729 『ワンダースリー』の里帰り 2
「……というわけで、王都に戻って来たわけですが……」
「まあ、向こうの大陸に戻るためにはモレーナ王女のところへ行かなきゃならないですから、どうせ王都に戻る必要がありましたからね。
マルセラ様ももう、御実家や領地での用事は済んでいるのですよね?」
「ええ。後は、王都での用事を済ませれば、いつでも向こうへ戻れますわ」
「……では早速、ハンターギルドへ……」
「「「GO!!」」」
* *
かららん……。
お馴染みの、ハンターギルド全国統一規格のドアベルの音が響き、ギルド職員とハンター達の視線がドアの方へと注がれ……。
「「「「「「『ワンダースリー』!!」」」」」」
久し振りの、ハンターギルド王都支部への顔出しである。
エクランド学園時代は、貴族子女の護衛特化で、指名依頼ばかり受けていた『ワンダースリー』は普通のハンター達の間では知名度が低かった。
学園卒業と同時にこの国から離れたため、その後もマルセラ達のことを『親の職場に遊びに来ていた、ギルド職員の子供』程度に思っていた者は多かったのである。
しかし、あの対異世界侵略者絶対防衛戦において大陸中にその名を轟かせ、皆がお近づきになりたいと思った時には、既にマルセラ達がギルド支部に顔を出すことは殆どなくなり、手の届かない存在となっていた。
……その『ワンダースリー』が、顔を出した。
職員、ハンターを問わず、ギルド中がざわつくのも無理はなかった。
「『ワンダースリー』の皆様、本日は何の御用でございましょうか!」
マルセラ達が依頼ボードへ向かうより早く、少し役職が上らしき男性が、職員達の後方から凄い速さでシュババババ、とシュバってきた。
エクランド学園時代も、格下の方とはいえ貴族子女の多くが通う学園の生徒であり、貴族であるマルセラを含む『ワンダースリー』は比較的丁寧に対応してもらっていたが、こんなにVIP扱いされるようなことはなかった。
基本的にハンターというものはがさつであり、ギルド職員も窓口の受付嬢を除き、そんなに丁寧な敬語を使うわけではない。
……しかし、どうやら今の『ワンダースリー』は、特別待遇のようであった。
まあ、王宮が国威高揚のために、モレーナ王女と共に2本柱の神輿として担ぎ上げて宣伝に努めた『ワンダースリー』である。そのハンター登録を行い、Cランクになるまで育て上げた支部となれば、……アレである。色々と、美味しいことがあったのであろう……。
また、市井に流れる噂として、『マルセラ様が王太子妃になられるのではないか』、『お供のふたりも、貴族家の養女に、そしてその後高位貴族に正妻として迎えられるのではないか』と囁かれているのである。
この支部に所属する下級貴族のハンターが、王太子妃、そして後に王妃に。
そして、平民出身のハンターふたりが、高位貴族の正妻に……。
……もう、女性ハンター達の夢、満開である。
そしてそれは、この王都におけるハンター志望者の増加を招き、更に職員達の給金増額、上からの評価向上へと繋がる。
なので、この職員の『ワンダースリー』に対する態度は、既に王妃殿下や貴族家の当主夫人に対するかのような腰の低さなのである。
(((あ〜〜……)))
そのあたりのことを、一瞬で悟った、『ワンダースリー』の面々。
以前と全く態度の変わらない者もいれば、あからさまに態度を変えて、もみ手で擦り寄ってくる者もいる。
でも、マルセラ達は別にそれを気にしたりはしない。
……慣れた。
ただ、それだけのことである。
「あ、いえ、そろそろ依頼を受けないと、ハンター資格の維持が……」
「「「「「「ああ!!」」」」」」
職員もハンター達も皆、マルセラの言葉に、ポン、と手を打って納得の声を漏らした。
資格維持のための依頼は、別にわざわざ王都に来なくても地方で、……マルセラの領地の近くとかで受けても構わないのであるが、そこはやはり、同じハンター仲間である。
少しでも面白い依頼を受けたいし、人脈や土地鑑のある町で受けた方が便利だし安全である。採取依頼も、討伐依頼も……。そういったことが、皆、よく理解できるのであった。
なので、『ワンダースリー』がわざわざ王都で依頼を受けようとしたことを疑問に思う者は、ひとりもいなかった。
「ですから、私達にはお構いなく!」
バッサリとそう切って捨てたマルセラに、なおも縋り付こうとした職員であるが、周りの者達が制止した。
(以前は、こんな方はおられませんでしたわよね?)
(他の支部から異動された方ではないでしょうか? それで、何か手柄を欲しがっているとか……)
(他の職員の皆さんは、きちんと職責を守っておられるのに……)
自分達だけでひそひそ話をしているが、少女の声はよく通る。
なので、マルセラ達の『仲間内での話』は、かなりの範囲に亘って聞こえていた。
……勿論、わざとである。
『ワンダースリー』も、それくらいの小技は使うのであった。
* *
「あまり面白い依頼はありませんわね……」
依頼ボードを眺めながら、少し不満そうにそんなことを溢すマルセラ。
いくら王都とはいえ、そうそう面白くて実入りの良い依頼があるわけない。
もしあったとしても、それは高ランク用のものであったり、依頼票が貼られた瞬間に奪い合いになるに決まっている。こんな中途半端な時間に残っているはずがなかった。
「仕方ありませんよ。何か適当に見繕うか、何も受注せずに出て、常時依頼の間引きや採取を適当に……」
「ああっ、あなた達!!」
モニカの言葉を遮って、ギルド内に響いた声は……。
「え? モレーナ王女……」
「モレンですわよ! モ、レ、ン!!」
今度は、マルセラの言葉が遮られた。
……仕方ない。これは、マルセラが悪かった。
ハンターギルドに現れた時は、王女ではなく、『ワンダースリー』に名前だけは登録されている新米ハンターの、モレンなのだから。
いくら、全ギルド職員と、ハンターの大半がその正体を知っているとはいえ……。
とにかく、今現れたのは、『モレン』としてたまにハンター活動を行っている、モレーナ王女であった。
「王都に戻ったのに、私のところに顔を出さずに、こんなところで何をしておりますの!」
ハンターギルド支部を、現地で、しかも大声でこんなところ呼ばわりするのは些か問題があるが、さすがにモレンに文句を付ける者はいなかった。
「い、いえ、私達は今、王都に戻ったところで……。
それに、もしモレー……モレン様のところへ直行していたら、ギルドへ向かわれていたモレン様とは行き違いになっていましたわ」
「うっ……」
マルセラの正論に、言葉に詰まるモレンであった……。




