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613 王都へ 2

「抱き付くなあァ!!」

 床に膝をついたギルドマスターに、腰のあたりに手を回すような形で抱き付かれ、必死に振りほどこうとするが、なかなか抜け出せないレーナ。

 スタッフでゴツゴツと頭を叩いても駄目である。


「このっ! このっ! ……あ、そうだ!」

 何やら名案が浮かんだらしく、にやりと笑うレーナ。

「私は、ただのヒラメンバーよ、何の決定権もないわ。リーダーは、あっちの、メーヴィスよ!」

「「……え?」」

 レーナの叫びに、声が揃ったギルドマスターとメーヴィス。

 そして、ギルドマスターの縋るような目が、メーヴィスに向けられた。


「レ、レレレ、レーナ、そっ、それはないだろう……」

 私を売ったな、と言わんばかりの、驚愕に大きく目を見開いたメーヴィスの顔。

 そして、メーヴィスに向かって飛び掛かるギルドマスター。

 レーナの杖と違い、さすがにメーヴィスは剣を使うわけにはいかない。

「くっ、来るなああぁ〜〜!!」


     *     *


「……しっ、失礼いたしました……」

「本っ当に、失礼でしたね。人前で女性に抱き付くなんて……。

 いえ、人前でなければ抱き付いてもいいというわけじゃありませんけど……」

 抱き付かれた当事者が言うと角が立つからか、ポーリンが言葉を返したのであるが……、あまり変わらなかった。


 しかしそれでも、かなり怒っているらしきレーナとメーヴィスよりはマシであろう。

 レーナはともかく、珍しいことに、あの温厚なメーヴィスまでもが、かなり怒っているのである。

 メーヴィスは独身の貴族の女性なので、もしあれが家族の前とかであれば、怒り狂った父親と兄達によってギルドマスターはその場で斬り捨てられていたであろう。

 ……貴族の女性に対するあのような行為は、それだけの暴挙であった。

 勿論、相手が貴族ではなく平民であれば構わない、というわけではないが……。


 そして、相手が商業ギルドの職員であれば、パワハラ、セクハラとしてギルド内部の問題となるが、『赤き誓い』はハンターであり、そしてハンターギルドを通さずに直接商業ギルドに納品したこともある『お客様』であり、取引相手である。

 そのあたりをじっくりと責め立てるポーリン。


「すっ、すみませんでしたあァ〜!」

「じゃあ、誠意を見せてもらいましょう……、って、違いますよっ! 今日は取引に来たんじゃないですから、マウントを取って優位に立つ必要はないのでした!」

 ポーリンのその言葉に、何じゃそりゃあ、と思う者と、ほほぅ、と感心する者とに分かれた、居合わせた商人達。


 しかし、ギルドマスターの醜態は、商業ギルドと、自分達、この町の商人のために必死になってくれた結果である。

 なので、それを笑う者はいない。逆に、皆の利益のために自分の子供くらいの年齢の小娘達に頭を下げられるギルドマスターは、皆からの評価と信頼を大きく上げることとなった。

 だが、当のギルドマスター自身は、皆の前で醜態を晒すくらいならば、自分の部屋に呼んだ方が良かった、と後悔していた。


 どうやら、ギルドマスターが『赤き誓い』を自室に呼ばず自分の方からやってきたのは、作戦のひとつであったらしい。

 自室であれば自分ひとりで説得しなければならないが、ここであれば、他の職員や居合わせた商人達も味方してくれる。そう考えたわけであろう。

 まあ、その考えは間違ってはいないが、上を目指す若手ハンターが、自分が所属しているわけでもない組織からの営利目的の要望や、金儲けが理由ですがる無関係の商人達のために夢を諦め、将来を棒に振ることを良しとするかどうかとは、無関係である。


