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1話はなぜか春から始まることが多い


"あぁ、なんていい天気なのだろうか"


空を見上げれば青空が一面と広がっている。


下を向けば桜の花びらが地面を覆いつくしている。



今日は入学式だ。


これほど入学式にふさわしい天気など到底ないだろう。


思わずスキップをしたくなる気分を落ち着かせ、深呼吸をする。



そして、ふと気がついた。


目の前を歩く女性がポケットからハンカチを落としたことに。


同じ学校の制服を着ているところを見ると、同級生あるいは先輩だろう。



"仕方ない、拾ってあげよう"



落ちていたハンカチを拾い、前を歩く女性に声をかける。



"あの、ハンカチを落としましたよ"



女性が振り向いて…………



俺は、目が覚めた。






************






現実は甘くなかった。


夢から覚めた時にはすでに遅刻確定の時間で、間に合うはずもなく入学式に遅刻。


その後のクラスでの自己紹介では、誰も目を合わせようとしてくれず、完全に問題児というか腫れもの扱い。


誰一人として関わろうとしない。






長々とした学校の説明を終え、休み時間を迎えるも俺の席の周りは閑散としていた。


早くもぼっち確定とした高校生活だ。


今後が心配に思いつつ窓の外に目をやると、夢で見た景色とは打って変わり雨模様である。


思わずため息が出てしまう。


前の席に座っている女子が怯えたように縮こまった気がした。


そうだな、気がしただけだな。うん、怯えてない、縮こまってないよな。


しかし、窓際の1番後ろの席で本当に良かった。


手持ち無沙汰な俺には外を眺めているだけでも暇つぶしにはなる。


次の時間もおそらく学校の説明の続きだし、眠くなりそうだな………






**********






昼休みになり、教室が賑やかになるも俺の周囲は静かだった。


隣の席の住人は昼休み開始のチャイムが鳴るとすぐにいなくなってしまった。


前の席に座っている女子は………ぼ、ぼっち飯っ!?

俺と同じ、いや同士がいたとはな。



…………ちょっと話しかけてみるか。



 

 「なぁ、ちょっといいか?」


 「んっ!? ………は、はい」



 

 前の席の女子は恐る恐るこちらを伺っている。

 

 いや、俺は何もしてないからね? ただ遅刻しただけだからね? そんな怯えなくいいんだよ?


 できるだけ優しく、話しかけた。




 「桜井さん、だったよね? 俺はやなぎ 颯太そうた、よろしくな」


 「…………桜井さくらい 三月みつき、です。こちらこそ、よろしくお願い……します」




 桜井さんは控えめに自己紹介をしてくれた。


 名前を間違えてたらどうしようかと思ったけど、間違えてなくてよかった………




 「桜井さん、よかったら一緒にご飯食べない? せっかくだし、親交を深めないか?」


 「………はい。………ぜひ」




 ありがとうございます桜井さん! ぼっち確定かと思われた高校生活を回避することができました!ぼっち同士で友達になれば、ぼっちじゃなくなるよな!






**********






 昼食を食べた後、用事があると言って桜井さんは席を外した。


 コミュニケーションを取ったおかげで桜井さんのことを少し知ることができた。


 その際に気付いたのだが、桜井さんは意外と……いや、かなり可愛いことがわかった。


 黒いショートヘア、顔もかなり整ってる、容姿は完璧と言ってもいい。


 おそらくケアや手入れはしっかりと行っているのだろう。


 なのに、自分を飾ろうとせず、さらには地味にしようと黒縁メガネをしている。

 

 目が悪いわけでもなく、度が入っていない伊達メガネだ。


 その点がかなり不思議であったが、尋ねることはしなかった。



 

 さて、昼休みはまだ時間が余っているし、どこか時間潰しに行くか。


 

 …………飲み物買いに行こうかな。

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