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episode25 【調理室】 牛乳とプリンとバナナ! (下)



「それじゃあ、忍さん。そこのボウルとってくれる? 牛乳プリンから作らないと時間的に間に合わないから」

「御巫さんのほうが近いので、そっちがとったらどうですか? それから私に命令していいのは、智恵理様だけですから」

「……この前の教室の件といい、今日のその格好といい、あなたには常識ってものがないの? そんな破廉恥なことばかりしていると、Aクラスの品格が下がるからやめてくれない?」

「Aクラスがどうなるかなんてどうでもいいです。ただ一々私と智恵理様との関係をやっかまないでくれますか?」

 落ち込んでいる常磐城さんを尻目に、御巫さんと忍が激を飛ばしあっていて近寄りがたい。あてにならない二人は一旦置いておくと、常磐城さんが透明な計量カップに注いである牛乳パックを手に持ってきている。

 けど。

 尋常じゃないほどに、ブルブル震えている手が不安を煽る。緊張でこわばる顔と手つきは料理に慣れていない証左。

 ……手伝ってあげようかな。

 と、足を踏み出そうとすると、

「あっ」

 どうにかこうにか終点まで運び終わりそうになるが、肘がクラスメイトと衝突する。慌ててバランスを取ろうとバックステップするが、ブレーキの威力が強すぎ、そのまま後ろに倒れる。上空へと飛翔した計量カップは逆さまになり、無残に白い液体が飛び散る。

 それは駆け寄った智恵理と常磐城さんに被害を被った。

 智恵理はあまり濡れないですんだが、ほとんどの液体は常磐城さんに降りかかった。

 きょとんとする常磐城さんの服には、びっしょりと計量カップにぶっかけられた液体のせいで、下着がうっすら透けて見える。口元から肌ツヤのいい頬にトロリと白いものが一筋の線を描き、剥き出しの太ももには飛沫した水滴が点々と付着している。

「大丈夫!? 常磐城さんっ」

 ほんの一瞬――常磐城さんが上目遣いに、縋るようにこちらを見上げた。

「ごめんねー、常磐城さん」とぶつかった生徒が拝むように両手を合わせると、何事もなかったかのように立ち上がる。

「謝罪には及びません。このぐらい、へ、へ、へくちゅっ!」

 なんとも可愛らしいクシャミをする常磐城さんに、心配げな語調で提案する。

「着替えようよっ、常磐城さん」

「そ、そうですわね。教室に置いてある体育着に着替えれば……。ですが、料理の方は」

「大丈夫だよっ。料理ぐらい忍だけでもじゅうぶん授業内で作れるから」

「…………わたくしは――」

 なぜか押し黙る常磐城さん。あとのことは頼もうと後ろを振り返ると、まだ忍と御巫さんは口論を飛ばし合っているけど、なんとかなるだろう。常磐城さんと連れ立って調理室をあとにしようとすると、「あいつがいると、やっぱりだめじゃん」と小さな声で毒を吐く声が聞こえた気がした。

 扉を閉めようとする直前に聞いたとてもか細い声だったので、聞き違いかとも思ってそのまま教室へと急いだ。


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