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あなたと私を結ぶ運命の青い糸 ~王子妃は副業で多忙につき夫の分かりやすい溺愛に気付かない~  作者: 松ノ木るな
メテオの章

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⑥ 故人の日記帳

 この日の放課後、彼女を進路指導室に呼び出して、昨夜の出来事を慎重に伝えてみた。


『えっ!? つまりそれは、先生のところにルーチェの魂が!?』


 下校時の鐘が校舎内に鳴り渡るなか、ロイエは目をぱちくりさせた。やっぱりさくっと信じられる話ではないわよね。


 ともかく、今日の彼女は前日より表情がしっかりしている。


『昨夜はなぜか久しぶりに眠れたのです。ここずっとうまく眠れなくて、やっとのこと寝入っても悪夢に追い込まれて……』


 憑き物が一晩不在だったからか。


『それでね、彼と話をしてみるのはどうかと思ったのだけど』


 私の提案に彼女は思いつめた表情のままうつむいた。


『怖いです……』


 そうね。いくら大好きな人の霊といっても、それのせいでずっと具合を悪くしていたのだもの。道連れにされないとも限らないし。


『じゃあできるだけ、ふたりの会話を核心に迫る大事なことだけに絞って、彼に気持ちよく天国へ昇ってもらえるよう対策してみるわね』


 調停プロジェクトチームの腕の見せ所よ。


『それにあたり何か、彼について教えていただけるかしら。彼本人は憶えていないらしくて』

『それなら』


 彼女はただちに手持ちの皮鞄を開け、ガサガサと何かを探し始めた。


『これ。彼の、生前の日記帳です』


 差し出されたそれを受け取った。丁寧に扱われていたのが見て取れる、赤いハードカバーの一冊。思い出を大事に保管しておく宝箱だったのだろう。


『形見分けでこれだけが送られてきました。いつも持ち歩いています。でもまだ読めません……』


 パラパラめくってみると、彼女の名前がたくさん見受けられる。


『こんな大事なもの、借りてもいいの?』

『彼は先生のところにいるのでしょう? 彼が信頼している人なら、私も信頼します』


 まだやつれた印象はぬぐえないが、彼女は亡くしてしまった愛しい彼を思い、力強く微笑んだ。


 ……このように相思相愛のふたりを、神様は引き裂いてしまったの?





 帰宅後。アンジュが整えておいてくれた静かな自室にて、日課である授業の準備を急いで終わらせた。


「さて」


 テーブルに置かれるランプを寄せたらベッドの脇に腰掛け、彼の日記を耽読する。


 カチカチと時計の針の音が響くなか──。


「うっ……ううう……ぐすぐすっ……」


“先生、どうしたんですか? 鼻ズビズビいって。あ、それは僕の日記ですね”


 幽霊の彼が私の元にとびこんできた。


『あら、ごめんなさいね。あなたの日記を勝手に読んで。読んでいるのはロイエとのところだけなのだけど』


“構いません。死後ならたとえ出版されても文句言えませんし、それで後世に名を遺す文豪デビューしてしまったらどうしようかと!”


 そのチャンスには一役買える気がしないわ。


『こんなにも真剣に、彼女との未来を考えているのに……』


 それがやって来ない現実を知っているから、涙なしには読めないのよ。


“先生は共感力の高い素敵な女性ですね”


『いいえいいえ、そんなこと。ぐすっ』


“でも書いてあることの半分くらいは、才能豊かな彼女に比べ自分の不甲斐なさは……という愚痴ですし、先生の感動の涙がもったいないですよ”


 冷静に自分の日録を分析する彼。

 うん、まぁちょっと自虐も多いわね。優秀な婚約者を持つのも大変ね。


 ここまでの記述では、彼の死しても囚われる悔恨の感情は見られなかった。

 彼女が学院に入学、寄宿することになり、あまり会えなくなる寂しさや多少の劣等感を抱えつつも、彼なりの自己研磨を重ね将来を見据えていた。


 そんな中、彼は流行り病に倒れる。


────“彼女には、僕が臥せっていると言わないで。心配かけたくないんだ。必ず快気するから。必ず──”


 しかし運命は無慈悲だ。だんだんペンを持つ力が失せてゆく。


 もはや悟ったのだろうか。最後のページには頼りない字体で……。


────彼女と初めてデートしたのは、別荘近くの森の湖畔だった。


 素敵な思い出の回顧録。


────時が立つのも忘れておしゃべりをした。いつのまにか夜になっていて、珍しく流星群が降り注いだ。

僕はあの日、流星に誓ったんだ。

決して自分の気持ちをごまかさない。彼女に正直な僕になる。

そうした、心の強さと誠実さを兼ね備えた立派な紳士になれたら

彼女とまたこの湖畔に来て、僕からプロポーズしよう──なんてさ。

今の僕はなれたかな。それ以前に、こんなに痩せ細ってベッドから出られない僕は、彼女にプロポーズする資格なんてないのだろうか────



『これで終わりね……うっ……』


 涙が止まらないわ。


“うわあああん先生~~泣かないでください僕ももらい泣きしてしまいます~~!”


『だってぇ……』


 ふたりでしばらくベソベソ泣いていた。その時、ノックと共にこんなお声掛けが。


『ユニヴェール。私だ、入るぞ』


 ダインスレイヴ様だわ。そろそろ泣き止まないと。でもまだ……ううっ。


『あっ、貴様! なにユニヴェールの膝枕してるんだ!!』


 ベッドに腰掛けた私の元まで小走りで来て、彼はルーチェを持ち上げ放り投げた。


『ユニヴェール、どうして泣いているんだ!? まさかっ、あいつに何かされたのか?』

『あっ、いえ……』

 ダインスレイヴ様が指さしたそのルーチェは、

“うわあああん、僕なにもしていません膝枕以外は~~。た、助けて~~”

後から入室してきたラスに首を締められていた。


 霊だから窒息することはないわよね……?


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『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

 こちら商業作品公式ページへのリンクとなっております。↓ 


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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

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