第203話「『古代エルフ遺跡』調査計画と、もうひとつの計画立案」
「ずっとここにいてもいいのですよ?」「また絶対来てくださいねー!」
妖精レーンとリーンに見送られて、僕たちは双子島を離れた。
おわかれの朝、彼女たちは『星読み』のスキルクリスタルをくれた。
このスキルは、僕たちが地下道で一晩過ごしたときに出現したらしい。
妖精さんたちは「古代エルフの認証をクリアするなんてすごいです!!」って言ってた。
もちろん、僕たちが深夜のテンションで「かっこいいポーズ」の研究してたことは黙っておいた。ラフィリアが言いそうになったけど僕とセシルで口をふさいだ。
でも、ひとつ気づいたことがある。
双子島の『古代エルフの施設』が生きているなら『古代エルフの遺跡』にも、まだ使える施設があるかもしれない。ラフィリアならその認証を突破できる可能性がある。
そうなれば古代エルフのアイテムが手に入る。
『霧の谷』のように、土地の魔力で稼働するものがあれば、数百年は動くわけだから……うまく使えば、本当に働かずに生活できるようになるかもしれない。海竜ケルカトルが言ってた「外に出なくても生きていける住居」があれば最高だ。
楽しみだな。
────────────
島を離れた僕たちは、保養地に戻った。
2日ほどお休みにして、それから旅の準備をはじめた。
『地竜アースガルズ』が教えてくれた『古代エルフの都』までは、保養地から徒歩4日。港町イルガファからだと、7日以上かかる。けど、船ならその半分以下の時間で往復できる。
北に向かうための潮の流れは『海竜ケルカトル』がコントロールしてくれることになってるからね。
まずは僕とイリスとカトラスが『港町イルガファ』に転移して、領主さんと交渉した。
それから僕とイリスで、対等の取り引きを持ちかけた。
僕たちは港町から北に向かう船を出してもらう。領主さんはその船に、保養地で売るための商品を積む。この時期は潮の関係で、北に向かう船はなかなか出せない。
けど『海竜ケルカトル』がサポートしてくれるなら安心だ。領主さんも大量の商品が積めるから商売になる。僕たちを北の町まで往復させる船代くらいは出るはず。
話はすぐにまとまった。
交渉が終わってリラックスしたのか、領主さんは──
「そういえば、私は盆栽に凝っておりまして」
照れくさそうに、そんなことを語りはじめた。
「北の町には、そういうものを好む人たちがおるそうなのですよ。ぜひ、私の作った物を売ってきていただきたいですな」
そう言って領主さんは、それに関わるスキルをくれた。同好の士を増やしたいらしい。せっかくだから、もらっておこう。
領主家を出た僕たちは海沿いを散歩しながら、『海竜ケルカトル』と連絡を取った。
カトラスの『聖剣ドラスゴ』でイリスをブーストして、『竜種覚醒共感』を使ったら、『海竜ケルカトル』と話ができた。
向こうの予定は問題なし。僕たちが北に向かうのは一週間後、と決まった。
まずは僕とイリスとカトラスが港町から保養地に向かい、保養地で他のみんなと合流することになる。僕たちは領主さんに顔を見せちゃったから、いきなり保養地まで移動してたら不自然だからね。しょうがないね。
「『海竜ケルカトル』は、やはり地上が騒がしい、とおっしゃっています」
『海竜ケルカトル』とのコンタクトが終わったあと、イリスは言った。
「人間と遊ぶのが好きな『バルバルゥイルカ』からの情報だそうです。王都と『商業都市メテカル』のあたりに、人が集まっている、と。おまつりがあるのか、なにかのイベントが開催されるのか……そこまではわからないとおっしゃっていますが……」
「……人が集まっている、か」
ただのイベントか、おまつりだったらいいんだけどな。
……気になるな。
「イリス、『海竜の巫女』の名前で、王家のクローディア姫に手紙を書いてもらっていいかな?」
「はい。そうですね……その手がありました。クローディア姫はイルガファ領主家に協力すると『契約』しておりましたから」
「ボクのねぇさまにお手紙を?」
「うん。ただの時候のあいさつでいいよ。『ごきけんいかが』って感じで。それで探りを入れてみよう。異常があれば教えてくれるだろう」
「名案ですね」
「平和的だと思うのであります」
「……自分の目で確認できれば、一番いいんだけどね。『古代エルフの遺跡』も、早めに押さえておきたいからなぁ。もちろん、働き過ぎない程度に」
「ふふっ。お兄ちゃんらしいですね」
