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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
呪われし兄妹とド変態

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幸せな時間

 シンの刃が男を捉えることはなかった。

 否、それは身体にぶつかることもなかった。


「ぐ、あっ……か、はッ……ッあああああッ……!」


 喉が裂けそうな声が漏れる。

 内臓を素手で握り潰されるような痛み。

 神経が一本ずつ焼き切れていくような感覚。


「がっ、はッ……ッく……」


 声にならない絶叫が、歯の隙間から漏れる。

 腹の傷からはまだ血が流れていたが、その感覚すら遠くなるほどの熱が、身体を焼き尽くしていく。


「……ああ、君も気づかなかったか。残念」


 男が囁くように言う。

 その声音には、わずかな落胆と、薄い愉悦が滲んでいた。


「種明かしをしてあげるよ。この短剣は、僕の友達の牙を削って作ったものなんだ」


 男はうっとりとした声で呟いた。

 

「彼に、そしてこの剣に傷をつけられた者は、呪われる。僕に対して危害を加えようとすると――その身体に、死ぬほどの痛みが走るようにね。いいでしょう? とっても理にかなってる」


 まるで芸術品を紹介するような口ぶりだった。

 苦しむシンの姿に、セラは絶句していた。


「まさか、団長が……!」


 その時、教会の裏手からラグナルが戻ってきた。

 広場の惨状を見た彼は、一瞬で何が起きているのかを悟る。


「団長オオォォォォッ!」


 野太い声が夜気を裂いた。

 大地を踏み抜くような勢いで、彼が男へ向かって踏み出す。

 だが――その巨体が跳びかかろうとした刹那。

 

「――来るな……ッ!」


 シンが吠えた。

 身体を焼かれるような激痛の中で、それでも絞り出した言葉だった。

 その声音に、ラグナルは思わず足を止める。


「な、何故ですか……何故ですか団長ッ!」

「……お……お前は言った……な……死ぬほどの、いた、み、だと……」


 シンはラグナルの言葉に返さず、男に問う。


「あぁ……この痛みで死ぬことはないよ。死ぬほど苦しんで、最後に私が殺すか……彼に喰わせるんだから」


 男は恍惚の笑みを浮かべる。


「そこで寝てる彼には可能性を感じてねぇ。考えに考え抜かせて、それを踏みにじって殺す……そのために生かしておいたんだ。まぁ、買い被りだったけどね」

「は、はは……そう、か……」


 シンは吐き出すように笑った。

 喉の奥で血が泡立ち、口内に広がっていく鉄の味が、思考の縁をじわりと蝕んでいく。

 けれど――その笑みは消えなかった。


「……なにがおかしい?」


 シンの膝に力が入る。全身の筋肉が軋みを上げる。

 吐血しながら、手を地面につく。


「ま、マスター……これ以上は、もう……」

 

 セラが呟く。

 彼女の瞳は大きく見開かれ、涙が今にも零れそうだった。


「もう、立たないで……!」


 それでも、シンの脚はゆっくりと、確かに地を踏んだ。

 もはや狂気的とも思えるシンの姿に、男の表情がかたまる。


「き、君は……死ぬ気なのか?」


 はじめて、男の声が揺れる。

 想定外のものを目にしたかのように。

 

「――うるせぇな」


 声はほとんど出ていなかったが、その響きには、はっきりとした芯があった。

 そして、再び短剣を強く握ると、男を目掛けて剣を――。


「――ぐああああぁぁぁぁぁっ!」


 呪いの痛みが全身を駆け巡る。

 焼けた鉄の杭が脳髄を貫くような激痛。

 全身の神経が一斉に悲鳴を上げ、視界が赤と白に弾ける。

 でも――。


「ど、どうして止まらない!?」


 男が一歩後ずさる。

 攻撃は届かず、刃先は空を斬った。

 だが、シンは剣を振り続けて、痛みに悶え続ける。


「お願いします! もうやめてください!」

「私たちのことはいいから――やめて……」


 自分を助けてくれようとしている。

 だが、その姿があまりにも痛々しく、レオンとイーリスは懇願する。

 もう見ていられないと……自分たちの命が失われる方がマシだと。

 しかし、シンは剣を振り続ける。


「君は――君はどうして諦めない!?」


 その言葉に、シンの動きがピタリと止まる。

 戦う前よりも、遥かに強い眼差しで男を射抜く。


「俺が……俺がここで剣を振るわなかったら――」


 自分を心配しているであろう仲間たち、兄妹へと視線を向ける。


「――終わっちまうだろうがッ!」


 叫びと共に、幾度となく繰り返されたシンの一撃。

 それがついに――男の皮膚を裂く。

 ある者は心を揺さぶられ、ある者は驚き、ある者は納得に目を見開いた。

少しでも面白いと思ってくださった方はブクマ、評価等お願いいたします。

どれも感謝ですが、評価、ブクマ、いいねの順で嬉しいです。

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