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episode26 【教室】 ミルクの匂い! (上)



 閉め切ったカーテンと点灯していない蛍光灯のせいで、時刻が正午近くとはいえ多少薄暗い。電気を点けようとしたのだが、常磐城さんは羞恥を理由にそれを拒んだ。

 お隣のBクラスは、恐らくは球技大会の練習かなにかでガランとしていた。他クラスも授業中なのか、痛々しいほどの無音が教室に充満している。

「さっきは申し訳ありませんでしたわ。わたくしの不注意で、生天目さんにまでかかってしまいました」

「さっきからずっと言っているけど、こんなの全然平気だよっ」

 背中を向け合いながら手を服にかけようとすると、またもや常磐城さんが謝罪の念を述べてきた。いつも強気な彼女にしては珍しく殊勝に謝ってくるので、どうにも調子が狂ってしまう。

「ですが……」

 ぽつりと独りごち、得心いかずの常磐城さんは心中を詳らかにする。

「傷つくのが自分だけならば捨て置きますが、自分の失敗のせいで、誰かに被害を被るという失態はあってはならないのですわ。……それに、そうやって生温かい言葉をかけてもらう度に思いますの」

 制服のボタンを外しながら、常磐城さんの真剣味ある言葉に耳を傾け続ける。

 きっと、とても大事なことを話してくれていそうな気がするから。

「確かに『あなたは悪くない』、『失敗は誰にでもある』なんて慰めをもらえればその時だけは楽になりますわ。ですが、そんな馴れ合いの慰めは簡単に自然消滅してしまいます。長続きはいたしません。だからわたくしは、いつでも自分に戒めの十字架を突き刺しているのですわ。……いつでも自分に厳しくできる人間だけが、人の頂点に立ち得るのだと信じて」

「……一理はあると思うよ」

「生天目さんには一理だけあったとしても、わたくしにとっては生き方だといっても過言ではありません。人間は孤高であるからこそ、自分を痛めつけることができるからこそ、高みへと至ることができるのです」

「そうかもしれないけど、そういう生き方って辛くないの?」

「……辛くなんてありませんわ」

 どんなに鈍い人間でも分かってしまう、常磐城さんの演技力のなさには好感が持てて、逆に強情を張る彼女のかたくなさは焦れったくて、そんな彼女をどうしようもなく――


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