アトラク=ナクア
東の国に行くための船職人がこの街にいるということで、私たちは地図を頼りにその場所に向かうが。
「船職人のロッポウさんならつい一か月前に引っ越したぞい。ここじゃ人の心を忘れちまうとか言ってな……」
「え、嘘……。どこに引っ越したかわかります?」
「たしかグルーシャの森を超えた先にある海の街アクアクアだったかな」
「アクアクア! わかりました!」
アクアクアという街に引っ越したようだ。
私たちがさっそく向かおうとすると、やめておけという。
「こっからアクアクア向かう道に強いモンスターがいて通せんぼしてるんだ。今はやめておきな。討伐されるのを待っとけ」
「え……」
どうやら魔物がいるらしい。
マドカは魔物が出るということで少し怖気づいていたが、私たちがいるから大丈夫だろう。それに、魔物と戦わないと強くならないしな。
私たちが倒してみますと告げて、グルーシャの森の道を尋ねる。
グルーシャの森はこのメイカーの街を出て東に向かった先にあるのだという。そのまま東に向かってみると確かについたのだった。
森の中に一本、大きい道があり、そこを通るとアクアクアという街につく。が、この道に強い魔物が通せんぼしており、通れない。
「腕がなりますね」
「そうだね」
「ひいい……。なんでこの二人は戦う気満々なのぉ?」
私は双剣をいつでも抜く準備をしつつ、道をまっすぐ歩く。
マドカはモンスターに慣れていないのか、びくびくしながら歩いていた。一方、シシオはまるで今すぐにでも戦いたいといわんばかりに武器に手をかけている。
シシオは案外戦闘狂らしい。
「ん、なんかくる」
「ひいいい!?」
私は双剣を抜いた。
武器を構えていると、それは上のほうからやってきた。だらん、と木からぶら下がって落ちてきたのはデカい蜘蛛。
私たちの身長の数倍はあるかのような蜘蛛だった。蜘蛛はこちらを見て、足を広げ威嚇している。
「ほほう、これは強そうだ」
「うっほぉ、こういう蜘蛛好きなんだよなー。テイムしたい」
「気持ち悪いいい!」
複数ある蜘蛛の目。タランチュラのように毛でおおわれている足。そしてなんか柔らかそうな腹部。頑丈そうな蜘蛛の糸。
うーむ。意外と私蜘蛛好きだからこういう魔物は私好みだ。縛られてえな……。その蜘蛛の糸で……。
「だが、おかしい。こういう魔物は襲ってきてもいいはずなのだが襲ってくる気配がない」
「…………?」
「私たちの何かにおびえているような感じがする」
蜘蛛は威嚇だけはしているが襲ってくる気配はない。
割と好戦的に見える蜘蛛で、こういう会話なんてしている暇はないと思っていたが様子がおかしいとシシオが言った。
私たちの何かにおびえているとはどういうことだろうか。
《アトラク=ナクア が炎龍の力におびえているようです》
《恐慌状態の相手はテイムすることが可能です》
《強制的にテイムしますか?》
というアナウンスが。
マジで? 私のこの炎龍の力が原因のようだった。それで、アトラク=ナクアは恐慌状態に陥っているんだという。
そのことをシシオに告げると、テイムしちゃってくださいと言ってきた。
「よし、アトラク=ナクア。テイムだ!」
「キシャ……」
私の手の甲に蜘蛛の紋章が浮かび上がったのだった。
《アトラク=ナクア をテイムしました》
《名前は後で変更できます》
《アトラク=ナクアの説明が必要ですか?》
というアナウンス。
説明聞いておこうか。
《アトラク=ナクアは神話級の魔物です。人間が決めたモンスターランクでは最上位のランクに所属しております。
炎龍に昔種族を絶滅に追いやられそうになった過去を持ち、炎龍やその子孫の力を感じると一気に恐怖が襲って動けなくなります。
蜘蛛の糸は鋼のように頑丈でありますが、人間がアトラク=ナクアの蜘蛛の糸を手に入れたことはほとんどありません》
ということだ。
最上位ランクってことはSSランクかよこの蜘蛛。こんな序盤で出てくるような奴じゃない。
「この蜘蛛、やべえな……。戦ってたら負けてたわ」
説明を聞いてわかった。勝てない相手だと。
アトラク=ナクアはクトゥルフ神話に出てきます。名前だけ拝借…




