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第217話「リタとレティシアと、逃れられない(こともない)貴族の宿命(さだめ)」

 ──リタ、レティシア視点──






 ナギが魔王鎧(まおうよろい)と出会う、数日前。


 リタとレティシアは『商業都市メテカル』に到着していた。


「……す、すごい人出ですわね」


「……私も、大通りがこんなに混雑してるのははじめて……」


 城門を通ったレティシアとリタは、あふれる人波に圧倒(あっとう)されていた。


 メテカルの大通りは人通りが多い。商業都市の名の通り、大量の店が建ち並んでいるからだ。


 だが今のメテカルは、普段の数倍は人が多い。


 まるでお祭りでもあるかのように人があふれ、まっすぐ歩くこともできない。人の姿に隠れて、通りの店の位置さえもわからない。まるで知らない町に迷い込んだようなものだった。


「リタさん。ど、どこにいますの!?」


「ここ……って、ちょっと、押さないで……レ、レティシア──っ」


「こ、こっちですわ。手を伸ばして。こっちへ──っ」


 レティシアは腕を伸ばし、なんとかリタの手を(つか)んだ。


 人波に流されかけたふたりは、道の中央でやっと合流した。


「ど、どうなってますの、これは」


 レティシアは荒い息をついている。


「……わかんない。人のにおいが多くて、頭が混乱しそうだもん」


 リタはフードを目深に(かぶ)っている。人の声や雑音を、一時的に遮断(しゃだん)するためだ。


 そうでもしないと、人の波に酔いそうだった。


 獣人は音と気配に敏感だ。これだけまわりに人が多いと、あふれる気配に圧倒されてしまう。ある程度感覚を遮断しなければ、頭痛を起こしてしまいそうだった。


「レティシア。ど、どこかに抜け道はないの!?」


「あ、ありますわ。リタさん。こっちですわ。なんとか人の間を抜けて──!」


「そっちね。それじゃ──」


 リタはふと、思いつく。


 自分たちはあふれる人波から逃げようとしてる。


 つまり、ただいま絶賛逃走中ぜっさんとうそうちゅう。ということは──


「それじゃ発動『華麗逃走(かれいとうそう)』!!」


「それ今使えますの!?」


「レティシアこっち! 数歩歩いたら右! ついてきて!!」


「使えますのね!? なんて便利な!?」


 ふたりはチートスキルの力を借りて、なんとか人の少ない小道へと逃げ出したのだった。








「……な、なんだったんですの。あの人出は……」


 レティシアは石壁に手をついて、ため息をついた。


「……人が多いって聞いたけど、これほどとは思わなかったわ」


 リタは家の壁に背中をあずけて、ぐったりとしている。


 大通りの人波は減る気配がない。


 これまで人の少ない地方を旅していたリタとレティシアにとって、あの大通りを抜けるのはハイレベルダンジョン並の高難度だ。ぶっちゃけ、戻りたくない。


「なにが起こってるのよ。まったく」


「ただのイベントなら、いいのですけれどね」


 レティシアは額の汗をぬぐった。


「正直、このまま帰りたい気分ですわ」


「ただの祭りなら、このままイルガファにとんぼ返りでもいいもんね」


 うんざりした顔でつぶやくリタ。


 だけど、そうはいかないのもわかっている。


『商業都市メテカル』に人が集まっている理由を調べるのが、リタとレティシアの使命だ。本来レティシアひとりで来るはずのものを、リタ自身が希望してついてきたのに、使命を果たさずに帰るわけにはいかない。


「情報収集するなら市場か、冒険者ギルドだけど……この町のギルドって、あの『貴族ギルド』を引き継いだ組織なのよね?」


「近づきたくないですわ。それに、ギルドは大通りに面していたはず。近づくのも大変ですわよ」


「日が暮れて、人通りが少なくなってから行くのはどう?」


「その前に……わたくしに考えがありますわ」


 呼吸を整えたレティシアは、リタに向かって告げた。


「このメテカルには、わたくしの知り合いの商人がいますの」


「もしかして……前にアイネをかくまってくれた道具屋さん?」


「そうです。わたくしの母の知人で、信頼できる方ですわ。まずはそこで話を聞いてみましょう」


 レティシアの言葉に、リタはうなずいた。


 以前、貴族の手によって『庶民ギルド』が潰されたとき、行き場のなくなったアイネをかくまってくれた人がいた。レティシアの知り合いだ、貴族に目をつけられるのも気にせず、倉庫を貸してくれたのだ。


