episode06 【玄関】 年上の二人! (上)
忍と繋がる手は、不必要に固く握りしめているわけではない。
ただふわっと添えられた手は、やんわりと吸いつくよう。繋がりを確かめるように力を入れているよりは、逆に忍との親密さが感じられるようで嬉しい。
一階へと捻じ曲がった長い階段を、二人手を繋ぎながら、寄り添うように降りる。
「それにしても相変わらず可愛いねっ、その格好」
「これが正装ですので」
きっぱりとした口調ながら、横顔は誇らしげで微笑ましい。
髪を後ろで大きなリボンで結いでいて、フリルや花柄の刺繍がふんだんに飾られたメイド服はやっぱり似合っている。
制服や私服を着ている忍のほうがしっくりこないぐらい、彼女にはフリルの入ったエプロンスカートと漆黒のニーソが織り成す絶対領域が絵になる。
でも、気になる点が一つだけ。
「その耳飾りはどうしたの?」
「猫耳ですけど、変ですか?」
「ううん、似合ってるけどねっ」
「そうですかっ……」
猫耳にメイド服。
智恵理の褒め言葉を噛み締める忍は魅力的だ。
だが、この格好でいるのは屋敷の中だけにして欲しい。仮にこの姿で公共の場で並べと言われれば、いくら相手が忍でも躊躇わざるを得ない。
なぜなら――
傍 か ら 見 れ ば 完 全 に コ ス プ レ だ。
忍の口から、「これはメイド流ですから」と決め台詞ぎみに説明されれば、大衆は色々な意味で沸くだろうが、智恵理にとっては顔が火が出そうなぐらい恥ずかしい。万が一にも、このままの容貌で外に出るようものなら必死で止めに入ろう。
階段を下りきると、
「相変わらず、二人とも仲良しなのね。羨ましいな」
「有沢様、お待たせしました」
「有沢さん、ご無沙汰しています。それから、つばめ義姉さんをわざわざ送っていただいてありがとうございました」
「べつにいいのよ、忍ちゃんと智恵理ちゃんの顔を見たかったことだしね」
有沢さんはつばめ義姉さんと親しく、よくこの家にも遊びに来る。面倒見がよく、責任感の強い人で、二年生でありながらバスケットボール部の部長を務めている。
「部活はよかったんですか?」
「うん、まあ、たまには休まないだめかなって思ったのよ……」
歯切れの悪い有沢さんに、忍は小首をかしげる。
「どうなされたんですか?」
「うーん、実はちょっとやる気の有り過ぎる後輩が入部してきたのよ。それを、どうやって指導してやればいいのか分からなくて……」
「意欲があるのなら、いいのではないですか?」
「あり過ぎて困るのよ。突出した人間が一人でもいたら、集団の足並みが揃わないでしょ。だけど、なまじ実力があって、プライドが高いとこっちの言うこと聞かないのよ。一体どうやって指揮を取ればいいのか全然……」
自嘲気味に笑う有沢さんは、肩をすくめて見せているが、心底悩み尽くしているのは否応にも伝わってくる。
まだ引退のしていない三年生と、勝手がわかっていない新入生の板挟みの状態の有沢さん。
いくらつばめ義姉さんの子守には慣れているとはいえ、やっぱり悩みがないわけではないようだ。
「有沢さんの好きにしてみたらどうですかっ?」
「そうしたいのは、山々なんだけね。ほんとは和気あいあいと部活動に取り組みたいんだけど、そうすると部長としての面子がなくなってしまう。だから、その後輩に対して厳しくするしかない、今現在の自分の立場が辛いのよね」
有沢さんはふっと微笑を浮かべながら、続けて言葉を紡ぐ。
「上の立場になれば、よりよい部活動にしていけると確信があった。だけど、上の立場にはそれ相応の悩みや葛藤があって、結局自分の無力さを思い知らされちゃったのよね。……言いたいことも言えないのなら、部長になんてなるんじゃなかったな……」
下の立場にいる人間に責任なんてないから、好き勝手にどんな不平不満だって垂れ流すことができる。だけど、コミュニティを纏める立場の人間は枠に当てはめられて、自由に動くことすらできない。
立ち位置にいる人間それぞれに、分相応のしがらみや抱えているものがあって、それを理解できるのは同じ立場に立った経験のある人間か、こうして想いをぶつけられる相手だけしかいない。
歯痒そうに考え込んでいた有沢さんが、はたと我に返る。
「ごめんなさいね、二人とも。愚痴るつもりなんてなかったんだけど」
「いいえ、いいんですよ。有沢さんには部活だけじゃなくて、つばめ義姉さんの世話もしてもらっているんですから。……そういえば、つばめ義姉さんはどこですか?」
上下わけます。……中が入るかもしれませんが。
結構重要なところなので、わけます。
眠いから、もういいやってことで分けたわけじゃありませんよ!!
タイトルが普通なのも、眠くて思考が働かなくて、妥協したわけじゃありませんよ!!
多分、この年上の二人が揃うのは今後あまりないからですよっ!!
あと全ての話においてですが、のちに加筆修正するとおもいます。
より面白い小説になるようにとの考えなので、何卒ご了承ください。
(-_-)゜zzz…




