episode22 【ゴミ置き場】 火花散る! (中)
ドサッとゴミ袋を取り落すと同時に、膝を地面に着く御巫さんはこうべを垂れている。散々に言い負かされてショックを隠し切れない彼女を気遣い、そこらに転がっていたゴミ袋を規定のスペースにしっかりと捨てる。
アヒル座りでへたり込んでいる彼女に近づき、手をさし伸ばすと、
「私が……か、彼女かあ……」
御巫さんは指をもじもじひっきりなしに組み替えをしながら、含羞を帯びた柔らかそうな頬をふにゃりとさせている。
そして、ハッ、と智恵理の訝しげな視線に気が付くと、何事もなかったかのように立ち上がる。スカートの裾に付着した土埃をはたくと、こちらをねめつける。
「なんでここに来たの? まだ掃除時間よね」
「……それは、御巫さんがEクラスの人と言い争いをしていたから。智恵理は、御巫さんが困ってたから、御巫さんを助けるた――」
「私のせいにしないでくれる? やっぱり、あなたみたいな人はそうやってすぐに人のせいにするのね」
憎まれ口を叩くで、少しずつ元気を取り戻しているように見受けられる。そのまま絶好調に彼女は言葉を紡ぐ。
「いつもあなた、無責任に誰かを助けようとするわよね。そうやって中途半端な優しさを振りまくから、あなたに依存する人間はどんどん弱くなっていく……。そういう偽りの思いやりこそが、不確かな絆こそが人間を堕落させる根源の一つなのよ。コミュニティに必要なのは、絶対的な一人の指導者と、その他大勢の人間で構築される繋がりよ」
「……誰かと誰かが手を繋ごうとするのは、そんなに悪いことなのかな?」
名前を明言されなくても分かる。
きっと忍のことだ。
確かに忍は病的なまでに智恵理に執心しているが、それ自体が悪だという言い分には納得できない。 単純に主人とメイド、それから友達として仲良くしているだけだ。
「枠から外れた人間は、必ず破綻の運命を辿る。仮にもAクラスのインテリの一員なのだから、そのぐらいは理解しているでしょ? 仲良くするなとは言わないけど、不必要に少人数の人間がベタベタしていれば集団に必ず亀裂が生じる。それだけは避けたいの。……不愉快なのよ、あなたたちがイチャイチャしているのを見るのは」
ザッと、地面を蹴るように歩き出したため、最後のか細いセリフは聞き取りからもれた。不貞腐れたような横顔だけはなぜだか印象的で、声をかけづらかった。
すると、御巫さんは少し歩いて、何を思ったのか立ち止まる。
「さっきあなた言ったわよね? ――私を助けるためにここにきたって……」
御巫さんはちょっとだけ首をこちらに向けると、
「そうやって誰かの為になんて言う人間に限って、自分が失敗した時は人のせいにしたがるものよ」
翳りのある表情を一瞬だけ浮かべて、この場を立ち去った。




