22.雪希が寝取られた理由
「ところで、陽は拗ねてる?」
陽はピクリと頬を引きつらせた。
「堂島とのこと?」
「……」
雪希は、陽が憎悪とは別の感情を抱えていることに気付いた。
「私の汚れが――陽の知らない私と堂島との関係が気になる?」
「……君の汚れなんて今更だ」
その言葉は復讐とは無関係に雪希を詰った先程の行動と明らかに矛盾していた。
フラッシュバック――陽は雪希と堂島の関係を今更ながらに想像して悩まされていたからだった。かつて、堂島が雪希を手籠めにする為に立てた『BSS(僕が先に好きだったのに)作戦』は見事、陽に痛手を負わせていたのだ。
(2ヶ月もの間、私は堂島の彼女を務めていた。堂島に傾いていた時期もあった。常に陽の事を想っていたと言われても、陽だって信じられる訳が無い)
しかしだからこそ、雪希は己の身奇麗さを堂々と宣う必要があった。
「私は身綺麗。ハジメテは勿論、ファーストキスだって堂島には奪われていない」
「……そこまで雪希に潔癖を強いるつもりはないよ」
「嘘つき。今だって動揺してる。堂島とのこと――アイツとエッチしたか気になってる癖に」
「そんなこと……知ったことじゃないよ」
「大丈夫。堂島とは由香や沙織と一緒に遊んだ事があるだけ」
「……昨日だって、堂島と二人きりでデートをしたのだろう? それはどう申し開きをするつもり?」
陽に付き纏うにあたり堂島としたデートの事実を指摘した。
「あれは堂島とお茶してつまらない話を聞き流した時間。でも確かに、それだけで終わったか証明することは不可能。もしかして、堂島の異能に支配されて知らないうちに色々なモノを奪われてるかもしれない」
陽はピクリと眉を上げた。
「そんなことはあり得ない。感情や行動を支配出来ても、記憶操作まではそう簡単に出来やしない。あるとすれば、君が僕に嘘をついているということだ」
陽は堂島の異能が己と同種であること、その詳細までも承知していた。だから、陽は雪希が言う可能性を否定してみせた。
しかし、陽が言う仮説もあり得なかった。
「意思を陽に支配されている今の私が、心を見透かせる陽に嘘をつけると思ってる?」
「……」
陽は言葉を詰まらせた。
「やっぱり陽は気になる? 私の貞操」
「別に、君の貞操なんて興味がない」
「興味が、ない?」
これだけ感情を顕にしているのに、心を苦しめてるのに興味がないと言う。
雪希の中で黒い愛情がもたげた。
「それなら提案。より堂島を信用させ陽の作戦の成功可能性を高めるために、私のハジメテを堂島に捧げるのはどう?」
「アイツに辱めを受け私を貶めることにもなる。アイツに脅されて身体がボロボロにされればなお良し」
「陽のお望み通り、私は地獄に堕ちれて、まさに一石二――」
――がたんっ!!
その瞬間、陽は雪希を押し倒し彼女の首を絞めていた。
「誘惑しろと言っただけだ。身体を許せとは言っていない!」
「グッ……」
本気で息を詰まらせる雪希に、陽はハッとして首にかける手を離し雪希からも距離を取った。
「ケホケホ……」と咽る雪希。しかし、彼女は落ち着くと陽に抱き着いた。
「ごめんなさい。あと――嘘つき」
雪希は再び陽を嘘つき呼ばわりした。
「もう一つ提案。私の貞操の証明方法――陽が私とエッチすれば、私が身綺麗だと分かる。そして、私の想いも守られる。再考求む」
「雪希の身綺麗や貞操の証明に僕を利用しないでくれ。それだけは信じるから」
「駄目、私は陽の『人形』。ファーストキスもハジメテも全部ぜんぶ陽のもの。陽色に染めてほしい」
「何とも重量感のあるラブドールだ」
「ふふふ、覚悟覚悟――私、陽とのエッチにものめり込む気満々」
嘆息をつく陽。
「愛しているか分からない女性を抱く事は出来ない」
「むぅ、陽は頑な」
「なんとでも言ってくれ」と陽はそっぽを向いた。
「『人形』は愛せない?」
「そんなことないよ」
「今は愛せない?」
「あぁ、信じれない」
「これからは?」
「分からない」
「堕ちた分だけちょっとずつ?」
「ASAS……」
「じゃあ……」
雪希は陽を首抱きして唇を重ね合わせた。
「――っ!?」
中々離れない離さない。
愛おしさが止めどなく込み上げてきた雪希は唇を擦り合わせて彼の感触を味わった。
ずっとずっと――
これからはずっと――
「今まで伝えられなかった私の愛、いっぱいいっぱい伝えるから。陽が不安にならないくらい、いっぱいいっぱい伝えるから――」
――だから、陽もいっぱいいっぱい受け取って♡
