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596 外 海 2

延縄はえなわよ~い!」

「「「ヨーソロー」」」


「……え? 海棲魔物シーサーペントを延縄で?」

 疑問に思ったマイルであるが……。

「いやいや、アレはいつ襲ってくるか分からんからな。せっかく危険覚悟で外海へ出たんじゃ、手付かずの漁場がどんなもんか、試してみたいに決まっとろうが!

 海棲の魔物が跋扈ばっこする外海に出て漁をするなんざ、漁師にとっては一生の憧れ、夢なんじゃ。最後にそれを叶えても、バチは当たらんじゃろ!」

「なるほど……」

 そういう、『男の夢と憧れ』というものには、理解があるマイルであった。

 メーヴィスも、うんうんと頷いている。

 勿論、延縄とは言っても、地球のもののように幹縄の長さが数キロメートルとか100キロメートルオーバーとかいうことはない。たかが数十メートルのものが1本だけである。

 というか、現地語では別の名で呼ばれている、全くの別物(・・)なのであるが、日本語において最も近い言葉が『延縄』ということである。

 そして……。


     *     *


「来たァ! ……うっ! イ、イカン、余程の大物か、中型がたくさん食い付いたか……。

 重くて引けん! みんな、手伝ってくれぇ!!」

 1本だけ流した延縄であるが、その1本の幹縄からは多数の枝縄が出ているため、一度にたくさんの獲物が掛かる。

 今回は、しばらく設置してから回収するのではなく、そのままであるが、帆走も漕走もしなければ、設置して待機しているのと変わらない。

 そして、予想外の大物、もしくは大量に掛かったかで、総員態勢の要求が出たわけである。

 なので、老人4人とメーヴィス、マイルの6人で、必死で幹縄を引き揚げる。

 便利な動力巻上機などない。獲物が食い付いていない枝縄のはりに注意しつつ、懸命に……。


 マイルは力はあっても、体重が軽い。そしてここは船上であるため、濡れた甲板は滑るし、足を甲板にめり込ませるわけにもいかない。

 ……つまり、あまり力が発揮できないのである。

 ここでは、機械の左腕にモノを言わせたメーヴィスの方がマイルより遥かに戦力になっていた。

 レーナとポーリンは、最初から戦力外である。近くにいない方が、邪魔にならなくて遥かにマシであった。


     *     *


 僅か数十メートルを巻き上げるだけで、かなりの時間を要した。

 そして今、へばって座り込んでいる老人達の前に転がっている、たくさんの獲物。

 小さいのは30センチ前後、大きいものは2メートル以上ある。

 もっと大きいものもいたが、それは甲板に引き揚げられず、マイルが海中から収納アイテムボックスに直接取り込んだ。


 毒持ちとか不味くて食べられないものは、皮や歯が素材として売れるものを除き、そのままリリースした。

 人間には役に立たない魚も、自然界のバランスの一翼を担っている可能性があるから、意味もなく殺したりはしない。

 ゴブリンとは違うのだから……。


「……ふは。見ろよ、これ……」

「白銀サーモン……、虹色レインボートゥンヌス、マーリン……」

「こんなデケぇ虹色レインボートゥンヌスなんか、何十年振りに見るかなぁ……」

「最後に、こんな漁ができるたぁ……」

「「「「我が漁師人生に、一片の悔いなし!!」」」」


「あの~、盛り上がってるとこに悪いんですけど、今日の目的は普通の魚の漁じゃないんで……」

 そう、ちゃんと船のチャーター料、人件費に危険手当まで付けて、前払いで支払い済みなのである。

 生還の確率が低いからと、それらは家族に渡されている。

 家族達は、涙を流してはいたが、誰も老人達を止めようとはしなかった。

 おとこの花道、自分の死に場所を見つけた老人を止めることはできない。

 皆、そう思ったのであろう。

 ここはそういう世界であり、そして漁師の村なのだから……。


「餌や獲物の血がかなり流れました。そろそろ来る頃だと思います。

 皆さんは、隅の方に固まって防御態勢を。

