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723 シェララの暴走 2

 シェララが古竜の里から真っ直ぐ自分の里へと向かい、マイルが王都へと戻り、……そしてこの大陸の情報を集めていた狐獣人に現状……シェララが既に帰ってしまったこと……を伝えたところ、狐獣人が床にくずおれて動かなくなってしまった。


 さすがに気まずくなって、当面の生活費の提供と、ハンターギルドに登録するための案内を申し出た、マイル。

 あまりの惨状に、ポーリンですら、クランの予算から支援金を出します、と言いだしたくらいである。

 ……それくらい、狐獣人の様子は悲惨であった。背中がびく、びくと震えているのは、多分、泣いているのであろう……。


 しかし、2日後に他の獣人を乗せたケラゴンがやって来て、狐獣人の時と同じ手順で『赤き誓い』に接触。狐獣人は、無事に村へ戻れることとなった。

 ケラゴンの話によると、半狂乱になった氏族長の命令で古竜達が手分けしてシェララの捜索に出ており、あの仔竜ウェンスや青年竜ベレデテス達も大陸中を飛び回っているらしかった。

 そして、『赤き誓い』をこちらの大陸へ運んだことをシェララに話したことを思い出したケラゴンが、念の為にと、こちらへ確認に来たというわけらしかった。


「……惜しかったですね、ケラゴンさん。もう少し早ければ、美少女のシェララさんを連れて帰って、氏族長さんに褒めてもらえたかもしれなかったのに……」

『……いや。いやいやいやいや! 私の話がシェララ様出奔の原因だと言われて、怒られるに決まってるじゃないですか! あああ、どうしよう……。

 ほとぼりが冷めるまで、こっちに居ようかな……。10年くらい……』


 それを聞いて、さあっと青ざめる、獣人達。

 怒られるのが嫌、という程度の理由で、愛する妻子とそんなに長期間離ればなれにされては堪らない。

 そして、マイルはともかく、他の者達は獣人達の心情をちゃんと察してくれていた。


「……すぐに帰りなさい!」

「「「「「帰りなさい!!」」」」」

 ケラゴンとはまだ面識の浅い『ワンダースリー』も、声を揃えてそう口添えしてくれ、目尻に感謝の涙をにじませる獣人達。

 そして、慌てて自分もこくこくと頷く、マイル。


『赤き誓い』と『ワンダースリー』に紳士的に振る舞ってくれるケラゴンであるが、ケラゴンが本当に自分と対等、いや、自分より上の存在として認め、尊敬しているのは、マイルだけなのである。

 その他の者達は、あくまでも『尊敬する者が飼っている、下等生物』に過ぎず、マイルが大切にしているから自分もそれを尊重する、という程度に過ぎない。


 それに対して、ザルムは『みんな可愛い、小動物』という扱いなので、ザルムの方がマイル以外の者にも配慮してくれるのである。

 ……まあ、とにかく、ケラゴンにはマイルが頼まないと駄目、ということである。


『……そ、そうですか? 仕方ないですか……』

「あ、この狐獣人の人も、一緒に連れて帰ってあげてください!

 シェララさんが乗せて帰るのを忘れちゃったんですよ。これって、連れて帰ってあげる責任がありますよね、同じ里の大人として……」


 今度もまた、乗せるのを忘れて帰られては大変である。

 そのため、皆がいる時に大きな声で言うことにより、全員をリマインダー代わりにしようという、マイルの魂胆である。

 これで、ケラゴンが狐獣人を乗せずに『では、失礼します!』とか言って飛び立ちそうになれば、誰かが慌てて引き留めてくれるであろう、と、マイルなりに知恵を絞ったものと思われる。




 そしてその後、なかなか帰りたがらないケラゴンを何とか説得し、獣人達を背に乗せて帰路に就かせたマイルであった……。


     *     *


『来たわよ』

「来たああァ〜〜!!」


 ティルス王国、ブランデル王国、そしてアルバーン帝国の、3国が接する場所。

 そこにある、御使いマイル様の神殿に、ある日やって来た。

 ……ソレ(・・)が……。


「「「「「「こ、古竜……」」」」」」

 そして、人々はパニックに、……ならなかった。

 あの、『対異次元世界侵略者絶対防衛戦』においてヒト種・亜人連合軍と共に戦ってくれた古竜達に対して、以前からの畏怖と尊敬の念はそのままに、ある程度の親近感、仲間意識が加わり、恐怖心が少し和らいだこと。