「だからボクは、このパーティが大好きなのであります!」
そんなことを話し合いながら、僕たちは一旦、保養地に戻った。
「それなら、わたくしが王都に参りますわ」
次の日。
保養地の夕食の席で、レティシアが言った。
「わたくしも貴族として。王都でなにが起こっているのか気になりますもの。ここからイルガファに転移して、商業都市メテカルに向かいます。危険なことが起こっているようなら、情報だけ集めて引き返してきますわ」
「いいの?」
「誰かが見て確かめることも必要でしょう?」
「うん。信頼できる人の情報が一番だ。レティシアなら安心だよ」
「……そ、そうですの?」
「もちろん。ただ、誰かに護衛をしてもらった方がいいな」
「無用ですわよ。そんなの」
レティシアは首を横に振った。
「また、どこかのキャラバンに潜り込みますわ。それに、メテカルはわたくしの実家でもあるのですから」
「却下だよ」「却下なの」「わたしも心配です」「私も」「イリスも」「あたしも」「ボクもであります」
「みなさん口をそろえて!? わたくし、どれだけ心配されてますの!?」
だって、レティシアって結構無茶するから。
魔物に襲われてる人がいたら、後先考えずに助けちゃうし。
それは僕たちがレティシアを好きなところでもあるんだけど、今回はちょっと心配だ。
「王都とメテカル方面に行ったことがあって、レティシアの護衛ができそうなのは……」
「護衛なら、私の役目ね」
リタが手を挙げた。
「私はメテカルに行ったことあるもん。それに、ナギと出会ったのも王都からメテカルに向かう街道でしょ? 土地勘もあるし、レティシアさまの護衛としてぴったりでしょ?」
「お願いできる? リタ」
「もっちろん! ご主人様が信頼する親友の護衛だもんね」
リタは、ぽん、と胸を叩いた。
「レティシアさまのことは私に任せて、みんなは『古代エルフの都』の探索をお願いね」
「──で、リタのサポートにはアイネかカトラスを」
「ちょっと待ってご主人様」
「どしたの、リタ」
なんでほっぺたをふくらませてこっちを見てるの。
「ナギたちは知らないところに行くんだから、そっちに人材を集中した方がいいんじゃない?」
「いや、でも2人だけじゃ心配だし」
「私、いざとなったら『完全獣化』で狼になって高速移動できるでしょ? レティシアさまが逃げるのを完全にサポートできるもの。2人の方が動きやすくていいと思うの」
「いや、でも、もうちょっと対策を」
「そこまで過保護なご主人様がどこにいるのよ」
「ここにいるけど?」
「むー」
「むむむ」
僕とリタは顔を近づけて、じーっと視線を合わせる。
近い近い。
「と、とにかく! 私とレティシアさまは王都に行くだけなんだから! 危険だと思ったらメテカルまで行って戻ってくるからっ!」
「わたくしも同感ですわ。ナギさんたちは初めての場所に行くのですから、準備をちゃんとしなくては。荷物を運ぶ者。拠点を作る者。ひとり欠けても、探索の失敗になり得るんですからね」
「……しょうがないか」
確かに、レティシアの言う通りではあるんだ。
僕たちはイルガファの商船に乗って、北の町まで往復する。それにはイリスの力がいる。イリスが『海竜ケルカトル』とうまくコンタクトを取るためには、カトラスの『聖剣ドラゴンスゴイナー』があった方がいい。
向こうに着いたあとは、近くの港町を拠点にして探索に行くことになる。荷物はアイネのスキルで収納してもらうことになる。もちろん、行く先は古代エルフの遺跡だから、ラフィリアは必須メンバーだ。セシルの知識と鑑定能力も必要になる。
だからレティシアのサポートに回れるのはリタ、ということになるんだけど、やっぱり心配だな。
「じゃあ、約束しましょ。ご主人様」
そう言ってリタが、僕に小指を差し出した。
「もしも私が無茶したら、帰ったあとでナギからどんなおしおきをされても構わないわ」
「……リタ」
「だから……ね」
リタは僕の耳元でささやいた。
「私はナギに心配をかけるようなことは絶対しません。もし、そういうことになったら、ど、どんな恥ずかしいおしおきされても構わないもん」
「……たとえば?」
「そ、それを私に聞くのって、すでにおしおきじゃない!?」
「じゃあ『完全獣化』で狼の姿になって、もふもふさせてくれる?」
「せ、せめて服は着させて……」
「じゃあ服を着た状態で──」
僕とリタが、テーブルを挟んで顔を近づけて、ひそひそ話し合った結果──
