鬼時間 ②
金棒が勢い良く地面に振り下ろされる。
土ぼこりが舞い、私の姿を隠したのだった。
『当たった?』
『なに鬼時間って』
「ご心配なく! 当たってないよ。なんなんだこいつ」
土ぼこりが晴れたかと思いきや、また金棒が目の前に迫る。
私は最小限の動きで躱しつつ、鬼時間というのはなんだ? こういう鬼がフィールドに徘徊するようになるというものだろうか。
こういう鬼が徘徊していていいことはあるのだろうか。いや、なさそうだが……。
「なんとなくわかるけど、勝てそうな相手じゃないな」
『じゅんぺーがそういうならマジでそうなんだろうな』
『一撃当たったら死にそうだね……』
『どうするんだ?』
『どうするんだろ』
どうするんだというコメントであふれかえる。
決まってる。死ぬか生きるか。だがしかし、さっきアナウンスされていたことも気になる。レアドロップが出る、鬼の固有素材が出る……。
もしかして、鬼って素材落とす?
「素材落とすんなら戦ってみる価値はありそうだけど」
まぁ、やるしかないか。
私は双剣を構え、金棒をよけて鬼の首筋に剣を突き立てる。ぽろっと何かが落ちた。私はそれを拾い上げる。
鬼の角? 角のようなものが手に入った。その瞬間、私の目の前には金棒が迫っていた。
「あ、やべ……」
『これは単なるミス?』
『素材に気を取られちゃったんだね』
『なーむー』
これは躱せない。
私の頭に金棒が振り下ろされたのだった。金棒は私をひとえに殺してくれた。だがしかし、うかつだったのは。
「あ、設定間違えてた!」
死んだ際の設定を間違えていた。
ステータスが半減するデスペナルティではなく、ログアウトさせられるほうを選んでいた。私は勢いよく現実に引き戻される。
現実に引き戻されたということは、配信も切れてしまったということだ。私はTwitterを開き、配信の終了とお詫びを載せておく。
「くそ……。ぬかったぁ」
これは私の単なるドジ。
私はしょうがないので、ログインできるようになるまでの10分間、暇だからコンビニに向かうことにしたのだった。
カードキーを財布に入れ、外を出歩く。
「らっしゃーせー」
と、やる気のない店員の挨拶を聞き流し、私はお酒とおつまみになるピーナツやイカゲソなどを適当にかごの中にぽいぽい放り投げていく。
すると、なんか知らないお菓子が放り込まれていた。
「あん? これ入れてないよな私」
もどそ。
私はポテトチップスの袋を棚に戻した時だった。小さな子供がなんで棚に戻すの!と怒ってきたのだった。
「いや、私が入れたものじゃないからねぇ」
「買ってよー!」
「そういうのは自分のお母さんに頼みなさい」
「お母さんがお姉さんが買ってくれるっていってたんだもん!」
「……はい?」
と、困惑していると怒り顔のおばさんが私に近寄ってくる。
「なにうちの子を泣かしているんですか!」
「いや、私のかごに勝手にものを……」
「いいじゃないそれくらい! お菓子一袋くらい安いものでしょ!」
「はぁ?」
なんだこのおばさん。
今日はなんかついてない。さっきは自分のミスだけども。これは私悪くないでしょ。私は溜息をつく。
無視しよ。こういうのは無視するに限る。もう変な奴ばかりかかわるなぁ今日は。
私はレジに並び、会計の順番を待つが、さっきのおばさんが話は終わってないと近寄り、無理やりかごにお菓子を入れてきた。
「いや、だから買いませんよ」
「うちの子を泣かせたお詫びとかないの!?」
「勝手に泣いてるだけじゃないですか。泣かせた覚えはありませんけど」
「あなたが泣かせたんじゃない!」
「人様の買い物かごの中にものを勝手に入れる行為を咎めただけじゃないですか。あなたは人様に買ってもらうように教育なさってるんですか?」
「なにを! 言わせておけば!」
と、おばさんは手に持っていた日本酒のビンを持ち私をぶん殴った。
頭から血が流れ、店内は騒然となる。
「……手を出しちゃおしまいでしょ」
「お客様! 大丈夫ですか!?」
「離しなさい! この女が悪いのよ! この女が!」
「はいはい、とりあえず奥いこうか。申し訳ありませんがだれか警察を……」
「いや、いいです。そこまで大事にするつもりもないです」
私はハンカチで負傷個所を抑えながら立ち上がる。
性癖というものは不思議なもので、ちょっと気持ちよかった。性癖というのはいつでも感じさせてくれるな……。
「とりあえず、この女性の旦那様とだけは話し合いたいので、申し訳ありませんがバックヤードを貸していただくということはできませんか?」
「かまいません。とりあえず救急車を……」
と、救急車を呼ばれ、サイレンの音が鳴り響く。
警察も誰かが呼んだらしく、パトカーもコンビニの前に来たのだった。
現実でも鬼時間に遭遇してしまう主人公。多分マゾの才能がそれを呼び寄せてる




