編集部にて ①
勢いと怒りで編集部に乗り込んだのはいいのだが。
「私、よく考えると部外者なのに編集変えろって言う権利ないじゃん……」
「そうだな」
「私のしたこと、ダメだった?」
「いや……。僕としても目に余る。僕も今回のことは相当許せないからね。それに……普段の行いもある」
「あー……」
「無理ですよ。俺を下すなんて! こんないい編集他にいないっすよ!?」
どこがいい編集なんだろうか。
それに、どこが悪いのかも理解していない様子。これ本当に大人か?
見た感じ年齢は私たちと同じくらいの25くらいなのに。
「お待たせした。それで……。おっと。その前に誰だね? この女性は」
「僕のツレです」
「和平です」
「編集長の大沢だ。それで……話とは」
「まず編集長。わざわざ出向いていただき申し訳ないね」
「いや、若くして大御所作家の仲間入りした君が直接呼び出したんだ。何か作品についてあったのか?」
「単刀直入に言おう。編集を変えてくれ」
「……なぜ?」
「この編集の行為は目に余るものがある」
今までやってきたことをつらつらと並べていく。編集長も神妙な面持ちだった。
当の本人は横でひたすら手遊びしているが。話なんも聞いてない。
「本来ならば原稿を無くしたことは報告すべきだった。それについては僕も悪いと思う。が、第一に原稿を無くすという行動も編集者としてどうなのかという話でもある」
「それもそうだ……」
「編集者としての能力の欠如だけならば僕もまだ怒らないよ。割り切るしかあるまい。だがしかし、こいつは僕の客人にも無礼を働きあまつさえ怒らせたことすら理解していない。こんなのを編集者として置いておくにはあまりにもデメリットの方が多いのだよ」
瀬野、なんか本当に怒ってるな。
それを大沢編集長も察知しているのか、少し苦虫を噛み潰したような顔をしている。
そして、編集長は頭を下げた。
「すまない……! 編集を変えることは……!」
「ほら。言った通り」
「黙ってろ。なぜダメなのか理由をお聞きしても?」
「その塩野という編集者はこの会社の社長の息子でな……。社長からよろしくと頼まれている」
「そういうことか。ならば仕方ないだろう」
瀬野は立ち上がる。
「話にならないな。あと数週間で連載を終了させて他の雑誌に移らせてもらう」
「そ、それもやめてくれ! 瀬野先生に抜けられると……」
「編集も変えられない、連載を止めるのもダメだと? そんなことがまかり通るわけがないだろう。答えは二つに一つだ」
「…………」
ものすごく悩んでいるようだった。
すると、部屋の外から声が聞こえてくる。次の週刊誌の表紙はじゅんぺーに頼んでみようとかいう話をしてて、その人たちが入ってきた。
「編集長〜、次の表紙の写真、VRMMOをモチーフとした作品ですしじゅんぺーという配信者に頼んで表紙を飾ってもらおうかと思ってるのですが」
「今はそれどころじゃない。それに、じゅんぺーさんがこういうのを受けたのを見たことがない」
「ですよね。じゅんぺーなら見た目いいしゲーム上手いしいけると思ったんですがね。また違う人を探してみやす。お話中すいませんでした」
そう言って出て行く。
出て行った際、社長、こんにちはという挨拶も聞こえてきた。
そして、再び扉が開かれる。
「大沢編集長。週刊少年ギャングの話ですが」
「しゃ、社長! どうなさったので!」
「いえ。少しお話し……が。あら、お話し中でしたか。また後で……」
社長はどうやら女性のようだ。
女社長は出ようとしたとき、私はこの顔を知っている。てか、見たことがある。
「……母さん?」
「母さん? 誰かし……潤?」
私の母さん、だった。




