episode40 【体育館前】 カーテンコール! (下)
「生天目………さん?」
どうせ、球技大会の背信行為で遺恨は買わざるを得ない。だったら、バーゲンセール絶賛売り出し中の苦労ぐらい、掴んでみせる。それで少しでも御巫さんの負担が減るのなら、それで少しでも罪滅ぼしができるのなら。
「出過ぎたまねだってことは分かってるよ。けど、御巫さんみたいに強い人が、こんな弱い人たちにやられているのを黙って見るなんてできないよ」
「私は、私は……強くなんてない。あのEクラスの女の言っていた通り、みんなをまとめきれなかった責任を、他人になすりつけている。そんな人間が……強いはずなんてないじゃない」
「強いよ――だって、そんな風に自分の弱さと向き合える人間が弱いわけなんてないから」
智恵理にとって自分のしてきた行為を否定することが一番難しくて、結局のところできなかった。だから御巫さんのことを心の底から感服している。
「――そして、そうやって徒党を組んで一人の人間を囲むあなた達は弱いよ」
「はあ? どさくさに紛れて自分のやったこと棚に上げて何言ってんの? あんただってそいつのことを裏切った一人でしょ。可哀想になったから今助けて、それで自分を正当化でもしてるつもりなの? なにそれ? 馬鹿じゃないの? あんただって私達と同類でしょ!!」
射すくめるような視線と、切れすぎる言葉の刃は胸元に突き刺さる。
「そうだね、たしかに智恵理は御巫さん、それどころかAクラスのみんなには酷いことをした。けど、それでも、鬱憤を晴らすために誰かを利用したりなんてしないよ。一人じゃ心細いからって、仲間を呼んで誰かをいじめたりもしない。……そんなことが平気でできる人間を――人は弱いって言うんだ」
「うっさいな、ほんとっ」
土を踏み鳴らしながら、張り手が届く位置まで近づいてくる。集団の中でも発言権が二番目にある女の子が泡を食って、止めにかかる。
「ちょっと、もうやめたほうが」
「いいのよ、こんなやつ。腐った性根は口で言ってもだめ。叩いて直すしかないんだから」
相手の左手が顎付近に添えられて、顔を固定される。衝撃が逃げないやり口に、ビンタし慣れているのが分かる。
「そんな口がいつまで聞けるか見ものね、生天目さん。あなたみたいに単独でしか行動できないぼっちさんにはほ・ん・と、心の底から同情するわ。仲間ってほんとに必要で大切なものよ。こうやってあなたみたいに勘違い女を、思う存分いたぶることができるんだから」
「ちがっ――そうじゃなくて」
「はあ?」
仲間内でなにやら齟齬が発生しているところ悪いけれど、これだけは言わせてもらいたい。
「言い忘れてたけど、智恵理にも仲間がいるんだよねっ」
「智恵理様に手を出そうとする人間は、たとえ神だろうと躊躇なく殺します」
「王になるがため、わたくしは幼き頃から武術を嗜んでいますの。無駄な抵抗はオススメしませんわ」
ひっ、と小さく悲鳴を上げる眼前のクラスメイトの喉には、一撃で成人男子を昏倒させる改造スタンロッド。取り巻きの一人に、見たことのない構えをしながら拳を向けている馬鹿。
……凄い構えなのかも知れないけれど、心得のない智恵理から見たら股を開いている痴女にしか見えないよ、常磐城さん。
「すいません、智恵理様」
同級生に武器を突きつけて犯罪のラインを軽々と超えた、メイド服姿の忍が神妙な顔を向けてくる。
……つっこみがおいつかないよ。
「智恵理様の言っていた覚悟とは、このことだったんですね。智恵理様の深い考えにまで至りませんでした。不肖っ、この忍! Aクラスの不埒者を残らず粛清するお手伝いをさせてください」
……全然違いますけど。
いつの間にそこまで瞬時に妄想膨らませてるのかな。目の前のクラスメイト、滅茶苦茶歯ぎしりしてるよ。およそ同じクラスの人間に向けるような顔つきじゃないよ。完全に、犯罪者を見下すような目だよ。
「……そうだったの。でも私がAクラスのクラス委員よ。立場上は私が上だということは念頭に置いておきなさい」
……御巫さんもどうして乗っかっちゃったのかな。
この人も意外にボケ担当だったんだね。ツッコミ役の増援を要求したいよ。
「ふっ、わたくしを王と知っての――」
「ごめん、常磐城さん。これ以上事態をややこしくしないでくれないかなっ」