 ……そして、この神殿には、既にケラゴンが何度か訪れており、ここの者達はある程度古竜の訪問には慣れているからである。


 迎えたマイル001も、他のナノマシン達から古竜接近との事前連絡を受けているし、西の新大陸での出来事もナノネットでリアルタイム視聴していたため、事情は全て把握している。

 なので、このリアクションは、ただ驚いた振りをしているだけである。


『アンタが、御使いマイルね。ちょっと聞きたいコトがあるんだけど……』

 ケラゴンから説明を受けているため、マイル001が偽物であるとかのマズい発言をすることなく、うまく設定通りに話を進めてくれている、シェララ。

 本当はふたり……ひとりと1頭……で内緒話をしたいところであろうが、古竜の図体でヒソヒソ話ができるわけもなく、大勢に聞かれることを承知で話すしかない。


『聖女マレエット、っていう幼生体は、どこにいるのかしら?』

「…………」

 マイル001は、事情を全て知っている。

 なので、マイルの大切な友人であるマレエットを売る(・・)、ということに対して、複雑な思いを……。


「ああ、マレエットちゃんなら、ティルス王国の王都にある、アウグスト学院というところにいますよ。学校……、大勢の子供達がいる、まなです。

 住んでいるのも、その敷地内にある寮ですから、ともかく学院に行けば会えると思いますよ。

 方角は、あっちの方です」


 ……全く抱くことなく、簡単に売り飛ばした。

 あくまでも、ナノマシン達にとって大切なのはマイルだけであり、他の者達はそう重要視しているわけではないようであった。


 ……勿論、それでもマイルが大切にしている者達を護ろうとはしてくれるが、シェララの訪問に関しては、『危険なし。万一の時には、介入してフォローする』、『面白い事態、笑える事態になる可能性あり。期待度、大』ということで、わくわくしながら王都の方向を指差す、マイル001であった。

 そして、更に……。


「アウグスト学院は、王都のほぼ中心部にある王城から、正門の反対方向へ少し行ったところにある、少し大きな池と広場がある塀に囲まれた場所ですよ。着陸するなら、その広場に、そっと降りてくださいね。あまり強い風を起こさず、地面をヘコませないように……」

 マイル001、至れり尽くせりの、大サービスである。


『任せて! そのあたりは、ザルム様にちゃんと教わったから!』

 そして、聞くべきことは聞き終えたとばかりに、即座に上昇し、……そして羽ばたいてティルス王国の王都方面へと飛び去った、シェララ。


【少女竜は、マイル神殿を飛び立ち、アウグスト学院へと向かった。後の実況中継は、マレエット殿の専属の者達にお願いする】

《マレエット殿専属チーム、了解!》


 そしてナノネットでマイル001から連絡を受けたマレエット専属ナノマシン達が、面白そうなコト(・・・・・・・)がやって来ると知り、歓喜の声を上げるのであった……。



先週の金曜、『のうきん』書籍21巻が刊行されました。

紙の本でも電子書籍でも、お好きな方で、よろしくお願いいたします!(^^)/


書店特典等は、前話のあとがきに書いてあります。

電子版にも、特典SSが付いています。

また、SQEXノベルの公式サイトにも、SS(『男 装』)が掲載されています。


今夜はみんなで、パーリナイッ!!(^^)/

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― 新着の感想 ―
小竜の元飼い主とナノマシン製作者が知ったら激怒しそうな所業だなぁ………
シェラ劇場、続く! マレエットちゃんの悲報。笑。
ナノマシン達にとっては、面白そうなことが在ればそれでいいんだな。判ってたけど。 さてマレエットちゃんはどう対応するかな? 彼女は、赤き誓い、W3ほど描写が多くないからな。
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