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episode37 【体育館】 球技大会の幕引き!



 試合が始まってからずっと息苦しい。肩が重く、いつもよりもずっと重力の存在を思い知っている。どれだけ懸命に走ってもパスカットできずに、むしろわざと走らされている気がする。

 積み重なる失敗は、中途半端な学習能力のある脳みそが、これ以上なにをしても無駄だと自らに告げている。

 始まる前からこうなる気はしていた。

 思えば生まれてきた時から今まで、負け犬の見本市のような智恵理が何かを成し遂げられるはずもなかった。このお金持ちばかり通う人間からは想像から逸脱するような生まれと育ちかたをした智恵理には、勝負の執着心なんてものとは昔から疎遠の仲だ。

 だからこの試合がどう転ぼうともあまり興味がそそられない。電光得点掲示盤に刻まれた歴然たる実力差を見ても、立派な当て馬にすら及ばなくて申し訳ないという想いしか生まれなかった。

 ただ気になるのは、たった一つだけ。

 常磐城さんの顔からはすっかり感情が抜け落ちていて、ただ闇雲に走り回っているだけだった。味方のはずのみんなからはパスをもらえないどころか、激励や叱咤の声すらかけてもらえないまさに孤高状態。

 あの人だってこうなるとは分かっていたのに。

 それなのに、たかだかこんな人間を守るためにそうして頑張っている。だけどそんな行為をフイにするように智恵理は試合に参加して、無為な時間を過ごしてると思わないのだろうか。希望の閉ざされた闇の中で、ただ独りきりで藻掻いている。

 それなのに、御巫さんや智恵理たちのクラスメイトは蔑んだような視線を時折送るだけで、罪悪感すら覚えていないようだった。

 同情を禁じえない光景だけれど、智恵理は助けようとは思わない。

 人は簡単には変われない。

 そう、変わろうと思っても変わることなんできないんだ。

 もしも変わってしまったら、今まで積み上げてきたもの全てをぶち壊すことになるから。

 智恵理はずっと、ずっと常磐城さんを憎み続けよう。――ずっと、一生。

 だからこれは、何も自分の根本とは間違ってない行為だ。


 智恵理は味方から御巫さんに放られたパスを、横合いから力ずくで奪い取った。


 呆然とする両メンバーの表情に滲むのは、批難よりも困惑といった感情。そのまま常磐城さんにパスするも、突然の行為に取り落とす。

 その油断を見過ごす訳がない、敵チームである綾城さんは流れ弾を手中に収める。蠱惑的な表情を取り戻すとそのまま智恵理たちの陣地へと斬り込み、そしてやがてはゴールを決める。

 コート内にいる誰もが智恵理に視線が釘付けになっていて、恐らくその場のテンションに任せている観客はただのパスミスぐらいにしか思っていないだろう。

 だけど、常磐城さんだけは馬鹿みたいに口を開けたままだった。

 見かねて助け舟を出したわけでじゃなくて、ただ考えを深めれば深めるほどに惜しいと思った。他人の力を借りてまでして、このぐらいの仕返ししかできないのならいっそこの手で台無しにしてしまったほうがましだ。

 常磐城さんに鉄槌を下せる正当な権利があるのは智恵理であって、それ以外の人間にはない。だから今回だけは自体を綯交ぜにした。

 ――そして、そのまま智恵理の輪を外れた行為でガタついたこちら側は、まともにチームとして機能せずに当然の如く負けることになった。

 最後の最後でセンターラインから綺麗な弧を描くシュートを決めた、女とは思えない腕力のある秋月もみじの驚異的なプレイで球技大会の全ては締めくくられた。

 

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