「わ、わかったわ。私が服を着た状態で精神的に『完全獣化』して、ナギにもふもふしてもらえばいいのね?」
「なんだかこんがらがってきたけど、そんな感じで」
話はまとまった。
僕とセシル、アイネ、イリス、ラフィリア、カトラスが『古代エルフの都探索チーム』
リタとレティシアが『商業都市メテカルおよび王都、見学チーム』ということになったのだった。
──その夜、ナギの部屋で──
「それでこの『星読み』スキルについて、セシルとラフィリアはどう思う」
「不思議なスキルですね。わたし、こんなスキルのことは聞いたことないです」
「あたしも、はじめて見ますよぅ」
話し合いが終わったあと、僕はセシルとラフィリアに部屋まで来てもらった。
妖精さんからもらった『星読み』スキルについて調べるためだ。
『星読み LV1』
夜空の星を頼りに、目的地に向かう道を見つけ出すスキル。
進化特性あり。LV9になると上位スキルに変化する。
妖精たちは「古代エルフは星を見ることで未来予測していた」と言っていた。
もしかしたら、このスキルが進化すると、未来を見ることができるようになるのかもしれない。
「進化型スキルですかぁ。確かに……『古代エルフ』らしいですねぇ」
「そうなの?」
「だって、かっこいいじゃないですかぁ」
「そうだね。他には?」
「……え?」
「え?」
「「………………」」
え? 終わり?
いや、確かに進化型スキルってかっこいいけど。
まさか『古代エルフ』って、そんな理由でこのスキルを開発したわけじゃないよね……?
「とにかく、このスキルはラフィリアが持ってて」
「いいのですかぁ?」
「ラフィリアの『かっこいいポーズ』のおかげで見つけたんだ。当然だろ?」
それに……ラフィリアは『魂約』するときは「かっこいいスキルがいい」って言ってたからね。『星読み』スキルならぴったりだ。あともうひとつ使えそうなスキルを見つけて、『魂約』に使おう。
「こういう進化型のスキルって、他にもあるのかな」
「ある……と、思います」
セシルがうなずいた。
「これだけってのは、逆に不自然です。古代エルフさんは、そういう進化型のスキルをたくさん持っていて、それを施設作りに使っていたのかもしれません」
「地下施設とか作っちゃうくらいの技術があったんだもんな」
楽しみだけど、怖くもある。『古代エルフの都』には、どんなものが残っているんだろう。
……まぁ、なにもないなら、それはそれで平和でいいんだけど。
気になるのはリタとレティシアの方だ。
問題はないとは思う。商業都市メテカルはレティシアの故郷で、王都でトラブルが起きてるようなら、そこで引き返すって約束してくれたから。
でも、僕としては念には念を入れておきたい。
「逃走用のチートスキルを作っておくか」
こんなこともあろうかと、町で『逃走LV1』を買ってきたからね。これを使おう。
『逃走LV1』
『危険な状況』から『すばやく』『逃げる』スキル
初心者冒険者のためのスキル。
危険な状況から、すばやく逃げることができる。
「……組み合わせるスキルは、領主さんからもらったあれでいいか」
「ナギさまを同好の士にするためにくださったスキルですね」
「領主さんは盆栽が趣味ですからねぇ。週イチで屋敷のメイドを集めて、感想を聞いてましたよぅ」
「……同好の士にはなりたくないなぁ」
せっかくもらったスキルだけど、ここで書き換えてしまおう。
『逃走LV1』と合うかな……。
『盆栽LV1』
『植物』を『きれい』に『育てる』スキル
植物の枝を切りそろえて、きれいに育成するためのスキル。
このレベルだと、普通に全体のかたちを整える程度。
高レベルになると、芸術的な盆栽を作り上げることができる。
「やってみるか。発動! 『能力再構築』!!」
こっちの概念をこっちに動かして……こんなもんかな。で、『実行』っと。
「できあったスキルは……『華麗逃走LV1』と『快速育成LV1』か」
「どんな効果なんですか? ナギさま」
「気になりますぅ」
「きれいに逃げるスキルと、植物を早く育てるスキルだよ。具体的には──」
僕はセシルとラフィリアに説明した。
効果を確認すると……うん。
これなら、リタとレティシアの役に立つだろう。
「リタには『華麗逃走』を、レティシアには『快速育成』をあげよう。なにもないかもしれないけど……念のためだね」
「……あの、ナギさま」
あれ?
