一発目 ②
私は狼と戦う。
まず一発目でこんな強いやつ引くとは思わんて。
「狼さんよぉ、少し空気読んでくれないかな」
噛みつこうとしてくる牙を片方の剣で抑え、もう片方で顔に剣を突き刺した。
狼を突き飛ばす。狼が放った氷柱が腕に刺さっていた。
「死にかけー、痛えー! 快感っ!」
本当は死にたい。けど。
「ここで死ぬわけにはいかないんだよな」
氷属性の魔法も操る狼。
私の腕に刺さったままの氷柱。私は氷柱を引っこ抜き、狼めがけて走る。
狼は口をあんぐり開けた。私は狼の口に氷柱をぶっ刺して、氷柱を吐き出させないようにする。
「大丈夫だべか……」
「大丈夫。予想外にめちゃくちゃ強いから苦戦してるだけ」
レベル差、結構あるんだろうな。
私はあと一撃、当たったら死ぬか。むしろ、防御力も皆無なのによく耐えたと思う。
「えーっと、モンスター名は……氷狼の子ども?」
「こっこ? これでこっこか」
「こどもでこの強さ……。大人だとどうなるんだろうな」
「なんか状態異常になってる。恐慌……だって」
「恐慌?」
何か怖がってんのか?
「アレだ。これは倒さない方がいい魔物だ」
私は双剣をしまう。
狼は唸っている。口が開けないので、グルルルと唸るだけ。私は大丈夫、と言い、とりあえず従順ポーズをとった。生き恥。これもイイネ。
「恐れることはないよ。私も事情がわからなかった。大丈夫。私を信用してほしい」
「……グル」
狼は唸りを止めたかと思うと、パタンと倒れる。
私は狼の口から氷柱を抜き、ポーションを取り出した。ポーションをぶっかけると、傷が塞がっていく。
『じゅんぺー、前!』
『前ー!』
コメントで前という単語がものすごく投稿されていく。
私は目の前を見ると、この子の親であろうものすごいでかい狼が私を見ていた。
狼は唸りもせず、ただ冷たい視線を私に向ける。
「……私の子どもが、何かいたしましたでしょうか」
「襲われたから少し痛めつけてしまった。ごめんなさい」
「そうですか。それは申し訳ありませんでした。我が子を預かります」
というので、私は手を離すと狼の首元を噛んで子どもを持ち上げる。
「この子、何に怯えていたんですか?」
「わかるのですか?」
「なんとなく、怖がっているな、と。訳があるんですよね? ここの気候は温暖ですし、あなたたちの種族が氷狼。生息域が違うと思います」
「そうですね。私たちは本来、寒い地域を好みます」
そうだよね。
生息域が違う原因として、考えられる要因は主に二つ。一つはこの世界でどんどん寒くなっていってる気候変動が起きてここも生息域となったこと。これは多分違う。ここは温暖気候。
もう一つは……。
「あなたより格上の相手がナワバリに現れたんですか?」
「聡い。その通りです。炎龍が私たちのナワバリを奪いました」
炎龍……。
名前からしてドラゴンか。氷と炎は相反する属性だからね。氷狼は炎龍には敵わないと悟ったのだろう。
「この子はナワバリを追われたことの恐怖、炎龍に対しての恐怖で荒れておりました。強引な手段ではありましたが、鎮めていただきありがとう」
「いえいえ……。それより」
「はい?」
「炎龍、私がなんとかしてあげますよ」
ドラゴン。ファンタジーといえばドラゴンだ。
そういうのを見せてあげたいという欲もある。
『無茶で草』
『やめとけよ』
『敵いっこねぇって』
「敵わないのは分かってます。ですが……私はバカなんで、ドラゴンを一目見たいのですよ」
私は双剣を握りしめる。
じーっと氷狼を見つめると、氷狼はため息を吐いた。そして、わかりましたと告げ、背中に乗りなさいと告げてくる。
「あ、わたすたちは……」
「来るなら来い! ただ、死ににいくようなものだよ。怖いならやめておいたほうが賢明だよ」
「なら……」
「私は行きます! ファンタジーのこの世界で、ドラゴンを見ないなんて浪漫がないじゃないですかあ! 死ぬの上等! 人間、いずれ死ぬんですから!」
と、ウヅキが狼の背に乗る。
こいつ、意外と度胸あるなー。ミツキはまだびびっているようだ。
そりゃそうだ。死ぬのは誰だって怖い。この世界はゲームだと言えど、目の前に見える視界は全てリアルだ。
「無理ならばいいよ。それで失望はしない。怖いのは一緒だよ。みんなね」
『じゅんぺー、嘘は良くない』
『じゅんぺーはものすごく好きなくせに』
「私は痛めつけられるのが好きなだけで死ぬのは好きじゃ……。いや、死ぬくらいの痛みは好きだし同じか?」
まあ、どちらでも似たようなものかぁ。
「……わりいけど」
「わかった。ミツキ、じゃあ始まりの街の宿屋で待ってて。私たちはきっとそこに戻るから」
「んじゃ、私一回死んでくる!」
私たちを乗せ、狼は走るのだった。




