じゅんぺーちゃんにとっての好敵手
私は黄金の魔人の背後に立つ。
黄金の魔人は黄金を大事そうに片手で持ち、移動している。烏兎池から一直線上に離れていっているのを見るに、やはり烏兎池に黄金をもっていってほしくないようだ。
私は地面を強く蹴り飛び上がる。そして、黄金をサッカーのように思い切り蹴り飛ばした。
「奪い返したぜ!」
ゼノが黄金を受け取った。
ゼノは黄金を抱えて走り出す。黄金の魔人はゼノを追いかけようとするので、私は思い切り足元を切りつけた。
食い止めることができるかはわからないがやるしかない。傷一つ付けられない辺り、強引に突破される可能性が大だが。
「こうなりゃ最初から全開でいくぞ! 苦悶の巣!」
私は最終扇を最初からぶっ放した。
糸に絡まっていく黄金の魔人。だが、火も電気も物ともしていない。だがしかし、蜘蛛の糸というのが非常に厄介なのか、追いかける速度が少し遅くなっている。
ぶち、ぶちと息を引き裂きながら強引に追いかけようとしている。鋼水の糸は有効だというのがよくわかった。蜘蛛でよかったぜ。
「煩ワシイ!!」
黄金の魔人は糸を全部引きちぎった。
苦悶の巣があっけなく突破されてしまい、黄金の魔人は再びゼノを追いかけ始めたのだった。ゼノは全力で逃げていて、黄金の魔人も全力で追いかける。
黄金の魔人に攻撃は効かないというのだからずるい。私なんていつでも殺せるといわんばかりに無視されている。
「そうやすやすとイカせるわけにはいかないんだよねぇ! 糸に縛られて気持ちよくなっちゃえよ!」
私は鋼水の糸を射出する。
糸をぐるぐる巻きに巻き付けて辺り一面に固定してみる。
『鬱陶シイ、鬱陶シイ、鬱陶シイ!!!』
黄金の魔人が私をぎろりとにらんできたのだった。
黄金の厄災。ヒーロー物語のラスボスとしてはこれ以上ないくらいだ。これを倒したら私って超かっこよくないか。
「……ふふ。黄金の魔人。ゼノを追いかけていきたいのなら私を殺してからいってもらおうか」
『オマエウザイヨ! ウザインダヨォオオオオオ!』
と、黄金の魔人は私を最初に始末することに決めたようだ。
黄金に輝く握りこぶしで、私をぶん殴ろうとして、拳を握りしめて振り下ろす。私はそれを躱した。
黄金のこぶしは地面を軽くえぐり取っている威力だった。これまともに受けちゃだめだな。受け流しもできなさそうだ。
「ほんとにきつい相手かも……」
今の今までで一番手ごわい相手。
勝てるかどうかすらわかってない相手にどう立ち向かうか。こういう感覚、久しぶりだ。勝てないと本能で悟るような敵は。
この天才じゅんぺーちゃんにはそういう相手、いなかった。ゲームにはまったのも、私に勝てるやつを探すためだったりもある。
こいつはじゅんぺーちゃんにとって……一番の好敵。私の敵わない相手なのではないか!?
「そう考えるとがぜんやる気出てきちゃったなぁ!」
抗う。
勝てなくても抗う。少しでも時間を作るために抗う。勝つためじゃなくて、負けないために。私は全力で抗う。
余計な思考も、なにもかも不要だ。今は目の前の敵を倒すことだけを考えるとしようか。




