24.後始末
陽や雪希の取り巻く環境の変化に比べて、堂島やその取り巻き達は事件の影響をさほど受けなかった。
まず堂島は関係性を認められず、一切のお咎めなし。
また、取り巻き達も陽への暴行の他いくつかの暴力事件が明るみになったが、それでも、彼等への処罰としては雪希と同じく1週間の停学扱いに留まった。しかも、それは表向きの処分であり、溜まり場への出席を許される等、彼等への学校の特別待遇は相変わらずだった。
処罰が異様に軽いのは当然だった。そもそも堂島の庇護下で彼等が行った悪事の中で暴力行為は比較的軽いものだったのだ。学校としてもその程度の悪事は十分に隠蔽可能な罪だった。
そう。本当にヤバいのは別にあった。
本当にヤバいのは――
その夜――
彼等は下げ渡しを楽しんでいた。
「やめてッ!!」
一人の女性が衣服を下着ごと剥かれ、その豊かな胸を晒して悲鳴を上げた。
彼等は慣れた手つきで彼女を追い詰めていく。よく利用するこの貸しスペースに彼等以外が来ることはないので、彼女の叫び声にも動じず彼等は安心して彼女を押し倒すのだった。
「堂島君にしか見せたことがないのに……いいのっ!? 堂島君に言いつけるよ!」
「言いつけてもいいんじゃないかな〜、ゲハハハ!」
「なっ!?」
「というか、堂島さんが助けてくれると思ってるのかよ。目出度い頭してるな、ゲハハハ!」
「えっ!? えっ!?」
「お前だって手伝ったことあんだろう? 下げ渡されたんだよ、捨てられたんだよ、お前もな。ゲハハ、ゲハハハハッ!!」
「そ、そんな……」
堂島は見た目だけでなく、その声で多くの女性を魅了した。彼は雪希を口説く一方で、多くの女性を手籠にしていたのだ。
そして、堂島はある程度遊んで飽きたら、これらの女性を取り巻き達に大人のおもちゃとして下げ渡す習慣があった。
なお、専ら彼等は下げ渡された女を本当におもちゃの様に扱っていた。そして、凌辱し尽くして壊れたらポイ捨てしていた。そこには後腐れもしこりも、罪悪感すらなかった。
堂島が学園で順風に暮らせるのは理事の甥であることだけでなく、こうやって独特な封建制度を築いていたことにあった。
そして、今日のゲストはかつて陽と対峙した名無し君(8話参照)の幼馴染、『遠藤 雫』だった。
「や、やめてっ!」
「雫ちゃんは綺麗なおっぱいしてるねぇ」
「遠藤はホントにエロい身体をしてるな! 先生、嬉しいぞ! げははは!」
「君に傷つけられた幼馴染君も興奮してくれてるよぉ、げはは」
「雫ちゃん、雫ちゃん……」
彼女の悲鳴は下卑た笑い声でかき消される。
その声の中には教師の塚田の声もあった。今や塚田も堂島の取り巻きの一人だった。
そして、集団の中には堂島に脅されて陽を襲った名無し君もいた。
今、名無し君は身体中が痣だらけだ。彼はここ数日、取り巻き達の憂さ晴らしにされていた。
なお、彼は無抵抗でこれらの暴力を受け入れていた。取り巻き達が怖かったこともあったが、堂島から「幼馴染を取り戻すために必要なプロセスだ」と言われていたからだった。名無し君はこの言葉を信じて彼等のいかなる暴力にも耐え忍んでいた。
ただし、彼の自己犠牲は決して純情なものではない。寧ろ、淀んだもので――
今も取り巻きたちに良いように犯されている幼馴染をニヤニヤと不気味な笑みを浮かべて眺めていた。この場に幼馴染を呼んだのも名無し君だった。
「いやッ! やめて! 透! 透! 助け――!!」
久々に自分の名前を呼んでくれた幼馴染。
いや、もう汚馴染みか。
