百鬼夜行 ②
玉藻前と呼ばれた男性は、ふんと私たちを見下していた。
「妲己よ、お前も落ちたものだな。もともとは俺らと同じだったはずなのに」
「それは昔の話じゃ。人間と友好を結ぶ。その道も我らにはあるはずじゃ」
「ありえないな。妲己ともあろうものが人間に幻想を抱きはじめたとは」
上から目線の男。
すると、隣の猫がミケに襲い掛かった。
「人間は恨むもの! 人間に篭絡され甘くなったお前らなぞ私たちの敵じゃにゃい!」
「金花猫……! おぬしはお呼びじゃないのにゃ!」
金花猫っていう妖怪いたか?
まぁ、それは私が知らないだけかもしれないし。だがしかし、妲己と玉藻前。同じキツネだというのに、玉藻前はどうにも好きになれそうにないな。
「それに、人間を好きになることが落ちたとは言わぬ。人間も素晴らしきものよ」
「分かち合えないな。つくづくと。まぁいい。人間たちがいなくなれば、お前らも妖界なんていうものを維持しなくても済むだろう? この俺様が、直々に人間たちを滅ぼしてやる。まず手始めとしてこの街からだ! 者ども! 人間どもを蹴散らすがよい!」
「この野郎……! ミケ、妖界から妖怪どもを呼んでくるのじゃ! しょうがない、戦争と行こうかの!」
「行きたいのはやまやまにゃんだけどっ!」
「オッケー」
私は金花猫の首筋に右手の剣を突き付けた。
ミケが金花猫の相手でいけないというのなら相手を代わってやればいい。金花猫はなにするの?と私に怒ったようににらみつける。
「ま、ここは私がやるよ。なるべく早く呼んできて。この妖怪の数、私ひとりじゃ手におえないからさ」
「ありがとなのにゃ! 死なないでにゃ!」
「死なないよ。今は」
ミケは走り出す。
「死なない? 本当にあなた死なないとでも思ってるの? 元人間のくせに」
「今はって言ったよね? 人間はいずれ死ぬものだよ。寿命とか、病気とか。でも、今は私は健康体だし若いから死なない」
「殺されるって思わないの?」
「殺されるだなんてそんな物騒な。だけどまぁ……今のお前になら殺されはしないかな?」
「そんな口を……!」
と、鋭い爪でひっかこうとしてきた。
私は双剣で受け止め、左手の剣で胸元を貫く。戦闘に関してはまだまだといったところだな。今更こんなのに負けるわけがないんだよ私は。
「にゃにゃ……?」
「金花猫!」
「にゃ、にゃぜ……。つ、強い……」
「お前っ!!!」
と、玉藻前が私に攻撃を仕掛けてきた。
やっぱ倒しちゃまずかった系? いや、でもまだ死んでない。ほら、消えてないし?
「おらポーションくらえ!」
「な、何がしたいんだ貴殿は……」
私は金花猫にポーションをぶっかける。
金花猫はぱちりと目を覚ました。
「あ、あれ? 死んでない……?」
「ね? 殺される側の気持ちわかったでしょ?」
「えっ」
「快感、でしょ?」
なんとなくわかった。お前の感じ。
お前はきっと私と同じなんだ。私と同じだと思うのだ。その証拠に。
「にゃ、にゃんだろう。たしかに快感……?」
「ん?」
「やっぱ同族だよお前! 仲良くしようぜ!」
「金花猫! なにをして……」
「ど、どーぞく?」
「金花猫。もう人間を憎むのはやめなよ。そもそも、そんな恨んでないくせに」
「金花猫。耳を貸すな!」
「ふぇ? 何この状況……」
金花猫、同族ならば説得すればこちらに堕ちるはずだ。




