肩にちっちゃい重機乗せてんのかい!
私は刑務所に訪れていた。
私が何か犯したとかそういうわけではなく、妹と面会するため。
妹と面会する予定を入れていた。妹が心配だという姉心もあった。
面会室でしばらく待っているとピンクの刑務服を着た京がやってきた。
「あ、お姉ちゃん」
「よぅ。元気してる?」
「全然。刑務所って窮屈……。ご飯はあまり美味しくないし刑務作業辛いし人間関係辛いし」
「人間関係?」
「なんか罪の重さみたいなバカみたいなことで競ってんの。大体が窃盗犯とヤク中なんだけどね。殺人未遂の私はなんか崇められてる」
「なにそれ」
「私もわかんない……」
悪いことしていた方がカッコいいって風潮なの?
「それより聞いて! 私、ここじゃ模範囚なんだよ!」
「そもそも囚人であることは偉くないから褒めれんぞ」
「だよねぇ」
京はケラケラと笑っていた。
京が模範囚なのはまぁ、納得できる。私以外にはそこまで牙を向かない。時折暴力に頼る節があるが……。
「この前脱獄しようとしてる奴がいるってチクったらさー、刑務官の人に褒められちゃって」
「お前よく塀の中で敵を作ることすんなぁ」
「脱獄しようとしてる人が悪い。私は悪くない」
「まぁ、そりゃそうなんだけど」
まぁこのご時世で脱獄なんて上手くいかないだろうに。
「お姉ちゃん。相談があるんだけどさ」
「相談?」
「うん。その……お姉ちゃんにあんなことした手前恥ずかしいんだけどさ、私がここを出たら……その、就職先を見つけるの手伝ってほしいんだ」
「あー、そんなこと? いいよ」
「いいの!? やった! ありがとうお姉ちゃん! 大好き!」
「それ本心か?」
「本心だよっ! もうお姉ちゃんに恨みとかないって……。反省してるからここじゃルールを守って過ごしてるんだよ。もうやらないよ……。むしろ包丁持つのすらちょっと怖いんだ」
「あー……」
「刺しちゃった感触、まだ残ってるんだよね」
京は右手を見る。
私の腹部に包丁を刺した感覚が忘れられてないようだ。
「ほんと……バカだよ。この感覚は多分消えることないと思う。バカなことしたなって自己嫌悪で死にそう」
「そういうところがまだ弱いんだな京は」
「うん。こんなことになったのも全て私が弱いから。で、私は考えたんだ」
「うん?」
「筋肉があればそんな悩みも吹き飛ぶんじゃないかって」
驚くことを言い出した。
刑務官の人が後ろで「だから最近筋トレしてるのか……」と言っている。
え、なに? なんだお前。
「筋肉は全てを解決するって同じ牢屋の人が言っててさ。その通りだなって」
「いやいやいや、飛躍しすぎだろ!?」
「やっぱ時代は筋肉! いいと思わない?」
「なんでうちの家族はこう思い込んだら一途なのが多いんだよ!」
母さんといい京といいなんなんだ。
「お姉ちゃん。筋肉を崇めてみない?」
「お前怪しげな教祖にレベルアップしたな。私は自分の体を痛めつけられるのが好きだがいじめるのは好きじゃない。だからノー。興味ない」
「多分腕相撲だったらもうお姉ちゃんに勝てるよ! ほら、力こぶ!」
「なんか京を牢にぶち込んだの大きな間違いかもしれない」
妹の腕が筋肉で少し太くなっている。お前どこ目指してんの? こっから出たらボディビルダーにでもなるの?
いや、運動は確かに大事さぁ。けど、弱さを吹き飛ばすのは筋肉ってそれ漫画で脳筋のやつが言うセリフだぞ。お前はもっと知的なはずだ。そんなマッスルキャラじゃない。
「……ほらお姉ちゃん掛け声!」
「えっ」
「肩に?」
「ち、ちっちゃい重機乗せてんのかい……」
私がそう言うと後ろの刑務官が耐えきれなくなったのかぶほっと吹き出した。
笑いながら、私の元に近づいてくる。
「じ、時間……です……ぶふっ」
お前表情を崩さないよう頑張ってる刑務官をよく笑わせられたな。すごいぞ。




