562 追 跡 6
あれから、モレーナ王女からの連絡がないかと、毎日50回くらい収納魔法の中を確認しているエストリーナ王女であるが……。
ある日、エストリーナ王女が『収納魔法』の中身を確認すると、手紙というか、1枚のメッセージカードが入っていた。
大急ぎでそれを取り出し、読んでみると……。
『収納に入れて保存しておいた、私のおやつがありませんわ! エストさん、あなた、まさか……』
「ま、マズいですわ! すぐに返事を出さねば!」
『新しいものが入っていましたから、取り出して確認したのですが、その、あまりにも美味しそうでしたので、つい……。ごめんなさい! お詫びに、明日の私のおやつを入れますから、食べてくださいまし……。
明日のおやつは、うちの特産品であるパインを使ったものでしてよ。確か、モレーナ様の国では滅多に手に入らないとおっしゃっていましたよね……』
「よし、これで大丈夫ですわね。
……あれ? また手紙が? 謝ったでしょうが! しつこいですわよ、モレーナ様!!
何々……」
『……あ! もし、もしもですわよ? 私がこちらでエストさんのお国では高く売れるものを私費で買い、ここに入れれば……。そして、エストさんがそれを売り、そのお金でこちらでなら高く売れるものを買って、入れていただけば……』
「……! そ、それは……。も、もしや、互いに自国では地金としての価値しかない相手国の金貨ではなく、商品で遣り取りすれば、両替による金銭ロスなく差額で荒稼ぎできると?
……いや、確かに……。
モレーナ様は、自国では香辛料は馬鹿高いけれど蜂蜜はそんなに高くないとか言われて……、いやいや、そのようなレベルではなく、金や宝石、高価な工芸品等で、こちらと向こうでの価格差が逆転しているものを調べれば……。
これは、国家レベルでやると大事になってしまったり、特定の宝石とかの大量流出を招いたりする危険性がありますが、……私が個人的に少々荒稼ぎする程度であれば……。
あ、モレーナ様からのメッセージに、『私費で買い』と書かれていますわ。さすがモレーナ様、しっかりされておりますわね……。
ということは、私と同じお考え、ということですわね……」
『……やりましょう!』
『了解ですわ。……では、可及的速やかに、あまり嵩張らずに高額である商品の価格調査を。それと、口が堅くて信用できる、あまり大きくないけれど零細でもない適度な商人との伝手を作ってください。焦らず、慎重に選ぶのですよ……。
そして、私達の栄光の未来を掴むのです!!』
何やら、怪しいことを企む、王女コンビであった……。
* *
「ギルド支部への挨拶」
「よし!」
「宿舎の引き払い」
「よし!」
「お世話になっている方々への挨拶」
「よし!」
「旅に必要な装備と食料、その他諸々」
「よし!」
「向こうで高く売れそうなものの仕入れ」
「よし!」
「いいですわね、モニカさん、オリアーナさん。
今の私達は、婚約とか養女とか側室とかの獲物として、国中の貴族や王族、大店の商会主や跡取り息子とかに狙われています。
……私達自身が望まれて、ではなく、アデルさんを釣るための餌として。平民からの人気を集めるための見世物として。……そして、魔法の才能を家系に取り入れるための、母体として。
ふたりとも、それを望みますか?」
「「否! 否! 否!!」」
「そして、私達には魔法の才能はありません。才能があるように見えているのは、アデルさんに特別に教えていただいた、門外不出、他言無用の『魔法の真髄』と、魔法の世界からやって来た魔法の精霊に口利きをしていただき、守護を賜ったために過ぎません。
……あと、血を吐くような努力ですわね、自分で言うのも何ですけど……。
つまり、私達の能力は子や孫達、子孫に伝わるようなものではないということですわ。
なので、それ目当てに私達を手に入れた人達は、望んだ結果が得られないと知った時、どうされるか……。
皆さん、私達のことを知る者がアデルさん達以外におらず、今後も、少なくとも私達が生きている間は情報が伝わり、広まることはほぼあり得ないという新天地、アデルさん達が言うところの『新大陸』へ行きたいですか?」
「「GO! GO! GO!!」」
「では、合意とみてよろしいですね?
