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あなたと私を結ぶ運命の青い糸 ~王子妃は副業で多忙につき夫の分かりやすい溺愛に気付かない~  作者: 松ノ木るな
メテオの章

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24/35

④ 夫が突然、豹変して……??

「起立! 礼!」

「「「ありがとうございました!」」」


 ふぅ、今日も一日無事に……


──ガターン!!


「な、なに? ……あっ、ロイエ!」


 終礼でみんなが立ち上がった時、椅子から転げ落ちた彼女。

 昨日心配したとおりのことが……


『大丈夫? どこか打ったりは』

『だいじょうぶです……』

『保健室で休みましょう。さ、私に掴まって』


 彼女は私の腕に手を添えた。その時だった。


『えっ? ルーチェ!?』

 虚空を見上げた彼女が誰かの名を呼んだ。


『ロイエ? どうしたの?』


“ええっ。ぼ、僕がみえるの……!?”


 ここで私の耳にも、ハスキーな青年の声が聞こえて。

 その声のほうを振り向いたら、17歳ほどか、貴族青年の……御霊が。


 目が合ってしまった。彼は表情に困惑の色を浮かべる。


『ルーチェっ……ルーチェ!!』

『あっ。ロイエ、落ち着いてっ』

『やっぱりあなただったのねルーチェ!』


 彼女は空に向かって震える手を伸ばした。が。


『ロイエっ?』

 ふっと意識を失った。私は彼女を抱きかかえ、まず脈を確かめる。そしてもう一度彼女が手を伸ばした先の空を見上げたら、そこでおずおずしていた青年は。


「消えた……」

 背中を見せ、逃げるように空気に溶けていったのだった。





「今日もいつの間にか終わったわ……」

 日々は目まぐるしく過ぎてゆく。


 自室の大きな窓から見える月は、明々と地上を照らし、月光を浴びる庭園の植物は神秘的な美しさを見せている。


「ユニ様、どうぞこちらへ」

 ベッドでラスの丁寧なマッサージを受け、少し微睡みかけた私はふと、ダインスレイヴ様の面影を脳裏に映した。


「ねぇラス、あの、ええと。今夜、彼はお帰りにならないかしら」

「お帰りになるというご予定は聞いておりませんが」


「そうよね。ここ数日はとりわけお忙しいと……」

「しかしあのお方は、執事室でどう伺っていようと、突如お帰りになられることもしばしば」

「ううん。いいの。今日は疲れているから、もう寝るわ」


 眠気が心地いい。ああ私、ふんわり暖かな空気に包まれている。ラスの焚いてくれた香がもう効いてるのね……。




「ん……」

 眠りが浅かったのか、私はしばらくしてふと覚醒した。


 真上のベッドボードをふと見やると、

「? 伸びた影……。どこから?」


誰もいないこの部屋に不審な黒影が。私は真正面に向き直した。そこに、ぬおぉぉっと現れ、私を覆う、大きな幻影。


「きゃっ……きゃぁむぐっ」


 口を押さえつけられた。化け物? 不審者? どうしましょう。絶体絶命……


『静かに! ユニヴェール、ただいま』


 ん? その声は。


『◎▼@※△☆▲ひゃひゃ?』

『そうだ。私だ』


 な、なぁんだ……。今宵はお帰りにならないと思っていたから。


『おかえりなさいませ、ダインスレ……えっ?』


 な、なに!?


 無言で私の寝巻の、胸元のリボンをほどく彼。


『何をなさるの、突然……』


 私に覆いかぶさったままで。いつもなら隣に横たわるのに、様子がおかしい?


『たった今、障害を跳び越えようか。ユニヴェール』

『……は?』


 暗がりの中、彼の大きな手が私の肩や腰を捕まえに忍び寄る。


『ちょ、ちょっと待ってくださいっ。どういうことですかっ』

『どうもこうもない。私たちは夫婦だ』


 でも今までこんなこと一度も!