堂島との快楽に溺れ、堂島のために友人を売って取り巻きへの生贄にし、結局は堂島に捨てられて落ち込んで、名無し君が堂島のメッセンジャーと言うとホイホイここまでついてきた。
今、凌辱にあっている。どこまでも自業自得のこの女は既に汚物だ。
だから、自分を捨てたくせに今さら無責任に助けを求める彼女に対して、名無し君は目一杯見下した視線を向けた。
「へへへ……そんなこと、モブの僕にできるわけないじゃん。雫だって、そう言って僕をいつも馬鹿にしてた癖に」
「そんなっ! 透っ!」
「雫ちゃん、雫ちゃん……いい顔してるよ。雫ちゃん、えへへ……」
「あぁ……――」
一刻後、取り巻き達に散々犯されて雫の心は完全に壊れてしまった。
こうして誰にも気にかけてもらえないモブは幼馴染ざまぁを果たしたのだった。
だが、名無し君の逆襲はまだ終わっていなかった。
「雫ちゃん、イイよ……汚れ切って……」
名無し君は身動ぎ一つしない雫にのしかかり下半身を露わにした。
「君も結局、被害女性というモブでしかなかったんだ。小学校の頃からクラスのヒロインだった君――モブに成り下がったキズモノの君――僕達は漸くお似合いになったね」
堂島から言われた通りになった。
穢れた幼馴染を浄化してやれるのは自分しかいないと、名無し君は倒錯した思いを暴走させた。幼馴染の穢れを祓う為に名無し君は懸命に腰を振るのだった。
周囲には相変わらず取り巻き達がいて、自分達をニヤニヤと見下していた。今の行為を撮影されており、これも新たな脅迫ネタになるのだろう。
しかし、名無し君には関係なかった。
同じ地獄でも幼馴染と一緒なら耐えられる。
誰かが助けてくれるまで、どれだけでも――
「それにしても早く如月も下げ渡して欲しいよな。顔もいいし、とにかくエロい身体してるし」
「まだ無理じゃね? 堂島さんも1回しかヤったことないらしいよ」
「えっ!? あの堂島さんが!? 如月ってそんなに不感症なの?(笑)」
「いや、まぁ物凄く下手らしい(笑)」
「やっぱり『お人形』様なんだな(笑) 堂島さんに『気持ちよくなれるように仕込んでおきましょうか?』って言ってみるかな? ヘヘへ」
「やめとけやめとけ、堂島さんに叱られるぞ。あの人、相変わらず姫にご執心なんだから。今回のも東雲を仕留めれば良し、失敗しても孤立した姫を救って惚れさせるという作戦だったって言うから」
「そっか〜。じゃあ、作戦も上手くいって、今頃はしっぽりやってんだなぁ。俺も味見して〜(笑)」
「全く(笑) まぁ、今日はお古で我慢しますか(笑)」
「そうだな(笑)」
「楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」
「「っ!?」」
不意に声をかけられて驚く二人。彼ら以外の取り巻き達も一斉に声の方を向いた。
いつの間にか、フルフェイスのマスクを被った男が部屋の入口を塞ぐように立っていた。
彼の顔立ちは伺えない。しかし、彼からはただならぬ雰囲気が漂っていた。
「何だお前! 誰の許しを得てここに侵入してきてんだ!?」
「何、偉そうにカッコつけてんだ!? 殺す――あがっ!ギャッ!!」
取り巻き達はすかさず威嚇する。
しかし、フルフェイスの彼は取り巻きの煽りに全く動じず、近付いた最初の一人を足払いで転ばし、這いつくばる彼の足を踏み潰した。
今度は塚田がフルフェイスの男に掴みかかった。
「大人がいる前で暴力とはいい度胸だ!」
「いい大人、しかも教師が未成年を輪姦とはいい度胸だ」
「これは愛の指導で合意の上の性交だからレイプじゃない! 邪魔するんじゃない!」
愛の指導?
合意の上?
