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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
愛重き(?)兄妹

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報告

 戦いから数日後。

 まだ痛む傷に興奮を感じつつ、のんびりと俺の膝の上で丸くなっているヒーリングゴーレムを撫でている。

 ギルド《白灯》の静かな午後。

 こんな日がずっと続けばいいのに――。


 ――コン、コン、コン。


 ドアがきっちり三回、叩かれた。

 身体が反射的に硬直する。

 その節度あるノックの音に、俺の中の記憶が条件反射で警鐘を鳴らしていた。


「……いや、大丈夫だ」


 やることはやった。身構える必要はない、はずだ。


「失礼しま〜す」


 扉が開いた。

 現れたのは、肩幅の広い上着に、軽快な足取り。

 どこか余裕のある笑みと共に、ギルド監査の女帝が戻ってきた。


「お元気そうで何よりね、団長さん。生きててホッとしたわぁ」


 相変わらずの柔らかい声。


「そ、そうですね……それで、今日は報告書のことで?」

「その通り」

 

 ノランさんはギルド内を一瞥し、猫に目をやってニヤリと笑う。


「はいはい、可愛い猫ちゃんも変わりなく。よろしい」

 

 口調は軽やかだが、その目が一瞬鋭くなる。


「――で、本題。今回の依頼。ご苦労さまでした」


 手にしたフォルダから、数枚の紙を取り出して俺に見せる。


「王都ギルドも正式に《白灯》を実働ギルドとして認可。助成金も据え置き、良かったわねぇ」

「ありがとうございますッ!」


 よっしゃあ!

 今月は猫をもう一体増やしちゃおうかな。


「でも――」


 ノランさんの口調が変わった。


「まさか、討伐までやってのけちゃうとはねぇ。相手はSランク相当だったんでしょう?」

「まぁ……そうですね」

「他のメンバーは?」

「どこに行ったんでしょうね。たぶん、みんな忙しいんですよ」

 

 俺は少し曖昧に答えた。

 報告書からは、意図的に俺の諸々を省いておいた。

 どこかで俺の趣味と紐づけられたら困るからだ。

 そして、今日は俺しかギルドにいない。他の奴らは追い出した。

 セラやラグナルが余計なことを言い出す可能性が高いからな。

 それに、実際、敵を倒せたのはリゼットやセラが本気を出してくれたおかげだ。

 俺は足を引っ張らないように頑張っただけで、決して決め手を出したわけじゃない。


「で、あなたはどうしてたの?」


 ノランさんがぐい、と一歩詰める。

 その目には、経験で磨かれた読みがこもっている。


「さすがに団長自らが、戦線でボサっと突っ立ってたとは思わないけど」

「ええと……まぁ、サポートに徹してたというか……囮とか……」


 痛む腹をさすりながら言うと、ノランさんの目が、さらに細くなった。


「……サポートねぇ。へぇ。Sランクを相手に、Bランクが囮として機能できるってすごいわね?」

「運が良かったんですよ。たまたま相手の注意が逸れて、仲間が……」

「ほうほう、偶然、ね」


 ノランさんは顎に手を当て、俺の様子をしげしげと観察している。


「傷跡、まだ痛む?」

「……えぇ、まぁ。ぶん殴られたので」

「ふうん」

 

 軽く言いながら、ノランさんは手帳に何かを書き込んだ。

 そのペン先の動きは迷いがない。


「まぁ、いいのよ。強いスキルを隠したくなるのも分かる。目立つとロクなことないもの」

「いや、強くないんですけど……」


 死にかけで能力値が一段階上昇って、普通にハズレだからな。

 ノランさんがふっと立ち上がり、書類を片手に歩き出す。


「とりあえず、わたしは白灯を信用することにしたわ」

「ほ、本当ですか?」


 思わず身を乗り出してしまった。

 彼女に信用されれば、俺のギルド経営は安泰だ。下手な介入も減る。


「じゃあ、今後はしばらく静かに――」

「――でも」


 俺の希望を口にする前に、ノランさんが微笑んだ。

 その微笑みは、かつて税金を取り立てに来た役人と同じ顔をしている。


「これからも依頼を持ってきていいかしら?」

「ダメですやめてください」


 即答。

 だが、ノランさんは「またまた」とでも言いたげに手をひらひら振る。


「実力者がこんなにいるんだもの。内容はどうあれ、きっと助けてほしい人たちが沢山いると思うのよねぇ〜」

「えっ……いや、あの、ちょっと待ってください」

「大丈夫よ〜、強い子たちばかりなんだから。団長さんは、適材適所に配置するだけでいいのよ。適材適所って言葉、知ってるかしら」

「……適した材を、適して所するんですよね」

「……なに言ってるの? ともかく、これからも頑張りましょうよ。新しいメンバーも増えたんでしょう?」


 もう、俺と会話する気を無くしたようだ。

 ノランさんは「また来るわね〜」と言うと扉を開き、出て行った。

 同時に、彼女が最後に告げた「新しいメンバー」という言葉が、肩に重くのしかかった。

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