ありがとう
この街は私にとっての理想郷かもしれない。
私はものすごく興奮していた。こういうディストピアを待っていた。暴力と侮蔑が絶えない街。ここなら私はずっと暴力を……。
殴られ蹴られ……。そんな行為が日常生活となったこの街はいい。
「じゅるり……」
高ぶってきた。今夜あたりでもSMクラブでもいくか?
私は一人で興奮していると、フレンドからメッセージが届いた。
ウヅキ、ミツキからだった。内容は今日は配信しないのかということ。配信か。するか。気分が高まっている今、配信したほうがいい。
私はするという旨を告げ、今いる場所を言うと、今すぐ向かいますという連絡が来た。ちょうど二人もこの街に来ていたらしく、すぐに合流することができた。
「お待たせしました! って、なんでそんなふしだらな顔してるんですか!?」
「ふぇ? ああ、なんでもない……。それより、告知ツイートしてないし今からするか。ゲリラ配信ってことで」
私は配信を始めると同時に、ツイートもしておいた。
人が着々と来てくれている。コメント欄には無事でよかったなんて言う文字が書かれていた。そういえば私包丁で刺されてましたね。
「ということで、改めて。生きて帰ってこれました」
『なんていうか、お疲れ』
『妹ちゃん捕まった?』
「捕まったよん。でも誰も殺してないし、私も許してるからってことであまり苦しませないでって言っておいた。まぁ、その話はよくて。今私はめちゃくちゃ興奮している」
私は鼻息を荒くする。
「新たなエリアなんなんだこれ! ディストピアじゃん! 私こういうの好き! 暴力が絶えない街なんでしょ!? 実質ご褒美じゃん! 私がいない間になんでこんな私好みの街が解放されてるの!? ありがとう! というわけで今日は殴られに行く配信……」
「え!? そうなんですか!?」
「殴られるのは嫌だべ……」
『変態……』
『誰だよこんな街作ったの。変態が興奮しちゃってるじゃねえか』
『いや、なんとなくこういうのとマゾヒストの変態はマッチすると思ったけど……』
『暴力をする人と、暴力を振るわれるのを望む変態……』
いやぁ、実に素晴らしいということを力説する。
この街が現実にあったら住みたいくらいだ。治安は相当悪いだろうけど、治安を悪くしているのは人間なので問題はない。それも人間の営みというわけだ。
「え、えと! それよりこの街の近くに石炭などが掘れる炭鉱があるみたいなんですよ! じゅんぺーさん、そこにいきませんか!」
「魔物も出るらしいんだ! わたすたちもレベルあげてえし手伝ってくんろ!」
「わかった! 手伝う!」
『あまりに興奮しすぎて幼児退行してやがる……』
『ミツキ、ウヅキペアはこれ見て普通の反応で居続けるのがやべえ』
『案外つわものだな二人。若いのにこんな変態のそばにいて……』
炭鉱が近くにあるからこそ技術が発達したんだな。
燃料が近くにあり、また、そこそこ規模のでかい川が近くにあるから工業地帯にはもってこいの場所だ。
もってこいの場所だからこそ、技術を発達させすぎて、人の気持なんか理解できなくなって……。すべての要因はこの土地にあるのかもしれないな。
ありがとう、土地の神様。