「ASAS……」
* * * * *
一刻ほどして、雪希はマンションから出た。
彼女は尊厳の一切を廃棄した訳だが、むしろ今朝、陽を待ち構えていた時よりも晴れやかな気分になっていた。
滞在中、彼女は激重の愛情を伝え続けてスッキリさせたのだ。
自ずと雪希の歩みも弾むのだった。
そんな彼女を睨む者――
「フーッ……フーッ……フーッ……」
男はケダモノの様な呼吸をしていた。その姿もケダモノそのもの――顔には形が変わるほどの殴打痕があり、身なりもボロボロで髪もぼさぼさだった。
「堂島ぁ……全部お前のせいだぁ……」
男は怨嗟を呟く。
男は堂島の元取り巻きだった。彼はトイレ盗撮の断罪の一幕以降、人が変わったように怯える様になった。
そして、今の彼は堂島に恨みを持ち復讐を晴らすため、遭遇した堂島の彼女である雪希を襲おうとしていた。
しかし、男の雪希への逆恨みが成就することはない。
「かつての恋人を廃人にされた事で堂島を恨んだはいいものの、奴等に返り討ちにあったのか。使えない奴だね」
「あぁっ! しののののののめぇッッッ!?」
気付けば男の背後に陽がいた。
振り返った彼は急にガタガタと震えだした。
《Machen Sie sich keine Sorgen, ich werde Ihnen irgendwann die Gewissheit geben, aufzugeben. mit deinen Freunden.(安心しろ、そのうち諦めという安らぎを与えてやる。お前のお仲間と共にな)》
陽は彼の顔を鷲掴みにし視線を彼の瞳にぶつけ合わせると、男は白目を剥きその場で昏倒した。
「それにしても、『人形』としての自覚がまだまだ足りないみたいだね。追々、教え込まないと……」
彼女の心を支配したはずなのに、言うことを聞かずひたすら愛情を暴走させた先程までを思い出し陽は嘆息する。
しかし、彼自身も少し心を軽くしていた。
雪希が団地の中に入っていくのを確認し、陽は来た道を引き返した。
* * * * *
そして、時は進み、雪希が『藁人形』として役目を果たした翌日に至る――
停学になったこと、友人達と決別したこと、親に泣かれたこと――雪希は不幸と苦悩の一切合切を忘れて陽に存分に甘えた。
「陽、聞いていい?」
「なんだい? 僕も君がなぜ脱ぎだしたのかを聞きたいな」
雪希はブラウスのボタンを外して身頃を開けていた。雪華の刺繍が施された純白のブラからは見るからに柔らかそうな上乳が溢れ出て、何とも刺激的な光景だ。
雪希の甘えは日に日に過激になっていた。
「色仕掛け? ふふふ」
「分かりやすい回答をありがとう。それで雪希が聞きたいことは何?」
残念ながら陽には色仕掛けは大して効いてないらしい。雪希もまた真面目に答えることにした。
「陽はさっき私が『堕ち始め』と言ってくれた」
「言ったね」
「ちなみに、それはどのレベル? どうすればもっと堕ちられる?」
雪希は「次の命令、プリーズ」と強請った。
「う〜ん――」
わざとらしく悩みだす陽。
(陽であれば、とっくに答えは出ているはず。私、焦らされてる?)
しかし、『お人形』はご主人様に口を挟まない。
雪希は彼の答えを期待して待った。
そして――
「堂島のトイレ盗撮の作戦名、『BSS(僕の方が先に好きだった)作戦』だっけ? あれ、いいよね」
「あっ、ンっ♡」
陽は唐突に雪希に唇を重ね合わせた。
それから、雪希の瑞々しい唇から甘えん坊な舌に、敏感な咥内まで彼女のそれを遠慮なく蹂躙する。
陽が口を離した時、雪希は完全に蕩けていた。
陽は雪希を腰抱きして――
「堂島から雪希を寝取ってやろうという気には――堂島には雪希を抱かせたくないという気分くらいにはなった、かな?」
「あぁ♡ あぁ♡」
「あと、落ちぶれる雪希に純潔はいらなくない?」
「んんんぅぅ♡♡」
(色仕掛けは効いていないと思ってたけど、そんなことはなかった。あと、『僕』の方がやはり獰猛♡)
――やっと、雪希のハジメテを受け入れてくれる気になった。やっと、襲ってくれる気になった。
(本当に……本当に、陽の『お人形』になれて良かった♡)
雪希は瞳にハートのハイライトを浮かべ、身悶える様に陽を抱き締め返し身体を委ねた。
この日、雪希はハジメテを無事、彼に届けることが出来たのだった。
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