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episode33 【昇降口】 孤高の王! (下)



「……なんでそれを?」

 過去の経緯はほかの誰にも話さずにいた逆鱗のようなもの。忍が塵芥でも智恵理の過去を聞き齧っているのは有り得ない。

 責め立てるようにまくし立てていた忍は、一転して弱々しい語調になる。

「智恵理様は幼少期に養護施設で育ったことは、つばめ様から聞きました。あとは、常磐城さんが智恵理様の過去に何か関係があることぐらいで……。嫌がるあの方から無理やり聞きだして、教えてもらったのはそれだけです」

「…………あの人は、ほんとにっ」

 お人好しの代名詞ともいえる人だ。

 いくら親戚関係であるといっても、智恵理を拾い上げるだけでは飽き足らず、生天目の容姿に迎えるなんて破格の待遇をぽんとくれたのだから。

 だからこそ、あの人に反目するなどという意思は芽生えるはずもないのだけれど、世話好きとお節介のあやふやな境界線にいる忍に余計な情報を漏らさないで欲しかった。

「智恵理様が、私に何も教えてくださらないからです。ほんとうは、智恵理様の口から何もかも教えて欲しかった……」

 ……そうやって智恵理が知らないところで、勝手に過去に探りを入れるような人には教えたくない。なんていうのは、ただの後付けの抗議でしかないよね。

「何もかも話さないといけなきゃ、家族である視覚はないのかなっ?」

「……それは」

 狡いよね、こういう聞き方して。

 だけど、それだけこっちも切羽詰っているってことで。

「さっきの言い方だと、常磐城さんに何かするのは聞いているんだよね?」

「はい。だから、智恵理様を――」

「もういい。そんなに心配しなくて大丈夫だよ。智恵理はもう覚悟は決めたから」

 忍だって智恵理のために何かをしようとしただけなんだ。

 大丈夫だよ、智恵理は善意で常磐城さんを助けようとするには、義理や想いが不足しているから。持て余しているのは怨嗟と憎悪の感情だけだから。感情欠損しているなか、残存する『怒り』という感情が過剰にあって、それが智恵理の源泉だから。

 常磐城さんの姿はもう見えなくて、隣にいるのはいつも通り忍で。

 だからいつもどおり、完全無欠に持ち前の笑顔を彼女に向ける。

「それじゃあ、行ってきます」

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