646 ポーリン、そしてレーナ 1
あの後、無事目的地である町へ到着した、商隊一行。
商人から感謝の言葉とAランク評価の依頼達成証明書、そして帰路の路銀の足しにと心付けを受け取り、笑顔のワンダースリープラスワンと、おっさんトリオ。
普通であれば全滅間違いなしという狼の襲撃を、人的被害ゼロ、馬車も積み荷も無傷で乗り越えるという、あり得ない成果を上げたのである。
もしこれでA以外の評価であれば、依頼達成報告を聞いたハンターギルドの職員が怒鳴り込んできてもおかしくはない。
別に評価が報酬額に影響するようなことはないのであるが、ハンターが命懸けで上げた成果を馬鹿にされたとあっては、当事者以上に我慢できないというギルド職員もいる。
そして勿論、依頼人もハンターギルドに無用な喧嘩を売るつもりはないので、文句を言われた場合にはちゃんとその評価の正当性を説明できるよう、自分が正しいと思った評価を付ける。
そして慣例に従って心付けを受け取ったおっさんトリオは、しかし帰路に就くことなく、このままこの町で商人の店で雇われることになったらしい。
名目上は『帰路の路銀の足し』である心付けだが、だからといって『ワンダースリー』にだけ渡しておっさんトリオにはなし、というわけにはいかないので、それも無理のないことであろう。
おっさん達は全員独身の宿屋暮らしで、ちゃんと宿を引き払ってきたため王都に戻る必要はないとかで、『ワンダースリー』にハンターギルドの王都支部に転出の報告を頼んできた。
まあ、その報告だけのために王都まで往復しろというのは酷な話なので、勿論マルセラ達はその頼みを快諾した。
これで、おっさん達が安全で安定した生活を手に入れ、結婚でもして幸せな人生を送れれば、重畳である。
おっさん達は少々歳が行ってはいるが、この世界は人が簡単に死ぬ。
なので、夫に先立たれた女性も多く、安定した職に就けたならば結婚相手が見つかる確率はかなり高いであろう。
……特に、無関係の少女を助けるために、飛び掛かる狼の前に立ち塞がることができるような男であれば……。
そのエピソードは、おそらく商人が広めてくれるに違いない。
* *
王都への帰路。
夜営のテントの中で、簡易ベッドに潜り込んだポーリンが、思考の海に沈んでいた。
(……強い……。魔法の威力が、とかではなく、『戦い』ということに関して……。
私達『赤き誓い』のように、ただ個々の力が強いだけというわけではなく、戦い方、そしてチームワークによって……。
これって……)
ポーリンの頭の中に、とあるCランクパーティの姿が浮かんだ。
(『女神のしもべ』と、同じ……)
そう。
普通のハンターは、ひとりで魔物の群れを蹴散らせるような者は、滅多にいない。
だからパーティを組み、互いに助け合い、護り合って生き延びる。
しかし、ポーリン達『赤き誓い』は、個々の力が強すぎた。
それは決して悪いことではないが、そのために普通のパーティとは違う戦い方が形成されてしまったのである。
……個人の戦闘力に依存した、力押し。
それは、強くはあっても、いつか足を掬われる時が来る。
以前レーナが気付き、危惧したことに、ポーリンも気付いたのである。
(『ワンダースリー』は、個々の力が強いのに、『女神のしもべ』のような戦い方をする。
……そして、マルセラの指揮能力……。
私達は、戦闘中の指揮はレーナかマイルちゃんが執るけれど、マイルちゃんは前衛だから戦い全体を把握して指示を出すのは配置的に難しいし、レーナは魔法詠唱をしている時は指示を出せない。
レーナの魔法は『赤き誓い』の攻撃手段として、必須。それを疎かにして指揮に注力するわけにはいかない。
ということは、後衛であり戦域全体を見回せて、攻撃力が低く支援魔法や治癒魔法が得意な私が指揮を執るのが最適。
……しかし、私には戦いの指揮を執る才能は皆無だし、魔法詠唱をしながらでは、とてもそんな余裕はない……。
どうしてマルセラは、魔法を撃ちながらあんなに指揮ができるの?)
ポーリンは、自分達がマイルに教わったのは『口には出さず、頭の中で詠唱する』という『なんちゃって無詠唱』であり、マルセラ達『ワンダースリー』が教わった本当の無詠唱魔法、『詠唱を全く必要とせず、イメージだけで発動する魔法』とは完全に別物であるということを知らないため、その理由に気付くことができない。
(そして、戦いが終わった後に、怪我した人の治癒を私に任せたのも、おそらく私の出番を作るための気遣い……。
マルセラ達も、私と同じ……、いえ、それ以上の治癒魔法が使えるはず。
……というか、事実、戦闘の合間に上級治癒魔法を使っていた……。
なのでおそらく、私が役に立てず、落ち込むのを防ぐために、戦いが終わって安全になってから、わざわざ私に役割を振ってくれた……)
戦いが終わったばかりで、まだ気が動転しているであろう時に、そんな気配りができる、余裕と優しさ。
(……敵わない……)
そして、時々街道から外れて狩りをして、獲物を丸々収納に入れ、王都へと帰還した『ワンダースリー』とポーリンであった……。
* *
「「「ただいま~!」」」
「「「おかえり~」」」
帰ってきたマルセラ達の元気な挨拶に返事をした、『赤き誓い』の居残り組であるが……。
(((あ~……)))
挨拶の言葉を口にせず、どんよりとした様子のポーリンを見て、概ね察した。
そして、今は余計な言葉は掛けない方がいいと判断して、何も気付かない振りをしてスルーした。
さすがに、マイルですら空気を読んだのは驚きであった。
* *
そして数日後。
「次の『ワンダースリー』の遠出には、私が一緒に行くわ」
「「え?」」
レーナのその言葉に驚いたのは、マイルとメーヴィスだけである。
マルセラ達は、別に何とも思っていない様子。
ただの、クラン内の交流。
勉強のために他のパーティに同行する。
何のおかしなこともないし、事実、少し前にポーリンが実践したばかりである。
逆に、マイルとメーヴィスがそんなに驚いている方がおかしいのである。
「ええ、大歓迎ですわよ。レーナさんには、大火力の攻撃魔法について学ばせていただきたいと思っておりましたの!」
マルセラの言葉に、こくこくと頷いて同意の念を示す、モニカとオリアーナ。
レーナもまた、『ワンダースリー』から学びたいことがあるのであろう。
そして数日後に、特に依頼は受けず、常時依頼である討伐対象の魔物と、肉や毛皮等の納入素材狙いの、2泊3日の森の深部行きを決行した『ワンダースリー』と、それに同行したレーナ。
これは、収納魔法ということにしているアイテムボックスを持っているからこそ可能なことである。
……普通は、武器や防具に加えて、3日分の飲食物や夜営道具を担いでいくだけでも大変なのに、更に獲物を担いで帰るなど、成人男性ですら大変なのである。
とても、少女達にできるようなことではない。
普通は、討伐証明部位であるゴブリンの耳を持って帰るとか、高値で売れる稀少な薬草とかを持ち帰るのが精一杯である。
しかしそれも、大容量の収納魔法持ちというアドバンテージがある『ワンダースリー』にとっては、どうということのない行動であった……。