別に、行けば二度と戻れないというわけではありません。
それどころか、私達が新大陸へ行っているということがバレない程度には、頻繁にこちらへ戻り、あちこちに顔を見せます。
なので、家族ともしょっちゅう会えますから、何も問題はありません。
モレーナ王女殿下も、私達の移動には自分が必要不可欠であるということで、私達は完全に自分の統制下にあると考え、安心されています。
……私達にはケラゴンさんに運んでもらえるということや、モレーナ・エスト転移でひとりかふたりだけが転移すれば、後はひとりずつ交代で、自分達だけで行き来できるということとかには気付いておられませんからね。
では……。
『ワンダースリー』、出撃!」
「「おおっ!!」」
そして、モレーナ・エスト転移という、マイルが気付いていない、この世界初の画期的な大陸間移動法を試みるため、王宮へと向かう『ワンダースリー』。
最近は、王宮へ向かうのは強制的な呼び出しを受けて嫌々行く時だけであったが、今回は違う。
心が躍り、夢と希望に満ちた顔付きと足取りで王宮へと向かう、3人の少女達。
新天地へ。
友がいる、新たなる冒険の地を目指して……。
* *
「ありがとうございました。では、またよろしくお願いいたします」
エスト……エストリーナ第三王女に礼を言い、城門へと向かう『ワンダースリー』。
この国は平和であるため、王宮へ入る時には調べられるものの、外へ出る時には素通しである。
そのため、出入りの業者に見えるよう、服装を普通の王都民風にして、剣や杖、防具等をアイテムボックスに入れた『ワンダースリー』は、門番に声を掛けられることもなく城門を通過できた。
戻る時、つまり城門から中へ入る時はどうするのか。
若い少女3人なので、今のようにハンター装備をアイテムボックスに入れておけば、何とかなる。
そう、楽観的に考えているマルセラ達であるが、本当のこと、つまり竜巫女王女に同行していた者達であると言えば、無条件でエストリーナ王女のところへ案内してもらえるであろうということに気付くのは、いつの日か……。
そして、モレーナ王女がこの国では大人気であり、自分達もその仲間として人気のお零れに与れるということに気付くのも……。
マルセラ達が、わざわざこのような面倒なことをして、派手に王族を巻き込んだ理由。
それは、信用できる者がいない新大陸で、そのあたりの者に適当に出入り口役を頼むわけにはいかないからであった。
もし裏切られて、出入り口から出た場所が檻の中であったら。
自分達のアイテムボックスに逃げ込むにも、3人全員が揃っていたのでは、取り出せる者がいなくなる。
……『詰み』である。
なので、『もし裏切れば、間違いなく国が滅びる』ということを確実に認識させることができ、そして絶対に『国を滅ぼしてでも、「ワンダースリー」の身柄を確保する』という選択肢を選べない者、……つまり王族を狙ったわけである。
そして更に、貴族やら大きな商家やらの手の者が、などということは、それこそ国の総力を挙げて叩き潰してくれるだろう。
非合法の暗殺部隊だろうが何だろうが、とにかく何でも使って全力で『モレーナ王女の敵』を叩き潰し、古竜の怒りが自国に向くことを防ごうとするに決まっている。
国民全てが、モレーナ王女の関係者を怒らせるような真似をする者達の敵。
……非常に強力な、安全装置であった……。
「では、行きますわよ。おそらく上陸した港町から王都を目指しているであろうアデルさん達と途中で出会うべく、王都からあの港町へと向かいますわ。
うっかりとすれ違ってしまわないよう、行く先々の町ではしっかりと情報収集を……、って、アデルさん達が目立たないわけがないですから、気付かずにすれ違うということはありそうにないですわね。
……では、『ワンダースリー』、出撃!」
「「おおっ!!」」