 私は手足をばたつかせた。暗いので何がどうなっているか分からず、彼の手が触れそうになったら避けるように、身体をねじらせて。


『夫婦でも、心の準備というものがっ……』

『いつになったらできるんだその準備は! もう挙式から二月近くたっているんだぞ』


 確かに初夜の日は、据え膳として役割を果たそうと心を決めていました。でもあの頃と今は少し違うというか、あんな気持ちでいられた自分が今では信じられないというか、とにかく、


『恥ずかしいですっ……』


『…………』

 ぴたりと一瞬、彼は動きを止めた。


『あ、あの……。!?』


 落ち着いて話をしてくれるのだと思ったら、先ほどより早急な手が私の寝巻の、スカートの裾をたくし上げてきて。


『ななな、何するんですかっ。待ってくださいと言って……』

『声が大きい!』

『えええ!?』


 私の腰を掴んで寝巻を剥がそうとする。男性の圧倒的な力で。


 ただし、私の抵抗を抑えつけながらだから、彼の大きな手も思い通りにならない様子。そんなおぼつかない手でまさぐられた私の脚とかお腹とか、声を我慢できないほどくすぐったい。


 もう逃げられそうにない。どうすれば、……あぁっ、そこはダメっ……。


『いっ、いやあああああ』

『!!』


 天蓋ベッドのカーテン内に私の叫びが響き渡る。


 無我夢中であったが、ほどなくして私は彼の手が止まったことに気付いた。この衣服の中から、ごつごつした大きな手は退いてゆき……


『い、いやなのか……?』

 彼は力なく、後ろによろめくのだった。


『ユニヴェールは……俺が嫌なのか……』


 声からも悲壮感が漂う。


『待ってください。話を聞いてください』


 項垂れた彼、身体は大きいのに雨にぬれそぼった子犬のように見える。


『嫌ではないのです。ただあまりに早急ではないですか。結婚して何日とかではなくて、まずその、か、会話といいますか……』


 待って、私、何を言っているの? この期に及んでこんなこと言いだす自分、なんなの?


 だって本来なら初夜の時点で、もう彼の好きなようにされていても……。


『ん。ああ……つまり、それはやっぱり、アレか』

『アレ?』


 彼はこの場の緊張感をほぐすためか、一度咳払いをした。


『え、えい……』


『??』

『えいえええ、えっえいえ……』


 どうしたんだろう。冷や汗をかかれている。目線も下に下がっている。


『エイ(魚)?』

『えいえいえん……』

『ダインスレイヴ様?』


『ああっダメだ……』

 体格の立派な、この大きな方が、なんだか塩をかけられたナメクジのように弱々しく……


『言葉をあえて用意して発するだなんて、なんかダメだ!』


『どうしたのですか、ダインスレイヴ様、お具合でも? もう休まれた方が』


『俺はっ、それを思った瞬間にしか言葉が出ないんだ!』


 ちょっとよく分からない脳筋宣言と共に、両手を掴んで押し倒された。


「???」


 ……今日のダインスレイヴ様はやっぱりおかしい。決して嫌ではないけれど、このような状況で関係を進めてしまうのは……


『怖いのです……』


 そう、怖いの。だって、こんなふうに自分以外の誰かと、これほど真剣に向き合うことは、私、生まれて初めてで。


 身体だけではなくて心も、私のすべてを知られたら、受け入れてもらえるのかも分からなくて。


 この頃では彼についてひとつ知るたびに、胸がジリジリと焦がれていく。心地よい焦燥感。私、まだこの場所に留まっていたいのかしら。


 関係性に焦って、今、不用意に触れ合ってしまったら、自分が自分ではなくなってしまいそう。そんな気持ちを、どのように言葉にすればいいのだろう。


『やっぱり、サーベラスのがいいのか?』


 ん?


『ラス??』


 会話が成り立たないままで、彼は私の首筋に口づける。


「あっ……んん」


 触れたところが急速に熱を帯び、想像していた以上に気持ちよくて、激しく打つ鼓動は私の奥の“真実の私”を目覚めさせようと揺さぶってくる。


『だっ、だめですっ』


 耐えられないほどくすぐったい。なのに嫌じゃない。


 彼からあふれる、これが男の人なんだと知らせる香りが、私の期待をかき立てて、どんどん抵抗する力を奪っていく。


 彼の熱意を拒む理由が分からなくなる。


 もう任せてしまっても……いいかしら。


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『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

 こちら商業作品公式ページへのリンクとなっております。↓ 


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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

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