セシルが目を丸くして、僕を見てる。
「……このスキル、逃走スキルとしては規格外だと思うですよぅ?」
ラフィリアも腕組みして、不思議そうな顔だ。
「…………そうかな?」
効果を確認して、頭の中でスキルを使うところをイメージしてみる。
『華麗逃走』できれいに逃げて、それに『快速育成』の効果を付け加えると──
「──もしかして、超チート逃走スキルになってる?」
「ですね」「ですよぅ」
「……そっか」
最近、特殊なスキルやアイテムばっかり見てきたからな。『聖剣ドラゴンスゴイナー』とか、『星読み』とか。感覚が麻痺してたのかもしれない。いけないいけない。
「ナギさまは、ご自分が『超絶ご主人様』だということを、もっと自覚されるべきだと思います」
「いやいや、チートキャラなのは僕以外のみんなで、僕の能力はたいしたことないから」
「そんなことないです!!」
不意にセシルは、ぐっ、と、僕に顔を近づけて、
「だ、だってナギさまは、わたしをこ、こんなにしあわせな奴隷にしてくれたじゃないですかっ!!」
こら。
間近でそういうことを言わない。
セシルは真っ赤になって震えてる。顔にかかる息が、すごく熱い。
そこまで照れるなら言わなきゃいいのに……僕だって反応に困るから。えっと。
「あの、あたしおそとに出ていた方がいいですかぁ?」
「「そういう気の使い方はいいから!!」」
「うーん。声がそろいましたぁ。やっぱりマスターとセシルさまは超絶なかよしですねぇ」
「……うぅ」
セシルは恥ずかしそうに、僕の服の裾をつかんだ。
ラフィリアは天然ほわほわな感じだけど、口元がにやにやしてる。
「どうしますかぁ。このまま、おふたりですてきなことを始められるなら、あたしはおそとに行きますよぅ? マスター、セシルさまぁ」
胸を押さえて、僕とセシルを見つめるラフィリア。
「も、もちろん。見学や……あ、あたしに参加するようにおっしゃるなら……それはそれで……ですけどぅ……」
「……旅の前だからね。セシルの体力を温存する方向で」
「……そ、そうですね。わ、わたし……ナギさまにしていただくと……そ、その……歯止めがきかな……く……なって……」
「そうなんですかぁ?」
「そ、そうなんです……はじめてのときも……わたし…………ナギさまに抱きついて……その……あの…………なんども…………あ、あわわわわわ」
そのままセシルは「ぷしゅう」って声とともに、くたん、と、僕の腕の中に倒れ込んだ。
……なんで自爆するの。セシル。
「…………よっと」
僕はセシルの身体を抱き上げた。
最初に出会ったときより、ちょっとだけ重くなったかな。アイネのご飯が美味しいから、セシルも栄養をつけはじめたのかもしれない。
「セシルは、もうちょっと太った方がいいんだけどね」
「たぶん、最初に家族を増やしてくださる、未来の『おかーさん』ですからね。体力をつけないと、ですぅ」
「それ、セシルが起きてるときに言っちゃだめだから」
「むろんです。ふふふーっ」
そう言って僕とラフィリアは顔を見合わせて、笑った。
明日、リタとレティシアに新しいスキルを渡して、また、旅の準備だ。
それともうひとつ。
時間があったら、できるだけかっこいい『LV9』のスキルを探してみよう。
いつも『チート嫁』をお読みいただき、ありがとうございます!
書籍版8巻が2月9日に、コミック版3巻は2月8日に発売になります! 書籍版は新規エピソードを追加して、コミック版は書き下ろしSS追加でお送りします。どちらもよろしくお願いします!