 その人なら信じられる。商人なら、町の情報も持っているはず。


 リタとレティシアは小走りに移動を始めた。


 小道を選んで、目的地へと向かう。『商業都市メテカル』は、レティシアの実家がある町だ。小さい頃から走り回ってる。一度小道に入れば、大通りを避けて進むのは難しくない。


 レティシアが先導して、リタがその後ろをついていき──


 ふたりは十数分で、目的地にたどりついたのだった。










 ──レティシアの知り合いの道具屋で──








「武術大会、ですの?」


「はい。町に来ているのはそれに参加する冒険者と、大会を見るために集まって来た人々です」


 レティシアの問いに、小柄な商人は答えた。


 ここは、商業都市メテカルにある道具屋。その奥にある、応接間。


 手前の椅子にはリタとレティシアが座り、奥の椅子に、商人の男性が座っている。


 商人の男性はまるで孫でも見るかように、穏やかな目でレティシアを見ていた。


「うれしいものですな。レティシアさまが頼ってくださるというのは」


「突然で申し訳ありませんわね」


「構いませんよ。レティシアさまの母君には、お世話になっておりましたからな」


「……言うまでもありませんが、父には」


「……内密に、ですな。わかっております」


 商人は唇に指を当てて、笑った。


 リタは、ほっ、と、胸をなでおろした。


 レティシアはこの商人さんを「母の知り合い」と言っていた。彼女の、亡くなったお母さんの幼なじみで、信用できる方だ、と。だからこうしてこっそり会うこともできるし、行き場をなくしたアイネをかくまうこともできたのだろう。


(なんとなくだけど、レティシアさまって、こういうところはナギに似てる気がするなぁ。あちこちに信用できる仲間がいて、その人をちゃんと大事にしているところが)


「……なにか変なことを考えてませんでしたか、リタさん?」


「べ、べつにー」


「……ならよろしいんですけれど」


 レティシアは商人の方に向き直って、


「それで、はじめから話していただけますか? この町で、なにが行われているのか」


「となると……先日、リギルタ伯爵(はくしゃく)が魔剣探索(たんさく)をあきらめ、旅に出られたところからですな」


 商人は姿勢を正して、リタとレティシアを見た。


「あの方はお嬢様と旅に出られました。もう、この町にはいらっしゃいません」


「……そうですか」


 商人の言葉に、リタとレティシアは顔を見合わせた。


庶民(しょみん)ギルド』事件のあと、町を出ようとしたナギたちを、リギルタ伯爵は追ってきた。


 それを撃退して『そんなに魔剣が欲しいなら、見つかるまで探して。アイネたちのことを忘れてしまうまで』という『契約(コントラクト)』を交わしたのはアイネだ。


 探索(たんさく)をあきらめたということは、アイネのことは忘れてしまったらしい。


「そのあと、このメテカルには新たな『冒険者ギルド』が設立されました」


 商人は言った。


「それでしばらくは落ち着いていたですが……近ごろ『海を渡って魔王が来る』という(うわさ)が流れるようになったのですよ」


「そんな噂は以前からあったように思いますけれど?」


「ええ。ですが今回は、王家が正式に魔王対策に乗り出したのですよ」


「「王家が!?」」


「正式には、王家の依頼を受けた貴族が、ですね。魔王が来たときに対抗できる勇者を募るため、武術大会を行うというおふれが出たのです。町の大通りに、いくつも立て札がありますよ。武術大会の日程と、それに参加する手続きについて」


「「……そんなことが」」


「おどろくのはわかります。王家と貴族が関わっているとなれば、魔王が来るという情報が正確だということですからね」


 商人はそう言って、うなずいた。


 けれど、リタとレティシアは違うことを考えていた。


(……それって、変よ。だって王家は魔王対策のために、ナギたち『来訪者』を召喚してるんだもん。どうしてこの世界の人たちを集めて、武術大会なんてやる必要があるの?)