「大勢で襲っておいて何を言ってるんだ?」
フルフェイスの男は嘆息をつく。
しかし、塚田は本気で輪姦を指導の範疇だと思い込んでいた。仮にこの行為が行き過ぎと問題になったとしても、とある生徒のせいに出来ると信じていた。
「もういい。臭い口を閉じろ」
「何を――あっ……!」
フルフェイスの彼は大柄で屈強な塚田が掴みかかってきたところを先程と同様に転倒させた。
そして――
「い゛た゛っ! や゛め゛っ! や゛め゛っ! や゛め゛て゛!――」
「やめてと言って、お前は女性への暴行をやめたのか?」
犯罪者の聞くに堪えない弁明を無視して、彼は繰り返し繰り返し――憎しみを露わに塚田の顔を踏みつけ続けた。
塚田の顔が原型を止めない程に歪み沈黙した時、今度は男が下卑た笑みを浮かべて近付いてきた。
「へへへ、本当は混ぜてほしかったんだろう? いいぜ、そんな所に突っ立ってないでこっちに来いよ。今回は使い古しで申し訳ないが、次は最初にヤラせてやるから……プギャッ!!」
しかし、フルフェイスの男は不用意に寄ってきたこの男も同様に転がし踏み潰した。
そこからは録画を再生しているようだった。
フルフェイスの男は数人がかりで襲ってきた取り巻き達を次々と転倒させ、虫を扱うように踏み潰し無力化した。
気がつけば、立ち上がることもできず取り巻き達は呻きと悲鳴を上げていた。
(やったやった! 神様は僕の味方をしてくれた!)
名無し君が待ち望んだダークヒーローは彼の期待よりも早く登場してくれた。
名無し君は身体の痛みも忘れて歓喜で両手を挙げた。
「マスクの人、ありがとうございます!」
そして、名無し君がフルフェイスの彼を労おうと近付き――
「えっ……?」
気付いたら、彼もまた転ばされ背中を痛打していた。
「そんな……僕は被害者なのに……」
「はぁ? この部屋のどこに被害者がいるんだ?」
そう言ってフルフェイスの男は倒れて動かない幼馴染に対しても侮蔑の視線を向けた。
「まさか僕の拳が自分に向かってくるとは思わなかったのかい? 『次はない』と言っただろう」
「あっ……」
この時、名無し君はフルフェイスの男の正体に気付いた。
あの時は堂島に対する負け惜しみだと思っていた。しかし、彼は単独でも彼等を纏めて叩きのめすだけの力を持っていた。そして、彼は確実に自分達を撲滅する機会を伺っていたのだ。
それこそ、自分には関係ない者を犠牲にしてまで。
「アッ! ガッ! プギャッ!!」
次の瞬間には取り巻き達と同様に名無し君もフルフェイスの彼に踏み潰され――
そして、彼は意識をブラックアウトさせたのだった。
フルフェイスの男は手に足にと念入りに倒れ伏す者達の骨を砕いていった。顔も何度も踏みつけ拉げさせる。気を失った者から優先的に更に痛めつけて叩き起こした。
その残虐は一切の躊躇いもなく行われた。それは彼が言った「楽しむ」とは程遠い淡々とした処刑だった。
取り巻き達はもはや悲鳴すらあげられない。
激痛の中、彼等が出来ることはフルフェイスの彼を怯えた目で追うことだけだった。
フルフェイスの彼の体躯は筋骨隆々という訳では無い。それでも、蹲る彼等には巨大でどう足掻いても勝ち目のない存在に映った。
唯一見える目元は――
瞳孔は悪魔の様に細長く――
それは憎悪に塗れて仄暗く――
《恐怖せよ》
そして彼と視線が合った時、彼等の中で何かが弾けた。
まず、自分達が堂島に騙されていた事に気付く。
次に、堂島に乗せられてとんでもないモノを敵に回したという後悔と堂島への憎悪が膨れ上がる。
最後に、それらの負の感情を全て塗り潰すものが押し寄せてきて――
そこにあるのは『恐怖』だ。
今までの彼の狂拳なんか生温い。
死すらも上回る絶対的な『恐怖』が彼等を襲って。
彼等は痛みを忘れてガクガクと震えだした。
