631 本格始動 4
「だから、マイルが入ってちゃ駄目でしょうが!」
「いえ、『赤き誓い』も、この街の人達から見れば、マイルさんの収納魔法のおかげで地方都市のギルドマスターが無理矢理Cランクに上げたパーティと認識されていますから、同じ理由でCランクになりました『ワンダースリー』に一時的に加入されましても、大した違いはありませんわ。
『赤き誓い』も、少し前に最低ランクからCランクに特別昇級されたばかりなのでしょう?
他の皆さんが休養されている間に旧交を温めているとか、御自分の訓練のために参加されているとか、他のパーティのやり方を勉強するためとか、そんな感じに受け取られると思いますわよ」
「……あ、それもそうか……。確かに、収納持ちの私が勉強させてもらうには、同じ収納持ちがいるパーティが最適ですよね。
あ、でも、そうするとその間、レーナさん達が……」
「ああ、それは大丈夫だよ。忘れたのかい、私の収納魔法のことを……。
さすがにマイルの要塞浴室と要塞トイレは無理だけど、普通の浴槽や腰掛け式の便器、目隠し用の衝立、炊事道具や食料、寝具やテントとかは運べるよ。狩った獲物とかもね。
マイルと違って時間停止機能はないけれど、まあ、お互い日帰りの仕事しか受けないだろうから、傷むものはここへ戻ってすぐにマイルの方に移せばいいだろう?
そして後日、『赤き誓い』が狩った獲物として買い取り窓口に出せばいい。
そもそも、マイルが『ワンダースリー』と行動を共にすることをわざわざギルド支部に届ける必要もないしね。
通常依頼ではなく、常時依頼の素材納入なら何の問題もないだろう?」
「それもそうですね。臨時編成の時に届けるのは、報酬の分配や功績ポイントの配分とかで揉めないように、というためのものですから、私達『赤き誓い』と『ワンダースリー』であれば、そういうのはあまり気にする必要はありませんよね」
珍しく、お金絡みの話なのに、ポーリンがメーヴィスに賛同してそんなことを言い出した。
「それで、残った私達3人は全員が『赤き誓い』のメンバーですから、私達の稼ぎは『赤き誓い』のものに。そしてそちらは『ワンダースリー』とうちのマイルちゃんの合同チームですから、そちらの稼ぎは『ワンダースリー』単独のものではなく、両パーティの共同の稼ぎとして、クランの共用資産となりますよね? 共通の支出先である、家賃とか食材費、光熱費とかの支払いに使うための財布である、共用資産に……」
「「「「「「……え?」」」」」」
さすが、ポーリンである……。
言った本人以外の全員が、驚愕の声を漏らした。
「……ポ、ポーリン、さすがに、それはちょっと……」
「ポーリン、あんた……」
そして、ドン引きのメーヴィスとレーナ。
「ポーリンさん、そこは、どちらもそれぞれのパーティ資産の方へ……」
さすがに、マイルからも反対意見が出た。
昔と違い、今はお金に困っているわけではないというのに、ポーリンは相変わらずであった。
これはもう、そういう習性なのであろう……。
お金には余裕があるのに、閉店間際に惣菜物を半額でゲットするのを趣味として楽しんでいる連中と同じような感覚なのであろうか。
マルセラ達は、別にお金に不自由しているわけではなく、マイルと一緒に行動できるのであればそんなことはどうでもよかった。
共用の資産はクランのために使われるものであり、『赤き誓い』の資産というわけではないし……。
「ポーリン、そんなことを言うと、これから先、少しでも『ワンダースリー』の誰かが関わった『赤き誓い』の仕事の収益は、全部共用資産になるわよ。
互いの勉強のためにメンバーを入れ替えた時の稼ぎも、大きな依頼を共同受注した時の報酬も、全部ね!」
「うっ……」
ポーリンは、レーナから痛恨の一撃を受けた。
「……わ、分かりました……。今の話は、なかったことに……。
そっちの稼ぎは人数で割って、4分の1をマイルちゃんに渡してください」
ポーリンは、『ワンダースリー』より自分達『赤き誓い』の方が圧倒的に稼ぎが多いと思っている。なので、レーナが言ったようになるのは困るのであった。
