二人のプロポーズ ①
3月。
私は瀬野の仕事場で優雅にコーヒーを飲んでいた。
「なぁ瀬野ー。最近さ……なんか私変なんだよね」
私が瀬野に相談を持ち掛けると、瀬野は。
「君が変なのはいつものことだろう」
「彼女に対してその容赦のなさ好きだよ。でもそうじゃないの。なんていうんだろう、悪運がなくなった? なんかめちゃくちゃ運良くなったんだよね。この前だって抽選で1等当たるし、レアドロップも出やすくなったんだよ」
「……それは妙だな。君は類まれなる悪運の持ち主だったはずだ」
そう。
私の運勢は基本「大凶」
だからこそ誘拐されるし、刺されるしで踏んだり蹴ったりの人生を送ってきている。だが不思議と、あのイベント以降まったくもって不幸なことが訪れないのだ。不思議だ。
「誰かに押し付けたんじゃないか?」
「誰に? どうやって?」
「わからんが……。強い衝撃でぶつかったとかそういうのじゃないか?」
「ぶつかった記憶もないけどなぁ」
幸運だと逆に怖い。
私はコーヒーを飲みつつ、さっきから気になっていることを聞いてみる。
「瀬野、かかってる曲なに? ボカロ?」
「ああ。ぼうはていPっていう作曲者が僕好みでね。このダークな雰囲気がいいだろう?」
「あー、まぁわかる」
少し聞いてみると、ダークな歌詞で明るい曲調。その対比が、矛盾がマッチしている気がする。
「ぼうはていPねぇ」
「1年前から活動を始めた新人ボカロPだ」
「へぇ」
新人でこんな再生回数ってすごいな。
SNSとかでバズったりしないとこんな数字はないぞ。最初の曲が本当によく聞かれているようだった。
”RgoRhythm”がデビュー曲。再生回数2098万回。
100万再生は余裕でいっている。すごいな……。
「さて、と」
瀬野はペンを置く。
「じゅんぺー。お腹すかないか? どこか食べに行こう。もう夜だ」
「あ、いいね。食べに行こ行こ」
「イタリア料理の店を予約しているんだ」
「へぇ……」
プロポーズかな?
イタリア料理か。カプレーゼとかうまいよな。チーズがトマトを、トマトがチーズを……。あとはイタリア料理といえばトマトだろう。
トマトはイタリア料理に欠かせないからな。あとはパスタとか。ラザニア、ラビオリなどなど……。楽しみですな。
「ドレスコードがあるんだ。少し着替えてから行こう」
「結構お高めのお店?」
「ああ」
ドレスか。
あったかな。いや、すぐそこで仕立ててもらえばいいか。そういう店は近くにあるだろ。お高いけど……。
瀬野はどこかしら緊張しているようにも思える。
こりゃプロポーズするな? 私の勘はハズレないぜ。というか、バレバレ。高級イタリアンを予約しておいてプロポーズしないとかまずない。
そもそも、瀬野の性格からしてそういうところを普段通っているわけでもないだろうしな。




