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「よっし!」
ログイン7日目、やっと一週間である。
そして皆様、覚えているだろうか。私の性癖どちゃすこなリツキさんという名のイケメン(※ただし、私のような変人に限り)を。
今日は週末。
約束の! あの! 週末である!!
テンションぶっ壊れてんなーって思った?
うん、そうなのよ。
そういや、リツキってどっかで聞いたことあるなぁって思ったら、他のゲームで同じクラン―――ギブフリーのギルドみたいなもの―――だったのだ。
そのゲームの会話は基本チャット制なのだが、そこではめちゃくちゃ敬語だったから気づかなかった。
…そのときのアバターがTHE・仕事人って感じのモリモリマッチョマンだったのも気づかなかった一因と言えるのだろう。リツキさんのあのアバターには私、思わず一瞬思考停止しちゃったよ。
というか、リツキさんそのゲームやめちゃってて、色々お世話になったお礼を言えてなかったんだよね。だから、言いたい。
ただただ単純にリツキさんがイケメンというのも確かにありますが。ありますが!
「ふ〜。」
いかんいかん、私としたことが取り乱してしまった。
一旦冷静にならないと。
うん、とりあえず、ログインしよっか。
***
«パスワードを確認―――承認しました。それでは、いってらっしゃいませ。»
AIちゃんが無機質な声とともに送ってくれる。
ポリゴン体があたりを浮遊し、反射的に目を瞑る。
「………っぷはっ。」
私は思わず、目を瞑るとともに息まで止めていたようである。
はぁはぁと少し荒い息を整え、前を向く。
―――そして、すぐにばっ、と被っていたパーカーのフードを下げる。
人、人、人、人。どこを見渡しても人が行き交うその風景に、くらりとめまいがする。
「ここのクエスト行かない?」
「やっぱ、ここの食いもんがいっちゃんうめーわ。」
「ッカー、若いねぇ……。」
「おーい、この剣はいらないかい? 強化+2、Nの剣だよ!」
流石は【はじまりの街】唯一の市場。活気が違う。
あ、やばい、マジで倒れそう。
と思ったその時、ついに大きく視界が揺れ―――
「―――あなた、大丈夫?」
どこか聞き覚えのある声とともに、誰かの腕に抱きとめられた。
「って、あれ? シルちゃん?」
濡れ羽色の髪に、深い海のような青の瞳。一見ほわほわとした雰囲気をまとう、この少女は―――
「っ、ありがとう……ちゃこ。」
私がそう返すと、幼子のように顔を輝かせて、
「やっぱり、シルちゃんだぁ!!」
と言った。
***
―――午前十時二十八分、【はじまりの街】、はじまりの広場の一角にて。
「ええと、その子は……?」
合流したリツキさんは、私たちに会うなりそう言ってきた。
十中八九、私の腕にぎゅっと抱きつき、トリモチのように離れないこの少女、「ちゃこ」のせいだろう。
「シルちゃん大好きちゃこちゃんでーす。ちな、名前の由来はチャコペンシルでーす。」
「はは……すいません、リツキさん。この子、離れなくって……。」
「そらそーだ。だってちゃこちゃん戦士系パラメータ爆上げしたもーん!」
見てくれだけは美少女なのにね。ほんと中身が残念だよね。うん。
「ええと、じゃあ、シルフィードさんの知り合いってことなのかな?」
「…………………ぇえ……まぁ……………はぃ…………。」
認めたくない〜。
「ねぇねぇシルちゃーん。」
うるさっ……。静かにできないのかなぁ、この子は。
「私も、パーティーにいーれー――「え、やだ。」―てって、最後まで言わせてよ〜。」「いや、あんたみたいなのを連れて行きたくないし。」「も〜。ひど〜い。」「しらんがな。」
すると、いきなりリツキさんが笑いだした。
「……っふふ、はは、あはははは。あっはははは、はははっ……。」
「え、リツキさん?」
「ふふっ、いやごめんね。
君たちの掛け合いが面白くて、つい。」
掛け合い? と顔を見合わせる私たちに、また面白そうに笑うリツキさん。
―――はい、送信。
「はははっ、ふふ、え〜っと、それで、今日の予定はどうなるの?」
「いえ、それは別に……。」
今日の予定は変えるまでもないだろう。
