だから気に入った
雪が降る大地。
私たちは炎龍が寝ているという巣にやってきていた。炎龍のせいなのか、ここら一面雪が解けている。雪が解け、大地がむき出しとなっていた。
「ここは本来、雪が一年中降る場所なんです」
「大分北に来たからねえ」
雪が一年中降る場所において、この雪解けは明らかに異質。
狼の子供は起き上がり、怯え始めたのだった。
「ウヅキ、先に進もうか」
「私たちはここまでしか案内できません。世界の探索者様ならば死んでも神様の手によって生き返るとは思いますが、気を付けてください」
「わかってますよ」
私は、炎龍の巣である洞窟の中に入っていく。
洞窟は妙に明るかった。そして、洞窟内の地面の上にそれはいた。
とぐろを巻いている巨大な蛇。それはドラゴ〇ボールを7つ集めたら出てきそうな、日本昔話にでてきそうな龍だった。
そのあまりにも無防備な寝姿は自信の裏返しだろう。自分に勝てる相手なんていないという驕り。それは実際正しいとは思えるが。
「とりあえず、たたき起こすか」
私は双剣をその龍に突き刺した。
その瞬間、体から火が沸き起こり、目がぱっちりと開く炎龍。私のほうをぎろりと睨む。私はすぐに身を引き、距離をとる。
「これがドラゴン……」
「ドラゴンっていうよりかは龍だね。ドラゴンとは似て非なるものかも」
『でも壮大』
『龍と竜は違うよね』
『でもすっげえ……』
炎龍は眠りを妨げられたことがむかついているようだ。
炎龍は咆哮をあげ、ブレスを放ってくる。火の息は私たちを包みこむ。私はウヅキを引っ張り岩陰に隠れやり過ごす。
炎龍のブレス。青く光っているのを見るに相当高温だろう。私たちが生身で耐えられるわけがない。だからこそ、戦いの場であるここには無数の岩が散らばっているのだろう。
「岩に触れないほうがいいよ。岩も多分溶け始めてきてる」
「え、それまずくないですか?」
「このブレスが終わるのが先か、岩が完全に溶けるのが先か……」
ただ、この岩も安心安全というわけではなさそうだ。
長いブレス攻撃が、収まってきた。岩は完全に溶岩と化し、だらりと地面に溶けている。どんだけ高温のブレスなんだよ……。
炎龍は息を切らしている。
「それじゃ、こっちの番!」
私は双剣を握りしめて、切りかかる。
鱗と鱗の間に双剣を突き刺した。ダメージは少なくとも入っているようだ。やはり鱗と鱗の間は柔らかいみたい。
尻尾をたたきつけてきたが、私は躱し、炎龍は自分の尻尾攻撃で多少ダメージを受けたようだ。
炎龍は痛そうにしていたが、だがしかし、なんだか顔が笑っていた。
そして、飛び上がり、天井をぐるぐると回転し始める。
「な、なにするつもりなんだろ……」
「わからないけど、警戒はしておいたほうがいい……」
私たちはずっと炎龍にくぎ付けになっていた。
ぐるぐると周り、そして、止まったかと思うと、口から何かしずくのようなものをぽとりと落とす。
私は嫌な予感がして、地面を強く蹴って飛び上がった。
そのしずくがぽとりと地面に落ちた時、波動が地面を伝わり、地面にあるものがすべて燃える。
「うきゃっ!」
「ウヅキ!」
ウヅキも巻き込まれて、死んでしまったようだ。
私は地面に着地する。あの波動は一瞬だったようだ。こりゃきついわ。タイミングよくジャンプしないと躱せないとか。
こりゃ、勝てないな……。
「…………」
炎龍は黙ってこちらを見ている。
私は双剣を構えると。なにか小さい炎のようなものを私に当ててきたのだった。
《種族が変化します》
《種族が炎龍人となりました》
《スキル:忘却の雫 を取得しました》
《炎龍はあなたを気に入ったようです》
《炎龍はあなたの願いを読み取り、この地から離れることを決意したようです》
というアナウンスが。
「強き者と出会えてよかった。また会おう……」
そう言い残し、炎龍は洞窟から出てどこかに飛び去ったようだった。
それはいい。
『種族変わった?』
『なんか微妙に炎まとってね?』
『炎龍人ってなに!?』
『こういうのあるんだ……』
『そういうのになるのって、あんなえぐいのと戦わないといけないんでしょ? やばくね?』
種族が変わったようだ。
見た目に変化は多少あった。私の体にはうっすら炎をまとっていること。これは自分の意志で消すこともできるようだ。
そして、体に鱗が生えていた。手の甲だったり腕だったり。ゴーストプリンセスの装備には似合わない鱗が。
「なんていうか、情報量がやばい」




