漫画家の瀬野 和人
ともあれ、黄金郷探しは翌日に持ち越しになった。
明日も配信する旨を伝え、翌日を迎える。私はログインして、ログアウトに使わせてもらった宿から出た。
「待っていたよ、じゅんぺー君」
「……誰ですか?」
無愛想な顔をした男の人に声をかけられたのだった。
無愛想な男の人はわからないのも仕方がないと話している。
「僕はゼノ。現実では超売れっ子漫画家さ」
「超売れっ子……?」
「君のような年齢の人は読まないかもしれないが、週刊少年ギャングでX Planという漫画を連載させてもらっているよ」
「エクプラ……漫画家の瀬野 和人!」
「そうとも」
X Planといやぁ、有名なファンタジー漫画だ。
あのギャングでファンタジー漫画は長続きしないというジンクスみたいなのがあるのだが、そのX Planはジンクスなど関係なく、もう7年も連載している。
単行本も54巻くらいでていて、累計発行部数もいいところいってるはずだ。
本当に瀬野 和人ならやばいが……。
「信じられないかい? まぁ、無理もないだろう。じゅんぺー君は配信で顔を出しているが、僕は漫画家だから基本的に顔を出さないからね。なら今度、僕の職場に来るといい。Twitterで僕の仕事場の住所を教えよう」
「……ほんとに瀬野 和人?」
「そうだとも」
「でも週刊連載してる漫画家だからゲームしてる暇なんて……」
「この僕をなめるなよ? 僕は数週間分は一気に書き溜めるのさ。もう三か月先までは書きだめてOKをもらっている。ゲームする余裕は山ほどあるさ」
か、書き溜めてるのか。
「それより、だ。僕は君に用があって声をかけたのだよ。君……昨日の配信内で黄金郷を探すといっていただろう?」
「言ってましたね」
「僕も付き合いたい。僕も非常に黄金郷に興味がある。僕にも手伝わせてほしいのだよ。いいね?」
「あ、良いですよ」
人手があるに越したことはない。
まずは情報を集めなくちゃいけないし、人手があると情報を集めやすいし。
「でも、単独でも探せるのになぜ私に声を?」
「……僕はこれでも君の配信を結構見ている視聴者でね。君と探したいとも思っていたのだよ。迷惑だったらすまないね」
「ああ、視聴者なんだ。あの有名な漫画家が……。持ちつ持たれつの関係かな。私も瀬野先生の漫画はよく集めてるし」
「そうなのか。それは嬉しいね。僕と君は同年齢だから、同い年で活躍している君がとても気になってね。気が付いたら魅入るようになっていた」
「タメなんですね」
「そうとも。だから敬語を使う必要もない。僕は君を尊敬しているが敬語を使っていないだろう?」
それもそうか。
私は咳払い。
「じゃ、そうするよ。私は基本的に配信しながら探すんだけど顔出しとか大丈夫? 多分リアルモジュールだよね?」
「かまわないよ。視聴者からしたら誰だとはなるだろうが、自己紹介はするさ。それと……今度配信用のイラストを描いてもかまわないかい? もちろん、金はとらない。気に入ってくれたら依頼してくれるととてもうれしい」
「お、いいの?」
「僕が本当に瀬野 和人である証明ができるだろう。お互い、WINWINの関係でいたいからね」
瀬野 和人であるという本人。
この漫画家は自己中心的にも感じるが、筋は通していると思える。黄金郷に興味があること、私の配信を見てくれているから一緒に探したいこと……。
この漫画家は本当の私のファンなのだろう。実にありがたいね。
「よし、今日の午後から配信するからね。それに参加してくれると嬉しい」
「わかった。ただ、三時には一度抜けさせてもらうよ。担当編集との打ち合わせがあるからね」
「オッケー。あの瀬野先生と配信できるんだ。こんなにうれしいことはないね」
「僕としても推しの配信者の配信に出られるなんて光栄だね」
お互い、利がある。




