いじめられっ子アイドル
月曜日の朝。私がゲームにログインしようとすると、SNSで一通の通知が来たのだった。
朝倉 美春【公式】と書かれている垢。開いてみると、公式マークがついており、その人からDMが飛んできたようだった。
『じゅんぺー様。まずは突然のDM失礼いたします。
先日の配信を拝見させていただきました。そこに、私をいじめていた女性が反省している姿が映っており、DMをさせていただいた次第です。
三吉さんと友人であるあなたにお願いをしたいのですが、三吉さんと話す機会を設けてはいただけないでしょうか。本当に反省しているのか、この目で確かめたいのです。
第三者であるあなたに頼むのは礼儀知らずだとは思いますが、どうかお願いいたします。』
と、堅苦しい文章で書かれていた。
要するに、いじめられていた女の子というのはテレビでも見たことがあるアイドルの朝倉 美春さん。アニメのOPをきっかけに売れて、今では歌番組でよく呼ばれるようになった天才アイドルとのこと。
彼女は確かにいじめられていた過去を公表していた。ネットニュースにもなっていた。
サンキチがいじめていた相手がこのアイドルだったとは。
私はとりあえずわかったという旨のメッセージを送る。
そして、土曜日。
私は私の家にサンキチを呼び出した。それも結構どうでもいい理由で。
「料理の試食会? いるの? じゅんぺーに」
「まぁ、来てもらうための口実」
「口実……?」
「入ってきていいですよ」
というと、私の寝室から朝倉 美春が出てきた。
美春を見た瞬間、サンキチは固まった。
「三吉さん。どうも」
「ど、ども……」
「私のこと、覚えてますよね」
サンキチは汗をだらだら流している。
そりゃ昔いじめていた本人が目の前に級に現れたんだ。こういうの、サンキチは絶対嫌がるだろうから嘘をついたわけなんだけど。
「……忘れもしないよ。その」
「いい。昔のことだから。私はただ確かめたかっただけなんだ。だからじゅんぺーさんに無理を言ったんだよ」
「確かめ、たかった……?」
「本当に反省してるのかなって。いじめてた過去を忘れてのうのうと生きてるなんてそういうの、むかつくから」
「……はい」
サンキチはすでにあたふたしている。
真剣にサンキチを追い詰める美春。
「でも、なんで急に反省したって言ったの? いじめてた人ってみな大抵そのことを忘れてのうのうと生きてるのに、なんで忘れないの?」
「そりゃ反省してるからだよね」
「そうだね」
「美春。私の口から言うのもなんだけど、私もサンキチの口からいじめていたっていう話は聞いたし、いじめていた人が有名になったっていう話も聞いてた。サンキチは本名出される覚悟で毎日過ごしてたらしいし、反省はしてるよ」
「そうなの?」
「毎日、テレビで本名出されないか心配だった。でも、出されても私がやったことだからって思って受け入れるつもりだった」
サンキチはそういって頭を下げる。
今更遅い謝罪だけどね。まぁ、反省の意を込めてってやつだろう。
「なんか気が狂う……。いじめてた人に復讐しようとしてた私がばかみたいじゃん」
「復讐?」
「有名になって、それで私はお前よりこんな有名人になったんだぞって言って、本名とか出してアイドルやめてって考えてたんだよ。本名出される覚悟があったんならこんな復讐劇無駄じゃんね。ってか、なんでいじめがだめだって気づいたの?」
「それは……」
「私のせいだね」
いじめはみっともないというのは私のおかげで気づいたとも聞かされた。
「なんで?」
「いやぁ、私高校生の頃、皆に私のことをいじめるように言ってたんだよ。いじめてくれって。そしたらなんか気づいたって」
「……は?」
「ほら、私ってマゾヒストじゃん。いじめられて快感を得てたんだよね。それをみて」
「あ、なんかいじめってみっともないなって……」
「どっちも頭おかしいよ?」
ほめるなよ。
目の前のアイドルの美春は少しドン引きしていた。
「え、じゃあなに!? 自らいじめられていた人みて直したの!? 人の振り見て我が振り直せっていうことわざあるけどそれで!?」
「その、じゅんぺーにいじめてくれって言われたときは本当にあなたにやったみたいにいじめたんだよ? でもね、やってるとめちゃくちゃ気持ち悪い反応ばかりして……。それでなんか、いじめだめだなって」
「容赦ないいじめ、気持ちよかったなぁ……。思い返すと興奮してきたぜ……」
「待って! この人頭おかしい! キャラづくりじゃなかったの!?」
「その、こいつの場合は素だよ?」
「ちょっと怖いよ!?」
怖がるなよ。
私は自分の性癖に素直なだけ。人はみないつ死ぬかわからないんだし、性癖を楽しんだほうが勝ちってもんよ。
「まぁ、私の性癖はいいけど、もう許したの? 美春」
「許すも何も君のインパクトのほうが強すぎてそれどころじゃないんだけどね!?」
「その、なんか空気ぶち壊してごめんなさい」
「それは三吉さん悪くないよ!? 壊したのこの人じゃん!」
「でも、なごんだでしょ? 真面目な雰囲気の中にこんなバカみたいな奴いたら。私、堅苦しい空気とかマジで嫌だからさ。ぶち壊させてもらったぜ!」
「……と、こういうやつなの。こいつの近くだとそんな真剣な話できないの」
「頼んだ私がばかだった……」
後悔先に立たずですよ。
みなさん、わかってるでしょうが、多分この作品の主人公はシリアスな空気には一切なりません。




