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episode07 【玄関】 年上の二人! (下)



 フフフ、と不敵な笑みをこぼしながら、有沢さんの影に隠れていたつばめ義姉さんが勿体つけるように出てくる。

 そして、

「このおねーちゃんを、呼んだかね!?」

 まさかのドヤ顔である。

 キラーン、と無邪気に真っ白な歯を見せながら、自分自身を親指で指している。

 ……相変わらず、痛々しい人だ

 つばめ義姉さんが幼児体型でなければ、近くにいたくないほどだ。

 智恵理の胸元ぐらいの身長しかない彼女は、未だに小学生料金であらゆる通行機関を利用できるほどに容姿が幼い。顔の造形は丸っこくて、小動物のように可愛らしくてどんなことをしても子どもっぽく写ってしまうがゆえに、大概のことは許せてしまう。

「有沢さん、今日は遊んでいかれないんですか?」

「ごめん。今日は立食パーティーに参加しないと行けないの。今度また誘ってくれる?」

「ぜひ」

 有沢さんと話していると、つばめ義姉さんが割って入る。

「ちょっ、おねーちゃんを完全スルーなんてなにごと?」

「有沢さん、部活はよかったんですか?」

「それさっきも話題にのぼってたよね!? そこまでしておねーちゃんと話したくないの!?」

 目を釣り上げているつもりなのかも知れないが、全く迫力がない。ふんがーとプルプル背伸びしながら、両手を上げている姿は逆に庇護欲を促進させる。

「そ、そういうわけじゃないよっ」

「なんで一斉に、みんなしておねーちゃんから目を逸らしてるの? そこはキッチリ否定してよ!?」

 無駄だと思いつつも一応フォローしておいたが、焼け石に水だったようだ。

「それに、なんでおねーちゃんを置いていったりしたの? 恭子ちゃんが通りかかってくれなかったら、まだ学園で途方に暮れてたはずだよっ!」

 頬を膨らませながら詰問するつばめ義姉さんの問いに、智恵理は忍と顔を見合わせる。互いの表情だけで、二人ともつばめ義姉さんのことをうっかり失念していたことを悟る。

「すっかり忘れていたのは、内緒にしておいたほうがいいよねっ!」

「そうですね。つばめ義姉さんの斥候術というか、潜伏術はメイド流として目を見張るものがあります。どうやってプロである私の目を欺いたのでしょうか……」

「小さいからだよっ! 隠れてないのに、人ごみに紛れるようなミニマムサイズだからだよっ! しかも、せめて小声で話してくれる? 全部丸聞こえで、内緒にしようとかいうレベルじゃないよっ!」

 つばめ義姉さんは華奢な腕を振り回しながら、熱弁している。その様子を見ながら、必死でみんなニヤニヤを押し殺している。からかうと思い切り面白い反応をするから、どうしてもイジってしまう。

「もうっ知らない! みんなしておねーちゃんのこといじめてぇ……」

「すいません、つばめ様……じゃありませんでした。つばめちゃん」

 幼児を愛でるように、忍がつばめ義姉さんの頭を撫でる。

 ……羨ましいな。

 すると、うにゃー、子ども扱いするなーと忍の手を弾く。

「忍ちゃんは謝る気あるの? それとも、おねーちゃんに喧嘩売ってるの? ……もういいっ絶対に許してあげないっ!」

「すいません、おふざけが過ぎました」

「ふん、だ。いまさら謝っても遅いよーだっ!」

「今日のお夕飯のデザートはプリンにしましょう」

「やったー! ありがとー、忍ちゃん。おねーちゃんは忍ちゃんが大好きだよっ!」

 ……子どもだ。

 プリン一つで機嫌を取り戻すお子様は、くるくる回っている。

 全身で喜びを表現する彼女が、自分よりも年上だとはにわかに信じがたい。だが、確かに彼女は智恵理の義姉であり、家族の一員だ。忍と合わせて三人で、この家に住んでいる。ほかのお手伝いさんもお手伝いに来るが、住み込みではないからあまり顔合わせはしない。

 忍とつばめ義姉さんとの暮らしは、本当に楽しい。三人とも血の繋がりはないけれど、それを補うほどに強い絆で結ばれている。些細なことでも大げさに笑えることができる。有限である時間を、有意義に共有できる。

 ほんとうに楽しすぎて、まるで――作り物のようだ。


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