帰省 ③
私たちは家に帰ってきた。
帰ってくると、なんだかものすごく静か。叔父さんたちはいるはずなのにと思って居間をのぞき込むと、包丁を手にした妹がなぜか立っていた。
「お帰り、お姉ちゃん」
「なにしてんだお前」
私は妹を蹴り飛ばす。
包丁を手放し、カランと音を立てて地面にはねる。
「捕まったはずじゃ……」
「結構前に捕まったよ。脱獄してきたに決まってんじゃん。お姉ちゃんを殺すために」
「……なんかおかしいとは思っていたよ。昨日、ゲーム内で会ったから」
というのも、時系列が合わない。
昨日ゲームしているんなら捕まってるわけがない。父さんは捕まったといっていたし、昨日手続きとかで忙しいとかさっき言っていたが……。
父さんが中に入ってくると、驚いた顔で京を見つめていた。
「なぜここにいる……!」
「父さん。父さんが私を通報したんだね。いいよ。父さんは許すよ。どちらにせよ、私はお姉ちゃんを殺したら出頭するつもりだったからね」
「潤、逃げなさい!」
「いや……」
逃げるわけにはいかない。
妹がなぜこうなったのか、私は理解しているはずだ。私はよく周りに何でもできるといわれる。勉強も、運動も、ゲームも。
私が才能を全部持って行ってしまった。両親は平等に愛してくれてはいたけれど、妹は周りから搾りかすだの残りかすだのと言われ続けていた。
私が妹をこうした要因。ならば目を背けて逃げちゃダメなんだと理解している。
「久しぶりに喧嘩しようか。姉妹喧嘩」
「そういう余裕ぶった笑みがむかついてしょうがないんだよ!!」
と、包丁を再び手にして向かってくる。
私は避けない。私の腹部に包丁が突き刺さる。血が垂れる。妹は包丁を抜こうとしたので、私は妹の手を抑える。
「離せ!」
「バーカ。離すわけにいくかよ。一回だけ刺されてあげたんだ、バカ」
私は妹をぶん殴った。
妹は包丁を手放し、地面に倒れる。目から、涙が流れていた。どうして、だとか呟いている。こいつもこいつで悩んでいた。それは理解している。
だからといって殺される謂れはない。
すると、外のほうからパトカーのサイレンが聞こえる。
「きょ、京姉ちゃん! パトカーが来たからな! もうそんなことは……」
「なんで……私はお姉ちゃんに勝てないんだよ……。どうして……」
「努力もせず、ただ私を殺していなくさせればって考えてる時点で負けだよ。ったく、まじで痛い。気持ちいいけど……」
「潤姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。それより、京と話を少しだけさせて」
私は京に近づいた。
殺意が消えた。私にかなわないということが理解できたようだ。
「京。周りからお前が残りかすだのと言われていたのは知ってる。それを知って、なにもしなかったのは私が悪い」
知っていて辞めさせなかったのは私が悪かった。私にももちろん殺されそうになった一端はある。
「でも、だからといって、私を殺していなくさせれば解決ってことにはならないぞ。原因となった私が消えるだけで、残りかすだのなんだの言われるのは変わらない」
「…………」
妹は静かに泣いていた。
「なぜおまえは見返してやるって思わなかったんだ。残りかすだなんて言わせないなんて思えなかったんだ。努力もせず、悪口の要因をなくせばいいだなんて思った時点で私に勝てるわけがないぞ」
「…………」
「私はお姉ちゃんなんだ。妹の殺意だってなんだって受け入れてやる。まぁ、お前自身結構サディストだから楽しんでた部分はあるだろうけどね。限度ってもんがあるよ。私だって殺されそうになったら気持ちよくなれないもん」
「お姉ちゃん……」
「私は一度でもお前に悪口を言ったか? 父さんたちはお前を責め立てたか?」
「いや……」
「父さんだって通報するのは気が引けてたんだよ。何回も私が殺されそうになってるのに通報しなかったのはそれが理由だよ」
「…………」
父さんは目をそらしている。
どちらも大切な娘であることには変わりないだろうからな。
「ま、罪を償ったら私に謝れ。それで許してあげる。時間がたてば多分お前の中にある殺意は消えてなくなると思う」
「ごめ……なさ」
「今はいい。お前だって整理できてないだろ」
「突入! おとなしくしろ! 京……」
と、警察が中に入ってきて、京を捕らえる。
京は立ち上がり、手を差し出した。
「逃げてごめんなさい」
「お? おう……」
手錠がかけられた。そして、パトカーに連行される。
「警察の人」
「救急車も手配したからな。あなたはそれに……」
「いや、私はいいんです」
この刺し傷はどうってことない。
「妹をよろしくということと、なるべく罪を軽くさせてあげてください。彼女の目的は私の殺害だけだったんで。反省していると思うし、私も許しますから」
「わかった」
「じゃ、とりあえずこれを証拠品として……」
私は包丁を腹から引っこ抜いた。
血が噴き出る。
「なにしてんだあんた!」
「おお、血が出る出る。ぶっしゃー!」
「きゅ、救急車あああああ!」
いてえ。改めて感じる痛さ。
ああ、気持ちいい……。




