マゾヒストのルーツ
水曜日の夜10時ごろには予約投稿ができて、私はほっとひと息。
私はそのまま気分転換がてらゲームにログインすることにした。ヘッドギアを被り、ベッドに寝そべる。
そして、ログイン。
「っし、いっちょストレス発散がてら……」
戦いに行こう。
私は街の外に出る。ゲームと現実の世界もリンクしており、ゲーム内の時間も夜の10時。満点の星空が私を包み込む。
王都に戻りたいが、王都に向かう機関車は夜9時までの運行だ。大人しく始まりの街で戦うしかない。
始まりの街のモンスターは今の私にとっては雑魚だし、取るに足らないけど、発散相手にはなる。
私はモンスターを探していると。
「たあーすーけぇーてぇーーー!」
という救難を求める声が。
私はその声の方に向かうと、女性が魔物に追われている。戦士職であろう彼女は重そうな鎧を身にまとい走っている。
私は双剣でモンスターの攻撃を受け止める。そして、そのままモンスターを倒した。
「大丈夫ですか?」
「はい……。ありがとござますー」
「……ん?」
なんか見たことがある顔だ。
私がその顔に既視感を覚えていると、仲間であろう二人が手を振って女性の名前を呼んでいた。
「オイリ! おま戦えよ! いつまで慣れねえんだよお前!」
「だって相当久しぶりなんだもん……。怖いよそりゃ!!」
「やりたいって言い出したのオイリですよね……。言い出した本人が戦わないのはどうかと……。戦い慣れてない双剣使ってますし……」
「だってぇ……。好きな配信者さんがやってるんだもん……」
「その配信者に会いたいから始めたんだな……。意外とミーハーだなお前」
と、三人はとても仲良さそうだった。
「あなたが助けてくれたんですよね。ありがとうございます」
「ん、当然当然。それより……。その金髪の人……。蒼眼の死神かな?」
私がそう言うとその金髪の人は構えた。
殴る気満々だ。図星のようだ。
「なぜそれを?」
「今どき知ってるのは当時戦った不良ぐらいだが……」
「蒼眼の死神。忘れもしない。私の性癖を拗らせた犯人……♡」
昔、私は蒼眼の死神に喧嘩を売らされたことがある。蒼眼の死神と戦い、ボコボコにされた。
ものすごく殴られて、しこたま殴られて。その時、私はあろうことか快感を感じてしまった。それが、私のルーツ。マゾヒストのルーツ。
「ボコボコにされたこと、ものすごく気持ちよかった……。蒼眼の死神は私にとてつもない狂った性癖を目覚めさせた恩人……」
「うわぁ……」
「責任取った方がよいのでは?」
「これ私のせいか?」
「改めて、オイリさん。この前は私を紹介して頂きありがとうございました」
「ふぇ?」
「女優の花本 衣織さんですよね? 私は配信者を生業としてます、じゅんぺーと申します」
「ふぁ?」
オイリさんはポカンとしている。
「オイリの推しの配信者だったんですね」
「はい」
「オイリが言っていた。じゅんぺーは強いと。……ふむ」
「戦いたいんですか?」
「もちろんさ。じゅんぺーって言ったか。やろうぜ」
「しこたまボコボコにしてくれぇ!」
私は双剣を取り出し切り掛かった。
腕を掴まれ、拳が飛んでくる。私は仰け反ってかわし、手を振り解く。
「鈍ってるとはいえゼーレの攻撃をかわすとは……」
「ね、ね! 強いでしょ?」
「ああ。これは滾る」
今度はあちらから仕掛けてきた。
拳が目の前に飛んでくる。私は右手の剣を振り上げ攻撃。私の剣が当たったが、それと同時に相手の拳も顔面に当たる。
私は吹っ飛ばされる。
「んあっ……痛い! 超気持ちいい!」
この痛み……。この快感は堪らない。
そして、こんな強い相手に出会ったのは久しぶりだ。レベル差はあるからそこまで体力は減ってないが、それでも痛いものは痛い。
「くっそ、レベル差があんな……。今の一撃で瀕死だ。割と装備は整えてるんだが……」
「これはゲームやってる時間の差ですね。勝てますか?」
「わからん……。不敗を誇ってたけど、最近というか、ここ数年、社長になってからマジでゲームとか喧嘩とかしてねえもん。勘が鈍ってる。私の負けでいい。これ以上受けたら死ぬ」
と、両手を上げて降参ポーズ。
私は武器をしまう。
「気持ちよかったです。また戦いましょう」
「気持ち良くなられるのはなんか嫌だが……。まぁ、いいだろ」
《ゼーレからフレンド申請が届きました》
《ワグマからフレンド申請が届きました》
私は二人とフレンドになった。




