黄金郷 ①
ムンシャドウは黒い体色で、額に三日月のような模様がある。
ムンシャドウは大きく口を開ける。そして、馬鹿でかい声で咆哮をして、あまりのうるささに私たちは耳を塞がずにはいられなかった。
「うるっさ! めんどくさいな!」
アトラク=ナクアを召喚したら一発で終わるだろう。
このうるさい咆哮も聞かなくていいはずだ。でもそれだと動画的に面白くない。
「鼓膜破れそー……」
「鼓膜破れたら痛いらしいね……」
「え?」
痛い、の?
なにそれ。体験してみたい。鼓膜は破ったことないから……。痛いならやってみたい……。
じゃなくて!
くそ、ダメだ。私の悪い癖だ。マゾヒスト的思考が戦闘思考を妨げている。
マゾヒストはとことん戦闘に向いてない性癖だぜ……。そもそも戦闘にならない性癖だからねぇ。
「ミツキ! 危ない!」
「ひょあああああ!!」
ミツキの方に馬鹿でかい水球を吐き出した。
すれすれでミツキが躱す。
「あ、危なかったべー……」
「なるべくミツキにヘイト向けないようにさせるんだ! ミツキはヒーラーだからヘイトを貰いやすい!」
「が、頑張る」
「タンクはこの中でルシフェルしかいないからルシフェルはミツキを守りながら! 私とゼノで攻撃! ウヅキは難しいかもしれないけど両方のアシスト!」
「了解だ。従おう」
「わかりました!」
「ミツキは状況を見ながら全員の体力管理! 私にはいらないからね!」
「りょ、りょーかいだべ!」
リーダーとしてまとめ上げなければ。
私は双剣を構え、ゼノは弓を構える。ゼノと私はそれぞれムンシャドウの横に回り込んだ。
私は横から懐に潜り込み、まずは一撃。
「鱗かってぇ! ダメージはあるみたいだけどカスみたいなもんしか入ってない!」
「ふむ。弾かれたな」
鱗が硬くてあまりダメージが入らない。
弱点を攻撃しなきゃ有効ダメージは入らない感じだろう。
「ガオオオオン!!」
「うわっと」
ムンシャドウはその場で回転。
尻尾で薙ぎ払おうとしてきたので、私はジャンプして避ける。
ムンシャドウは水を空中めがけて吐き出した。
その水は私たちに降り注ぐ。
「この水ダメージ受けるんだけど!」
「マジ? それは私やばいな」
というのも、不惜身命使ってるからもう受けたら死ぬ。
私これ死ぬ? と思いステータスを確認したが。体力が減っていない。
なぜだ? と考えると、もしかして炎龍人の恩恵かもしれないと思った。
炎を纏っているから小さい水は蒸発してなくなるのでは?
「なるほど、ラッキー」
炎龍というのは案外侮れないようだ。
「とりあえず弱点を見つけないことには話にならないな」
私は観察する。
モンスターには部位があり、弱点がある。必ずしも倒せない敵というのは基本的に存在しない。
数多ものクソゲーをやってきたので、もし弱点がなくても戦い方はある。
「尻尾には鱗がない、顔にもない。ゼノ、顔と尻尾!」
「了解」
鱗がない部位には攻撃が通るはず。
私は尻尾に双剣を突き刺すと、ムンシャドウは痛がるような声を出した。
きっと目を細め私を睨むムンシャドウ。
「ガオオオオァアアアアア!!!!」
「やっぱうるっせ……」
耳をつんざく咆哮。
ムンシャドウは私たちと距離をとる。と、突然私たちの足元に水が溢れ出てくる。
「なんだ? わっぷ」
私たちは水の中に引き込まれていったのだった。
体力は減っていないが、私たちは水の中に沈んでいく。もがいても浮上することは出来なかった。
このまま私たちはどこへ行くんだろうか。
すると。
「光……?」
「まさか!」
「な、なんだべ?」
「え、何この光。って喋れる!?」
「水の中で喋れるなんて不思議……。いや、今はそうじゃなくてあの光か」
私たちは光に包まれたのだった。
黄金の光が私たちを包み込む。そして。私たちの目の前に現れたのは。
「黄金郷……?」
黄金に包まれた空間だった。




