさんは私たちを救ってくれた――命の恩人なんですよ?』


 若者の熱量に、さすがの俺も押し切られた。

 村の人たちにまで「お願いします、あの子たちの居場所を……」と頭を下げられた日には、もう無理だった。断れるわけがない。

 こうして、レオンとイーリスは正式に《白灯》の一員となった。

 もっとも――。


(……これで、雑用を頼めるな)


 俺にとって、悪い話ばかりでもない。

 二人はギルド所属経験がないため、加入時に適正ランクの判定試験を受けさせられた。

 その結果はまだ届いていないが……十中八九、俺よりも下だろう。

 つまり、命令しやすい。

 リゼットやラグナルには怖くて頼めないことでも、レオンとイーリスになら――。


「……シンさん? 今、何か悪いこと考えてました?」

「え、いや、別に?」


 イーリスが、にこにこと笑いながら俺を見つめていた。

 なんで読まれた? この子、ちょっと怖いんだよな。


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どれも感謝ですが、評価、ブクマ、いいねの順で嬉しいです。

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