     *     *


 その後、ギルドマスターだけでなく、職員や商人達にも散々縋り付かれた『赤き誓い』であるが、勿論、それくらいのことでほだされることはない。

 これが子供の命がかかっているとかであれば話は違うが、今回かかっているのは、商人達の金銭欲だけである。


 今はもう『商家の娘』ではなく一人前の商会主となっているポーリンだけは、商人達の気持ちがよく理解できた。

 ……しかし、勿論、他人が儲けるために自分達が不利益を被ることなどポーリンにとっては問題外なので、何らの配慮をすることもなかったのであるが……。

 なので、それらを一蹴して、商業ギルドを後にした『赤き誓い』。


 そしてその後、馴染みとなった食堂や食材店、鍛冶屋等に挨拶し、別れを惜しんだ後……。

「じゃあ、回り道して漁村に寄って、大量の海産物を仕入れてから、王都に向かいましょう。

 別に急ぐ旅じゃありませんから、途中で面白そうな依頼を受けながら、ゆっくり、のんびりと……」

「「「おおっ!」」」

 マイルの言葉に威勢良く応えるレーナ達であるが、地方都市から王都へと向かう道中で、そんなに面白い依頼があるとは思えない。

 しかし、いくら確率が低くとも、期待するのは、本人達の自由である。


     *     *


「「「「「「えええええええ!!」」」」」」

 久し振りにやってきた『赤き誓い』を大歓迎してくれた漁村の人々であるが、王都へ移動すると聞いて、皆、悲嘆に暮れた。

 昔から、たまに魚介類が大好きだというハンターが現れ、しょっちゅう漁村にやって来ることはあった。そして、その後どこかへと去って行くことも……。

 勿論、その中には去って行った(・・・・・・)のではなく、ただ単に二度と(・・・)来られなくなった(・・・・・・・・)という者も含まれるが……。

 なので、村人達もハンターとの別れというものには慣れている。もう、何十年もここで暮らしているのだから……。


 しかし、『赤き誓い』の場合は、違う。

 大漁と、憎き海棲魔物シーサーペントに一矢報いたという証である凱旋旗を掲げるという栄誉をもたらしてくれた、少し発音と言葉遣いがおかしい、田舎出らしき4人の少女達。

 彼女達さえいれば、また、あの輝かしき外海殴り込みの日が……。

 そう考えていた村人達、特に老人達の落胆は大きかった。


 だがそれも、マイルがレーナ達の目を盗んでこっそりと、そのうちまた自分だけで来ること、そして将来的には自分がいなくても大丈夫なようにと鋼鉄船の船体を用意するつもりであること……但し、帆柱や帆布による帆装を含めた艤装は村人達でやること……、そしてそれらのことは『赤き誓い』の他のメンバーには内緒にすること、と伝えたことによって復活、……いや、最初より盛り上がり始めた。


 それも無理はない。

 望んではいたけれど、『赤き誓い』が再び力を貸してくれるかどうかは分からなかったのである。

 それが今、ほぼ次回(・・)があることが確約されたのである。

 そして急に元気になった村人達に、不思議そうな顔をするレーナ達であった。


「……それで、王都へと向かうのですが、できる限りたくさんの海産物を買い取りたいんです。

 魚、貝、海藻類、ナマコやタコ、イカ、何でも買いますよ!」

「「「「「「え……」」」」」」

 驚きに目を剥く村人達であるが、マイルの収納魔法の馬鹿容量は皆知っているし、あの4人の老人達は、おそらくその中では鮮度が保たれるであろうと推察しているであろう。決してそれを口外することはないであろうが……。

 なので……。


「今ある分じゃあ、とても足りねぇ。今から全力で出漁して、今日の夕まずめと明日の朝まずめで掻き集める。女子衆おなごしゅうと子供達には、貝と海藻を集めさせる。

 ……というわけで、今日は泊まってけ! 勿論、夜は送別会で、宴会だ!」

「「「「は、はァ……」」」」


 それは仕方ない。

 いくら漁村だといっても、生ものの保存技術もないのに、常時大量の魚介類を用意しているはずがなかった。大量注文であれば、数日前に発注しておくべきであった。


「……あ、魚は、前回獲ったやつじゃなくて、別の種類のとか、もっと小さいやつとか、前のとかぶらないのでお願いします」

「「「「「「…………」」」」」」

 いくら4人の老漁師達には察せられていたであろうとはいえ、今のマイルの発言はマズかった。

 それは、マイルが自分達の取り分の大半をまだ売らずに収納魔法の中に残しているということであり、……そして、その魚たちは殆ど傷んでいない(・・・・・・・・)ということなのだから……。

 今、マイルはそのことを、村人全員の前で断言してしまったわけである。

(((マズい!)))

 一瞬焦った、レーナ達であるが……。


「では、皆の衆、準備に掛かるぞい!」

「「「「「「おお〜〜っ!!」」」」」」


(((…………あれ?)))

 村人達の態度は、全く変わらなかった。

 それも無理はない。あの膨大な量の魚と海棲魔物シーサーペントを取り出すのを見た時点で、マイルの収納が規格外であるということは村人全員が知っていた。

 そこに少々オマケが付いても、殆ど変わらない。

 500億円の財産を持つ大金持ちだと思っていた人物の財産が、実は600億円だったと聞いても、ああそう、以外の感想が浮かばないのと同じである。

 誤差の範囲内。常識を超えた、『それ以上』というカテゴリーなので、その枠には上限がない。

 ハンターの、Sランクと同じである。『それ以上』を表す概念がない。


 それに、漁村の者達もハンターの禁忌事項くらいは知っているし、恩人を裏切るような村人はいないであろう。

 特に、秘密を漏らせばもう二度とここへは来てくれないであろうと分かっている場合には……。

 そう、何も問題はなかった。

 何も……。



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・ノンテロップエンディング映像

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・TVアニメ告知ティザーPV

・TVアニメ告知メインPV

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【仕様】

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(「爆誕! ぶちぎレーナ」「ワンダースリーの学園大作戦」「至高の(いただき)を求めて」「パワーアップ」「お披露目」「栗原海里という少女 アデルとい

う少女 マイルという少女」「湖畔のキャンプ」)

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手に何らかのメリットを提示するならともかく「金蔓だから行かないで」って懇願して引き止められるはずがないやん笑
[一言] 織田信長が命じて開発した「鉄甲船」 歴史の謎だが、朝鮮出兵にも用いられ、徳川幕府でも建造したと伝えられる。日本に来た外国人は揃って驚愕の記録を残している こちらの世界にも、遠洋航海に耐える…
[一言] 『……貴族の女性に対するあのような行為は、それだけの暴挙であった。』 まぁ,レーナとポーリンは後付けだけど,今はみんな貴族の女性だったような?
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