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episode08 【教室⇒廊下】 放課後危機! (上)



 放課後。

 無事に新学期初日の授業が終わると、クラスメイト達は示し合わせたように教室から一斉にでていく。茫然と一つの机に焦点を合わせている智恵理に、廊下に出ていく女子生徒達は好奇心を孕んだ視線をチラチラと浴びせてくる。

 頬杖をつきながら憂いでいると、

「智恵理様、どうなされたんですか?」

 遠慮がちに、忍が脇から声をかけてくる。

「ううんっ、なんでもない。じゃあ、行こうかっ!」

 力んだせいで、椅子を思い切り後ろにガタンとぶつけてしまう。幸い後ろは既に無人と化していて、誰からも咎められることはなかった。ただ、忍の気遣わしげな気配がより強まってしまった。

 逃げるように、他のクラスの生徒も合流した混雑している廊下へ飛び出す。

 幅のある廊下にも関わらず、斜め後ろから歩幅を合わせて歩く忍。いつものように手を差し出してくることもなく、心なしかいつもより少しだけ距離をとっている。

 ほんとうに些細なことで、逐一報告することでもない。そういう考えなのだが、どうやら忍は容認してくれないらしい。このまま微妙な雰囲気が二人の間で流れるのも嫌なので、すぐさま話かける。

「やっぱり初日の授業だったから、ちょっと緊張しちゃったね」

「そうですね。ですが、私はそれよりも嬉しさで心が満たされていて、そこまで気を張ってはいませんでした」

「嬉しさ?」

「はい。智恵理様と同じクラスになれた嬉しさです……」

 くしゃりと相好を崩す様相に、愛おしさを感じてしまう。芯がほぐれるような感覚になり、照れくさげに「大げさだよっ」、と言葉を投げかける。すると忍は、ムキになっていい返してきた。

「いいえ、そんなことはありません! Aクラスになれるように、それ相応の勉強は積みましたから、こうやって努力が実際に実るとなると喜びを隠すことのほうが難しいです」

「……そっか……」

 目尻が下がっている忍に、密かに智恵理は感謝していた。

 忍はメイドとして、昔から甲斐甲斐しく尽くしてくれている。何かしらの不満の一つや二つあってもおかしくないのに、こうして智恵理の傍にいてくれるために尽力してくれる。

 たとえ現当主であるつばめ義姉さんの命令で付き添っているとはいえ、その実直さには感心する。メイド流は嘘だろうけど、頑なに忠節を守ろうとする姿勢は本物だ。

「あのっ。智恵理様、さきほど教室で何を考えていたんですか?」

 だからなのだろうか。まじめ過ぎる分、こうして気になったことがあると踏み込んでくる。

 うやむやのままにしていたら、もしかしたら後々になってどこか食い違いができてしまうのではないかと懸念を抱いたのだろう。……小石一個が挟まってしまったら、巨大な歯車が動かなくなるように。

 熱心に訊いてくる忍に微苦笑しながら、どうでもいいことを打ち明ける。

「ただ少しだけ気になっただけ。常盤城さんがいきなり欠席したからね」

「そう……だったんですか」

 体調不良で学園に来れないという連絡がきたらしいが、それだけではないのではないかという、比較的確信に近い予想を持ち合わせてしまっている。

 昨日あれだけ華々しく大勢の前で醜態を晒してしまったせいで、塞ぎ込んでしまっているのではないだろうか。なんでもない風を装っていても、実はかなり打ちのめされているのではないだろうか。

 ――そう、パンツを露わにして。

 脳裏に去来した同情を禁じ得ない常盤城さんの失敗に、思わずプッと小さく吹き出してしまう。

「あのっ、」

「どうしたの、忍?」

 振り返ると、忍は唇を真一文字に引き締めていた。どこか決意に満ちたその瞳に、吸い込まれてしまったかのように視線を引き剥がせない。そしてなぜかチリチリと後ろに火炎が迫っているかのような、そんな切迫した状況に陥っているような気がする。

 どうにかして嫌な空気を振り払おうと善処しようとするが、忍に先手を打たれた。

「智恵理様は――」


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