(……そもそも魔王がいるかどうかも怪しいですわ。聖剣は竜を殺すためのものでしたし、これまで起きた魔王を匂わせる事件は、すべて貴族と来訪者が関わってましたもの……)


 リタとレティシアは顔を見合わせる。


 魔王がいるという前提で行われる、武術大会。


 ふたりにとっては、それそのものが異常事態だった。


「魔王の(うわさ)って、どんなものかご存じですか?」


「私の知る限りでは、姿かたちがかなり具体的でした」


「……と、いうと」


「ええ。確か……魔王は漆黒(しっこく)(よろい)をまとっている、と」


「物語などに、よくありますわね」


「さらに、魔王は愛馬にも甲冑(かっちゅう)をまとわせ、漆黒の戦車(チャリオット)に乗って現れる。馬の名前は『()崩壊(ほうかい)』。魔王は魔竜(まりゅう)の力を宿し、人間すべてを滅ぼしに来る……だそうですよ」


 商人は自分が口にした言葉に怯えるように、肩を震わせた。


 リタとレティシアも寒気を感じていた。


 魔王の姿について、ここまで具体的に聞かされたのは初めてだった。それが王や貴族から出たということは、重い意味を持つ。


 間違っていたら、彼らの信用ががた落ちになるからだ。


「……その(うわさ)、気になりますわね」


「興味がおありなら、立て札のある場所をお教えしますよ」


 商人は言った。


「倉庫街なら人も少ないですからね。店の者に案内させましょう」












 道具屋の店員の案内で、リタとレティシアは倉庫街にやってきた。


 ここは通りのはずれにあり、人はほとんどいない。


 レンガ造りの大きな建物と、空の荷馬車が停まっているだけだ。


 その中央に、木製の立て札が建っていた。


 木の板に羊皮紙が貼られ、下の方には赤字で『元祖勇者ギルド』の署名がある。


「これが、武術大会の応募要項」


「『元祖勇者ギルド』……って、名前だけで怪しいんだけど」


 レティシアとリタは、羊皮紙に書かれた『武術大会』の案内文を読んでいた。


 長い。そして細かい。


 羊皮紙3枚分にわたる文章と注意書きは多岐にわたっていた。




『求む、勇者。




 我々「元祖勇者ギルド」は、海の向こうから魔王が来るという独自情報をつかんだ。


 だが、心配することはない。


 この国には、数多くの冒険者、剣士、兵士がいる。


 彼らの中に、必ずや魔王を討ち果たす勇者がいるはずである。


 我らギルドは王家の支援を受けて、勇者を見いだすための「武術大会」を行う。


 参加希望者は──』




「参加希望者は……自己アピールの文章を提出すること、ですの?」


「その後、面接をして、自分がいかに魔王を憎んでいるか、魔王を見つけ出して倒す気合いがあるかを確認する……って」


「面接も3回あるようですわね。ギルド面接、貴族面接、上位貴族面接」


「その後で武術大会をやって、優勝者は王家の……正確には、王家から支援を受けた『元祖勇者ギルド』に登録する──」




 文章はさらに続いている。


 魔王の装備と能力、その恐ろしさについて書き(つづ)り、その後で『冒険者ギルド』の新たな制度についての記述が書かれている。




 メテカルの『冒険者ギルド』では新たなランク制を適用する』


『その最高ランクが「金剛石(ダイヤモンド)勇者(・ブレイブ)」』


『「金剛石勇者」は最優先でクエストを選ぶことができ、王家からも補助金がもらえる。魔王が現れた場合は先頭に立って戦う権利を得る』


 