 レーナさん、ポーリンさん、戦闘用意です!」

 そう言いながら、老人達の感慨用にと甲板に残しておいた獲物や延縄、その他の邪魔になるものを全て収納し、甲板上をクリアにするマイル。

 そして選手交替、隅っこの場所を老人達に譲り、甲板の中央へと進み出たレーナとポーリン。


 小さな漁船とはいえ、甲板部分は小柄な少女4人が戦えるくらいのスペースはある。

 特に、敵も甲板上にいて戦うわけではなく、海中から身体を乗り出してくる敵を叩くだけであるし、剣を振り回すのはマイルとメーヴィスだけ、レーナとポーリンは殆ど動かず、手足を振り回すわけでもないため、余裕であった。


「……来ます、右舷2時、30メートル! 深度は10メートル!」

 当然ながら、今回は探索魔法を使っている。

 でないと、水中からの敵襲が奇襲になる。

 ……老人達を死なせることも、船を沈められることも許容できない。

 船底に穴を開けられる前に、敵を倒す。

 普通にウネウネしたやつならばともかく、カジキのような尖ったやつで、しかも木板を貫けるような強度を持つヤツは、マズい。


 なので今回は、マイルは老人達の護衛と、探索魔法により船底へと向かう敵を探知したらバリアを張る、という役割を担っている。

 バリアはレーナも張れるが、マイルのような器用なことはできず、自分と周囲の者を囲める程度であるが、それでも充分である。

 ……但し、バリアを張ると内側からも攻撃できないし、バリアの魔法をホールドしていると、他の魔法が使えないため攻撃に参加できない。

 そのため、敵に押されて危なくなるまでは、レーナはバリアを使う予定はない。


「この大陸に来る時に会ったヤツなら、問題ないのですが……」

 マイルがそう言うが、海棲魔物(シーサーペント)というものは全身が見えることは少なく、数少ない生存者の証言も不確かなため、きちんとした分類がなされていない。なので、『海棲の、細長くて巨大な魔物や怪物』は、その多くが『海棲魔物(シーサーペント)』と呼ばれるため、会ってみないとどんな相手か分からないのである。

 あの時の、あまり大きくない海蛇モドキであればいいが、地球における東洋の龍だとか、ヨルムンガンドみたいなヤツだと、さすがに『赤き誓い』の手に余る。


 昔は文明が進んだ世界だったのだから、あまりにも常軌を逸した、神話の世界のような怪物はいないだろうとは思うマイルであるが……。

(……でも、古竜(・・)がいるしなぁ……。

 それに、昔の異次元世界からの侵略で海棲の魔物も来たのだろうから、その時の生き残りや子孫がいても、不思議じゃないか……。

 そう、海棲の長命な魔物とか、変化の少ない海中でひっそりと繁殖を続けた巨大生物とか……)

 そんなことを考えていても、マイルはちゃんと自分の仕事はこなしていた。


「敵、急速浮上! 船底は避けて、両舷から飛び掛かると思われる!

 迎撃用意! 5、4、3、2、1、今!!」

 ばしゃあ、という水音と共に、左右両舷から空に伸び上がる、数本の細長い身体。

 その尖端部がくいっと曲がり、船上の人間エモノ達へと襲い掛かる。

 そして、『赤き誓い』と老人達の戦いが始まった……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 延縄・・・はえなわってこんな漢字なんだと初めて知りました(笑) そういや、昔、青少年の家のお手伝い?で地引網の手伝いしたことあるんです。地元の漁師さんに舟出してもらって、地元の人たちのご協力…
[気になる点] >その尖端部がくいっと曲がり、船上の人間エモノ達へと襲い掛かる。 >そして、『赤き誓い』と老人達の戦いが始まった……。 いつもなら、ワクワクする、次話への引きなんでしょうが、今回に限れ…
[一言] でも考えてみれば、ザ・グリードに出てきたオクタルスみたいな奴が現れても、主人公達が相手では海洋パニックホラーにはなりえんやろうなぁ(笑)。 右舷(うげん・みぎげん) あ、やっぱり作者さん…
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