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episode34 【体育館】 極彩色の三羽鴉! (上)

およそ凡庸としか他人から認知化されない有沢恭子という人間は、児玉薫子のような才能と、海野香織のような力強さと、生天目つばめのようなしたたかさと、片桐泰助のような真っ直ぐさと、○○○○のような奔放さが羨ましかった。



 汗まみれだった体育着から着替えて、バスケのユニフォーム姿に早変わりしたお蔭でようやく倦怠感からは開放された。だけどもこの人間の壁のせいで、隙間を縫うように動くのに高い難易度を要するので、試合の疲労がぶり返す。

 スポーツ特待生の二年生であり、バスケ部主将を務めたこの私が率いるチームは秋月もみじの在籍する一年生の問題児クラスに惜敗した。体育館にごった返している生徒たちの話題も、一年のDクラスでありながら勝ち進んでいるという快挙の話題で一色になっている。

「あー、こっち、こっち。きょーこちゃん、こっち」

 ぶんぶんと上空二階から手を振ってくるつばめに、手を振り返す。階段を足早に上がってつばめの傍に行くと、「ここからならよく見えるでしょ? 立ち見になっちゃうけど、隣の席とっておいたんだ」と言ってきた。

「そうね。ここからだったら、バスケの――球技大会最後の試合を鑑賞できそう」

「でも、まっさか、AクラスとDクラスで、しかも一年生同士が決勝でかち合うなんてねー。もう少し上級生には頑張って欲しかったよ」

「つばめもでしょう?」

「あはは、そっかー。だったら訂正しますっ! よく頑張ったね一年生も!」

 新入生歓迎行事といっても、一学年上がるだけで体力の差がある以上、一年生がここまでの舞台に駆け上がること自体が稀。それ以上に着目すべきはスポーツ特待のBクラスが、決勝に駒を進めることができなかった異例の事態。

 女子高であり、校則厳しい閉鎖的なこの学園。

 ここに通っている生徒の大半はお嬢様が故に、資産があれば大概の問題は回避できるという現実を知っているリアリストの集まり。その生徒たちがわかり易いジャイアントキリングを目の当たりにしたのだから、その興奮は計り知れない。

「んー、でもいくら一年生が最後まで残るのが物珍しいからって、みんな騒ぎ過ぎなような気もするんだよねー、おねーちゃんは。お祭り騒ぎは嫌いじゃないんだけどねー」

 手すりに肘鉄を喰らわせながら、疑問の吐息を微かに大気に混ぜ合わるつばめ。

 平常心を偽っているのは、プルプルと震えている全身から伝わる。

 つま先立ちになりながら必死でこらえている気持ちを無下にはできないので、見なかったふりをして次の試合に集中する素振りを見せる。

「それは――」

「それはきっと、ここにる生徒全員が後ろめたいからやな。自分らの罪をチャラにするためにも、血走った目で秋月もみじを応援するわ。……そのぐらいの計算高さは、女の特権やん」

 いきなり横槍をかました一つ年齢下の独眼少女は、つばめを挟んで私とは逆隣に平然と佇んでいた。

「あれ? もしかしてここにウチがいるのがおかしいと思っとるの? こんなんぜんぜん当たり前やん。だって、つばめ先輩は二年のEクラスで接点あるし、なにより有沢先輩こそ元Eクラスなんやから」

「……まだつばめと交流があったってことに驚いただけよ」

 AからDクラスまでは一つの校舎に押し込められているけれど、Eクラスを一緒くたにすると何が引き金となって不祥事が起こるか想定できない。

 よって、Eクラスは特例として一年から三年までの全学年の生徒が同じ校舎に隔離されている。そうして疎外されていることによって、縄張り意識と仲間意識が高まり学年の垣根すら越える。 

「アハハ、言うてくれるやん。……実は本当に会って話たかったんは有沢先輩のほうなんやけどな」

「ええ~? おねーちゃんのことはどうでもよかったの?」

「そうは言うてへんよ。ただ直接秋月もみじと手を合わせた有沢先輩に色々聞きたかっただけで」

 眼帯を装備している見た目だけではなく、その中身まで常軌を逸しているこの少女と楽しげに会話を繰り広げることができるつばめは、相乗効果で常人離れしているように感じられる。 

 ただそれよりも流すことができなかったのは、さきの試合効果を酷評した一年生の穿った視点。

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