それは一生涯苦しめる恐怖が彼等の中に刷り込まれた瞬間だった。
フルフェイスの男は蹲り震える彼等からスマホを回収し始めた。それらを順に開いて中のフォルダを確認する。
フォルダの中は堂島が異能で誑かした女性達の痴態で埋め尽くされていた。それに、彼女達を脅し誑かすメッセージも。一部はウリだってさせていた様だ。
なお、塚田のスマホには名無し君の全面協力のもとでっち上げられた、同君への暴行を陽のせいにするための証拠も含まれていて――
フルフェイスの男は全てのデータを抜き取ると、この場にいる者全員に聞こえるように宣った。
「お前達の人生はここで終わりだ。だけど――」
もう一度、彼等を睨み――
「お前達だけで――人生が終わる程度で済む事に感謝するんだな」
フルフェイスの彼は一番に震える塚田に近付き蹴り飛ばした。それから、髪をひっ掴み念入りに口から鼻から血が出る彼を憎悪で睨みつけた。
「ちなみに、堂島は人生を終わらせるだけでは済まさない。あいつには何度も地獄を見せる。あいつに関わる全てを破滅に追いやる。繰り返し繰り返し――これは決定事項だ」
取り巻き達を地獄に落とすのも、フルフェイスの男にとって堂島の手足をもぐ一過程に過ぎなかった。
但し、今の堂島には手足をもがれる意味が理解出来ないだろう。
(なにせ堂島は異能の真実に気付いていないのだから)
だから、我欲を満足させるというつまらない目的で異能を使えるのだ。
(まさか、もがれた手足が自分に襲いかかるなんて――鬼ごっこ《・・・・》が始まるなんて想像もついてないだろうね)
彼がその視線で全員に再び『恐怖』を叩き込むと、彼等は等しく失神した。
* * * * *
その夜、堂島の取り巻き達による連続集団レイプの事実が学校に、そして警察にも通報された。
驚いたことに、リークの翌日、取り巻き達は身体を引きずって警察に出頭した。
彼等は満身創痍なうえ何かに怯えた様子で自らの罪を必死に白状した。
なお、警察が自首の理由を尋ねるも、彼等は「罪の重さを認識し激しく後悔したため」としか答えなかった。
ちなみに、前述の通報は堂島の元取り巻きだった者から行われたものだった。
通報理由は怨恨だった。かつて堂島に恋人を奪われ、その恋人がかつての仲間に慰み者にされたので復讐を決めたとのことだ。
通報の際、彼もまた率先して語った。「部屋に籠りきりになった元恋人を見て復讐を決めた」「カッとなって彼等を半殺しにした」と、彼は己の罪も自供した。
流石に学校も彼等のやらかしを隠蔽する事は出来なかった。彼等は速やかに退学処分となり、加担した教師の塚田も懲戒解雇となった。
なお、レイプにあった被害女性達が同情されることはなかった。
当然だ。堂島の歓心を買う為、または自分達のレイプの軽減の為に他の女性を売っていたことまで明るみになったのだ。
彼女達は被害者と同時に加害者だった。彼女達もまた、退学処分となった。
結局、関係者で名無し君とその幼馴染を含めて、その後、まともな人生を送れた者はいなかった。彼等は終始怯えている様だった。
付け加えるならば、最も厳しい罰を受けたのは関係者で唯一の大人だった塚田だった。彼のその後の人生は転落の一途で、強姦事件では実刑判決を受け家族を失い、元家族を含めて彼の知る者全てから恨まれた惨めで過酷な余生を過ごした。
――その後は?
惨めな者の最期はやはり惨めで絶望的なエンディングしかあり得ない為、それ以上は語るまい。
こうして、堂島が築いたカーストは崩壊した。
拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
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作者の今後の執筆の励みになります。