共用資産はこういう拠出の仕方ではなく、必要な額を人数で割って、という案もあったが、そうなると人数がひとり多い『赤き誓い』の拠出額が多くなると思ったポーリンが『共同で仕事をした時の稼ぎで』と主張したため、お金にはあまり拘らないみんなが『それでいいよ』と了承したのであるが、そのせいで何だかややこしくなり、気苦労が増えてしまったポーリン。
……セコ過ぎる。あまりにもセコ過ぎて、レーナ達は突っ込む気にもならなかった。
旧大陸には領地と領の資産だけでなく、自分の商会や個人資産も持っており、金持ちなのに。
そして、もし一文無しになったとしても、ポーリンであればその世界最高峰の治癒魔法で貴族、王族、その他の金持ち達からいくらでもお金を稼げるのに……。
なのに、どうしてここまでお金に拘るのか……。
これはもう、必要があってお金を貯めようとしているのではなく、完全に『お金を貯めるのが生き甲斐』になってしまっているのであろうか……。
「ポーリンさん、お金は使ってナンボ、ですよ。タンスの中や地中に埋めた壺の中の金貨は、世の中に全く貢献しない、死に金です。
手に入れたお金は、活かさなきゃ駄目です。商売に使うのでもいいし、ただ無駄に消費するだけでも構いませんから、とにかく世の中に放出して経済を回さなきゃ……」
「ぐっ……」
ポーリン、お金や商売のことでマイルに言い込められて、悔しそうである。
「まあ、そういうわけで、数日間マイルさんは私達『ワンダースリー』と御一緒して戴きますわね。
よろしいでしょうか?」
「……まぁ、あんた達にとっちゃあマイルと一緒にハンター活動を、っていうのは悲願だったのでしょ? そのためだけで安全な生活を投げ捨ててハンターになったらしいし……。
別にいいわよ、それくらい。
というか、そうできるようにとクランを結成したわけだし……。
そもそも、マイルのその様子を見たら、止められないでしょ」
……そう。マイルは、餌の容器を前にしたチワワのような顔をしていた。
* *
「遂に、この日が来たのですね……」
「はい。アデル……マイルちゃんと一緒に、冒険の旅に出る日が……」
「マイルがいなくなり、そして私達が必ず後を追いかけて再会すると誓った、あの日の夜……」
「「「ううううう……」」」
「うわ〜〜ん!」
『ワンダースリー』プラスマイルの4人で王都近くの森に入った途端、急に湿っぽい話を始めたと思ったら、急に涙ぐみ始めた『ワンダースリー』の3人。
勿論、それを聞いたマイルが泣かずにいられるはずがない。
Cランクハンターたる者が人目のある場所でそんな姿を晒せるわけがなく、そしてあまり森の奥へ入り込んだ後では、魔物による危険があるため、そんな隙は見せられない。
なので、泣くならこの場所しかなかった。
そして、しばらく皆で抱き合って泣き続ける、4人であった……。
「……では、仕事に掛かりましょう!」
「「はいっ!」」
「早っ! 皆さん、切り替えが早っ!!」
マルセラ達のあまりに早い通常モードへの切り替えに、驚くマイル。
「こうでないと、戦いに関しては凡人である私達は生きていけませんわよ」
マルセラの言葉にこくこくと頷くモニカとオリアーナであるが……。
「いえ、絶対違いますよね? 皆さん、結構図太くてしたたかですよね!」
マイルは、その言葉を全く信じていなかった。
11月9日(木)に、拙作『ポーション頼みで生き延びます!』のコミックスである、『ポーション頼みで生き延びます! 続』の2巻が刊行されました。
これは、九重ヒビキ先生によるコミックス『ポーション頼みで生き延びます!』1~9巻の続きであり、実質的には本編コミックスの11巻に相当するものです。
園心ふつう先生による、本編コミカライズの続き。
よろしくお願いいたします!(^^)/
そして、現在発売中である、小説版のイラストを担当していただいております、すきま先生によるスピンオフコミック『ポーション頼みで生き延びます! ハナノとロッテのふたり旅』1巻も、併せてよろしくお願いいたします!(^^)/