 さらに武術大会のルール。使用可能な武器。


 服装、手順、髪型、対戦相手と向かい合ったときの挨拶(あいさつ)まで決められていた。




「「……はぁ」」


 レティシアとリタは頭を押さえた。


「こんな面倒な応募要項、見たことありませんわ」


「でも……町に人があふれてるってことは、みんな応募しに来たのよね」


「ですわね。王家の支援というのは魅力的ですもの」


「貴族も支援しているんだもんね」


 リタは背伸びして、やけに長い立て札に目を走らせた。


 応募要項の下に、協力している貴族の家名が並んでいる。


『北の町ハーミルト』を統治(とうち)する、ゲルヴィス伯爵家。


 リタの知らない侯爵(こうしゃく)家と、男爵(だんしゃく)家。


 それと──


「ミルフェ子爵(ししゃくけ)家!?」


「うちが協賛(きょうさん)を!?」


 レティシアが驚いた顔になる。


 思わず読み返すと……確かに協賛する貴族のところに、ミルフェ子爵家の名前があった。


 その下には細かい文章が書いてある。


 協賛(きょうさん)している貴族は面接を免除する。直接武術大会に参加可能、と。


「ミルフェ子爵家って、レティシアさまの他に参加できる方は」


「……父が出るわけありませんわね。となると、わたくしを参加させるつもりで……?」


 レティシアは考える。


 彼女は元々、港町イルガファの『新領主おひろめパーティ』に出るために、家を出た。その後は自由にしていいという、父の許しがあったからだ。


 それから1ヶ月と少しの間、実家には帰っていない。


 自由すぎるレティシアに、父は『跡継ぎのために、分家から養子を取る』と言っていた。


 彼女が貴族の子女には向かないことは、父も知っていたからだ。


 だとすると、今回の大会はその養子が参加することになっているのか。いや、違うだろう。そんなすぐに養子縁組が成立するわけがない。となると……。


「ただ、協賛して王家の関心を得るためか。それとも」


「レティシアを見つけ出して、武術大会に参加させるつもりなのか、ってことね」


「面倒なことになりましたわね」


 まずい──レティシアは思う。


『商業都市メテカル』には、ミルフェ子爵家の屋敷がある。


 レティシアの父も、レティシアが行きそうな場所はわかっている。


 おそらくは港町イルガファにも、書状くらいは出しているだろう。もしかしたら、さっきの商人の屋敷にも、見張りをつけているかもしれない。小心者の父だが、その分、打てる手はすべて打つ人だ。


 そうなると、レティシアが取るべき手段は──


「……作戦を立てるのは、ナギさんの得意分野。わたくしの担当ではないのですけれど」


「……レティシア。人が来るわ」


「……わかってますわ」


 やはり、さっきの商人のところに見張りがいたのだろう。


 王家がかかわっているとなれば、父も手段を選ばないということか。


「レティシア……」


「心配しなくていいですわ。あの男は、わたくしの知り合いです」


 リタを安心させるように、レティシアは言った。 


 倉庫街の方から、黒服の男性が一人、近づいてくる。


 護衛を数人連れているのを見て、レティシアは思わず噴き出しそうになる。


(わたくしを猛獣(もうじゅう)とでも思っているんですの?)


 まったく、臆病者(おくびょうもの)の父らしい。


 それでいて、子爵家の地位を高めることには努力を惜しまない。悪いことではないけれど、手段を選ばないのがレティシアには気に入らない。


「レティシアお嬢様。ごぶさたしております」


「久しぶりですわね。ニール」


「ミルフェ家の執事となって20年。このような名誉ある役目をいただいたのは初めてです。ここでお嬢様をお迎えできたことを光栄に思います」


「ご用は?」


「お父上からのご依頼です。レティシアさまに、メテカルで行われる武術大会に参加していただきたい、と」


「わたくしは父から『イルガファの新領主おひろめパーティに出たあとは、冒険者として生きても構わない』という許可をいただいております。仕事は済んだはずですわ」


「……子爵さまは、これで最後だとおっしゃっていました」


「父の『これで最後』は何回ありますの!?」


「これで最後だと『契約(コントラクト)』しても構わないそうです」


 そう言って、執事ニールは地面に膝をついた。


「子爵さまはおっしゃいました。貴族同士の付き合いというものがある。他家が子息を武術大会に参加させるというのに、ミルフェ子爵家だけが不参加というわけにはいかない。他家のやり方を否定したと取られるかもしれない」


「「…………はぁ」」


「町が武術大会でにぎわっているのに、子爵家の子女は友人と興味なさそうに町を歩いている。これほど大会に水を差すことがあるだろうか、と」


「聞いてもいいですか」


 不意に、リタが口を開いた。


「貴族とその関係者の人たちは、本当に魔王が攻めてくると思ってるの?」


「……お嬢様、この方は?」


「わたくしの大切な友人ですわ。無礼は許しません」


「そうですか……」


 執事ニールはリタの首輪を見て、それから、小さく首を振ってから、


「魔王が来るかどうか、などということはどうでもいいのです。だが、王家はすでに魔王対策をはじめてしまった。我々はそれに意見は言いません。結果がどうなるかは、王家が判断されること。我々には関係ありません」


