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episode23 【ゴミ置き場】 火花散る! (下)



 ただ呆然と立っていると、掃除終了のチャイムが鳴る。

 外の掃除管轄だった生徒たちがぞろぞろと校舎に吸い込まれ、智恵理を不思議なものを見るように横切っていく中、まだ立ちすくんでいた。

 自分以外誰もいなくなったこの場所に佇んでいると、冷たい風が全身を叩く。

 一人ぼっちになるのは慣れているはずなのに、なぜか感傷的になったのは先刻の痛烈な御巫さんのお小言の影響なのかな……。

 集団を指揮するリーダー、御巫さんはきっと必然的に孤立する。

 集団の頂点に君臨する王、常磐城さんは自発的に孤高に徹する。

 集団から逃げている凡人、智恵理はいつでも孤独を抱いている。

 いつも忍という存在が傍らにはいるけれど、それでも心の中には疑念が付き纏っている。こんなにも幸福を感じてもいいのかと。そして、忍はこんな猜疑心をひた隠している人間を、どう思っているのだろうかと。

 そんな思考に至る時点で、人間関係はとっくの昔に破綻してしまっているのかも知れない。

 ただ、一つだけいえるのは、どれだけ環境が変わっても、智恵理の心は変わらないということ。

 だけど、こうやって心がささくれているからこそ、今心底会いたい、傍らにいて欲しい人がひとりいる。

「…………忍」


「お呼びしましたか、智恵理様ッ!!」


 ガサガサッと不穏な音を立たせて、横の茂みから唐突に飛び出した不審者に、ビクゥッと思いっきりたじろぐ。乱れ切った髪の毛には葉っぱが間に挟み込まれているにも関わらず、その顔は喜色満面で気持ち悪い。

「な、なんでここにいるのかなっ? 忍」

「智恵理様が猛然と廊下を走り出したので、これは一大事かと思い、尾行させてもらいました。それからあの方々が言い争いを始めたので出られずに、メイド流の隠密術を使わせてもらった次第です」

 ……その設定、いつまで引っ張るつもりなのかな?

 一応、微苦笑をしてお礼を言う。

「忍、あ、ありがとうね。心配してくれて」

「いいえ、私にはもったいない言葉です。……智恵理様、もしも何か困ったことがあったら、この私になんでも相談してください。いつだって、どこにいたって、忍は駆けつけますから」

「う、うん。ありがとう。なにかあったら言うよっ!」

 きっと忍はその言葉を律儀に守ってくれるだろう。智恵理が傍にいて欲しいと願ったら傍にいてくれて、助けを求めたら、持ち前のスキルを駆使して全力で擁護してくれる。そういう優しさを持っている。

 ――だけど、ふと思った。

 今回のは流石に、ただのストーカーなんじゃないかって……。


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