さらけ出そうぜ
美春は酔っ払い、そのまま眠ってしまった。
そして、夜。美春が目を覚まし、そのまま流れるように土下座を決めたのだった。
「ごめんなさい」
「なにが?」
「その……酔っぱらってあなたにひどいことを」
と、酔っぱらって私に暴力をふるったり蔑んだりしたことを謝ってきた。
サンキチはぐーすかと眠っており、美春は顔を青ざめさせていたのだった。
「謝る必要はないよ?」
「でも……」
「酔うと私好みの女王様になるからね……。ものすごく興奮しました。ありがとうございます」
「なんかこの人気持ち悪い!」
褒め言葉ですよそれは。
私はとりあえず食器とか空き缶とかを片付けることにした。空き缶は洗ってまとめてゴミに出さなきゃいけないので、とりあえずキッチンのシンクの中へ入れる。
「気にしなくていいよ。それより美春ってゲームとかする?」
「するけど……」
「じゃあ、お詫びしたいなら今度私の配信に出てよ。ゲストとして。今話題のアイドルとコラボなんてもっと視聴者稼げるし」
「それだけでいいの?」
「いいよ。それに、昔いじめていた相手と和解したことだって伝えたいでしょ。昔の禍根はなくなったってこと」
「まぁ……」
「サンキチも自らいじめをしていたってばらしたからさ、客足もそこまでないんだと思う。だから今暇なんだと思うんだよね。サンキチのためにもお願い」
「……なんか複雑ぅ」
「いじめいじめられってそういうものじゃない? 複雑に絡み合ってるのが当たり前でしょ?」
そういうものだ。
いじめはマイナスしか生まない。基本的には。
現に美春だって復讐してやろうという気持ちで有名になったんだし。マイナスはどんどん連鎖していく。
今回に限ってはそのマイナスをうまく止められたって感じだけどね。
「まぁ、でもいいよ。僕はもうサンキチに恨みはないしね」
「……僕?」
「ああ、本当の一人称は僕だよ。テレビじゃ私で統一するようにしてるけど。僕っていうと一部がうるさくて。女なのに僕だとか言われるの。そういうのうざくて」
まさかの僕っ子。
「女王様で僕っ子……。属性過多かよ」
「女王様っていうのはやめてくれないかな……」
「これを機に全部さらけ出そうよ! 私みたいにさ!」
「さらけ出すぅ?」
「そうそう。そういうの大事だよ?」
ただでさえ今のご時世生きづらいんだしね。
好きなもんは好きだとはっきり言える世の中ではない。だからこそ、逆張りして。私は好きなものを好きだというし、自分の欲望のままに生きていく。
「うーん、まぁ、そうだね。なんか、本当に何もかも馬鹿らしくなってきてるところだしー? 僕も自分をさらけ出そうかな」
「よし、じゃ、これ」
私はとりあえず鞭を手渡した。
すると、美春は迷わずごみ袋の中にその鞭を突っ込む。
「なんでこんなものがあるのさ!」
「なんで捨てるのさ! さらけ出すんだろ! 内なる女王様を出してみろ! 私をもっと……もっと嬲って罵って……! さぁ! さらけ出そう!」
「僕はそういう趣味ないっての!! とりあえず僕もう帰る! ありがとね!」
「私を無碍にするのも、なんていうか……今日はちょっと夜忙しいぜ……」
今日はボルテージがめちゃくちゃ高まる日でした。
「……あ、ゲームは基本的に夜7時からやってるから。そのときなら一緒にやろ。僕はルシフェルって名前でやってるから」
扉をちょこっと開けて顔を出して言ってきた。
そこは律儀なんだ。