「……そうですの」


 レティシアはため息をついた。


 ミルフェ子爵家は、変わっていない。貴族として名を高めるのを目的としている父にとっては、今回の機会は利用すべきもの。それだけなのだろう。『魔王』が『邪神』でも『来訪者』でも構わない。貴族界で孤立しなければ、それでいいのだ。


 そういうやり方が嫌いだから、レティシアは家を出たのに。


「ひとつだけ聞かせなさいな、ニール」


「どうぞ、お嬢様」


「わたくしがここで逃げたら、父はどうするつもりですの?」


「……各地の冒険者ギルドに、書状を出すおつもりだそうです。レティシア=ミルフェに仕事をまわすべからず、と」


「……な!?」


 レティシアは目を見開いた。


「そ、そんなことをしても意味はありませんわよ。冒険者ギルドは独立した組織です。その土地の貴族がちょっかいを出すことはあっても、ミルフェ子爵家が動かすことなどできませんわ」


「ええ、ですが、こう思わせることはできるでしょう。『他にも──』」


「『他にも人はいる。わざわざそんな面倒な奴を使う必要はない』とか?」


 言ったのはリタだった。


 不思議だった。


『ナギだったらどう答えるか』と考えていたら、言葉が勝手に口をついて出ていたのだ。


「……その通りです。賢い奴隷(どれい)もいたものですね」


「ご主人様に教育されてるもん」


「……父は……まったく……あの人は」


 レティシアは拳をにぎりしめた。


 その手を、リタが優しく包み込む。レティシアの耳に、小声でささやく。


「…………よく考えたら、私たち今まで、冒険者ギルドで仕事受けたことほとんどなくない?」


「…………あ」


 そうだった。


 レティシアが受けた仕事といえば、通りすがりのキャラバンの護衛。


 あとはナギの手伝い。


 冒険者ギルドと関わっていたのなんて、アイネが『庶民ギルド』をやってた時くらいだ。


(…………あれ? もしかしてわたくし、悩む必要ないんですの?)


 そもそも、パーティリーダーのナギが求めているのは『働かない生活』だ。


 レティシアは彼の奴隷ではないけれど、親友で、仲間。


 もしもレティシアが冒険者ギルドで仕事を受けられなくなり……無職になっても、別にナギは気にしないだろう。うちにいればー、って、受け入れてくれる。


「…………となると、ここでの『最適解(さいてきかい)』は……」


「…………レティシアんちに乗り込んで、武術大会の情報を探ること、かな?」


 リタとレティシアは顔を見合わせて、にやり。


 互いに、ぐっ、と拳を合わせる。


 それからレティシアは、執事ニールの方に、向き直った。


「わかりましたわ。他ならぬ父の頼み、娘として断るわけにはまいりません」


「おお! お嬢様!!」


「わたくしはどこまでいっても……子爵家(ししゃくけ)の娘ですのね。この身体に流れる貴族の血からは逃れられない……あぁ」


「……レティシア。棒読みすぎ」


「さ、さぁ、まいりましょう」


 リタの言葉に噴き出すのをこらえて、レティシアは前に進み出る。


「我が父の元へ。そうして話を聞きましょう。父が参加を望んでいる『武術大会』について」








いつも「チート嫁」を読んでいただきまして、ありがとうございます!


「チート嫁」第9巻の発売日が決定しました! 6月10日です!

今回は獣人の村でのお話がメインです。リタの活躍と彼女の悩み、そして彼女の願いと選択の物語でもあります。

さらに、今回は全体の3割くらいが書き下ろしになってます。

追加エピソード満載の第9巻を、どうかよろしくお願いします!





新作、はじめました。

「辺境暮らしの魔王、転生して最強の魔術師になる −人間を知りたい元魔王はほめられるのに慣れてない−」


貴族の少年に転生した元魔王が、最強の魔術師として (愛されながら)成り上がっていくお話です。

下のリンクから飛べますので、こちらもあわせて、読んでみてください。

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新作、はじめました。

「弱者と呼ばれて帝国を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました 
−魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大国に進化させます−」

https://book1.adouzi.eu.org/n0597gj/

魔王の領土に追放された錬金術師の少年が
なんでも作れる『創造錬金術師(オーバー・アルケミスト)』に覚醒して、
異世界のアイテムで魔王領を大国にしていくお話です。
こちらも、よろしくお願いします。
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