他のエリアへの移動は正規の手段(徒歩等)を使わなければ行えないのだが、攻略したエリアがある場合は別で、その人と、その人がパーティーに属している場合、パーティーメンバーも一緒に行けるらしい。
今日の予定はただ、私の権限を使い、私が攻略済みの【砂血の大地】に行き、レベリングを行うだけ。
パーティーメンバーでないちゃこはついてくること自体できないはず。
というか、前に連絡してきたときにはレベリング済みやらなんたら言ってたから来なくていいと思うし。
「ねぇ〜、お願い〜。」
ちゃこはすねたように私の腕から手を離し、リツキさんの方に近づく。
その瞬間、私たちはコクリと頷きあうと、
「じゃあね、ちゃこ。」
「え"? ちょ、ちょちょ、スルーしないで???」
「あはは……。じゃあ、また……。」
私とリツキさんは、ちゃこに捕捉されないよう、全速力で駆け出した。
***
「っはあ、はあはあ……。この、っくらいで大丈夫ですよね。」
「うん、多分。撒けたんじゃないかな。」
私はぜぇはぁと大きく息を吸いながら、リツキさんは軽く息を整えながらそう言う。
私は、リツキさんが笑い始めた時、高速でチャットを送った。
『リツキさんへ
この子、ちゃこは、正真正銘の化け物です。
戦士系ステータスのくせに、【魅了】が最大レベルまで上がってます。
というか、この子のあだ名、〈籠絡姫〉なので……。
聞いたことありませんか?
一度くっついてくると、ステータスなどの関係で、ちゃこの方から離れるまで私やリツキさんからは取れません。
厄介なので、早めに逃げ出したほうが得策です。なので、逃げましょう。』
と。
リツキさんはその危険性を察し、速攻で『了解』と送ってくれたので、ちゃこの手が離れた瞬間に爆速で走り出したのだ。
逃げ出した先はリツキさんと初めてあった森。
ちゃこは、世界ランク5〜6位にいつもいるプレイヤー。だいたい魅了系と戦士系のスキルやステータスをかけ合わせた感じの構成をしている。
魅了で相手の行動を制限してガンガン叩くっていうスタイルのプレイヤーで、ギブフリーではいつも魅了の効果がダダ漏れになっているらしい。
うん。ギブフリーではガチで厄介な子になっちゃったよね。
じゃ、ちゃこが撒けたところで。とりあえず、【砂血の大地】に向かいますか〜。
***
「………なんかこれってさ、もう作業だよね。」
「え?」
【砂血の大地】についてから三十分ほどたった時、唐突にリツキさんがそう言った。
「いや、【飛行】で飛んで、上から俺が最大火力でぶっ飛ばす、って……。
最初の方はレベル差のおかげで結構戦闘って感じだったけど、もう今は一発で終わりだし……。」
……私もレベリングの最後の方、そんな感じだったんだけどね。
「それは、ほら、レベリングですし?」
「まぁ、そうなんだけどさ。……おっ、上がったな。」
逆にリツキさんのレベルが高すぎて上がらなくなってきちゃってるし……。
ん、じゃあ、あの部屋に行くか。
「リツキさん、移動しましょう。」
「え、あ。…うん。」
***
―――血腐城、叡智の間
「ここ、どこ??」
リツキさんが困惑した声を出す。
「あ、経験値部屋です。」
「?????」
リツキさんはもっと困惑した顔になる。
経験値部屋としか言いようがないんだけども…。
「私がこのエリアを勘破したときの試練を擬似的に受けることのできる部屋です。
経験値もちゃんと入るので、経験値目的でつかってます。」
「ええええ??」
嘘でしょ!? と顔色を変えるリツキさん。
いや、ホントですよ。
「一人で入りますか? それとも、私も入りましょうか?」
「え、あ、えーっと、シルフィードさんは、どうしたほうが良いと思う?」
困惑した表情を見せながらもそう聞いてきたリツキさん。
「んー、レベル的に私と一緒のほうが危険は少ないかと。でも、一人でも行けるレベルにはなったと思いますよ?」
「………最初だから一緒に行ってくれないかな?」
「あ、はい。」
こうして、私たちは扉の中に入っていった。
新キャラ登場! ちゃこ(正式プレイヤー名・Chako)!
そして、ストックが尽きました……(´・ω・`)
頑張って書いていきます(*^▽^*)
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また、感想なども遠慮なくお願いいたします。




