episode21 【ゴミ置き場】 火花散る! (上)
少しばかり息を切らして駆けつけてみると、膠着状態になっているようだった。地面に置けばいいのに両脇にゴミ袋を抱えている御巫さんの背中からは、揺ら揺らと気炎が上がっていて近寄りがたい。
憤っている御巫さんと向かい合っている、Eクラスの彼女の眼は澄んでいてどこ吹く風といった立ち振る舞いだった。
ただし、片方の眼だけ。
眼帯を着けているもう片方の眼が、どんな澱んだ目の色をしていても知り得ない。不規則無造作にささくれ立っている髪の毛にほとんどの面積覆われている眼帯は、安っぽい布製のものではなく高級そうな艶のある革製だった。
そして。
鬱蒼と茂る林のような前髪に半分ほど隠れていた黒目の眼球だけが、こちらにギョロリと焦点を合わせてきた。薄めだった眼をゆっくりと見開き、途端に相好を崩す。
「なんや、久しぶりやん。アンタが来てくれてホンマ助かったわあ~。ちょっと困ったことになってん。助けてくれへん?」
御巫さんが振り返り、知り合いなのかと瞠目するが、必死で首を横に振る。
「えっと、確か智恵理とは初対面だったよねっ?」
「アハハ、そんなん知っとるよ。ただここは知り合いのフリして、何とかこの場を収めるようとするノリやったやん? それから二人きりになったウチらは、友情深めてホンマもんの友達になる予定やったん。……アンタ、空気読めや」
口元が申し訳程度ニヤついているだけで、それ以外感情の動きが見えない。最後の言葉だけは声音が変わってゾッとしたが、本当はこちらのことに全く興味がないようにも見える。
「……なんて冗談や、冗談。そこは笑ってくれへんと、まるでウチが悪人みたいやないか。……だから、笑えや」
笑えるような雰囲気でなく、目を泳がしていると、
「いいから、燃えるゴミと燃えないゴミぐらい分別しなさい。悪人だとか善人だとか、それ以前の問題よ」
はあ? なんや? と体を全く動かさずに、視線だけを御巫さんに向ける。
「なんでウチが、アンタの命令を聞かないといけないんや。人類皆平等やろ?」
「ゴミの分別は、人として当たり前のことだからよ」
「人として当たり前? 違うやろ? それがアンタにとって当たり前なだけや。この世界の人間全員が、アンタと同じ考えを持っているとでも本気で思っとんのか? ただアンタは、ウチが気に食わないだけやろ? ……自分だけの常識を、ウチに押し付けんなや」
……ダメだこの人。きっと、どんな高尚で利のある説法や説教も受けつけない。
彼女は恐らく自分の持ってきたゴミ袋を足で蹴り、立ち去ろうとするが、御巫さんは果敢に立ちはだかる。
眼帯女は深い溜息をつく。
「アンタはゴミの分別をしたい。ウチはそんなもん面倒。それやったら、やりたいことを分担すればええだけやん。お互いがええ気持ちになるんやから、それでええやん。それやのに、なんでアンタはそんなにしつこくつっかかってくるんや?」
「……私は、私の正しいと思ったことを貫きたいだけよ。それを、どれだけ他人に批判されようと構わない。だって、否定されるのは今だけだもの。いずれこの私に感謝する時がくるんだから」
アハハと哄笑が虚しくその場に響く。
「なんやそれ? ええこと言っているようで、中身スカスカのただのエゴイストの戯言やないか。言うてて恥ずかしくないんか?」
撫で肩をすくませ、グウの音も言えない御巫さんを通過すると、智恵理の前に立ち止まる。猫背をさらにギリギリと無理に折り曲げて、手を自分の口付近にくっつけ、内緒話の格好になる。
「……なあ、アンタの彼女にあとで言っといてくれへんか? この地域は、燃えるゴミと燃えないゴミの分別せんでええ地域やってこと。恥ずかしゅうて、ウチからはとてもとても言われへん」
あえて御巫さんにギリギリ聞こえる程度の声音を捨て台詞を言い、彼女は校舎へと入ってきた。
……はい。邪気眼キャラ(?)が書きたかっただけです。すいませんw




