烏兎池までの距離
私は一度現実世界に引き戻されてしまった。
というのも、キルされてしまったからだった。黄金の魔人から逃げきろうとしていたが、失敗してしまい、黄金は奪われて私は殺された。
「ちっくしょう……。さすがに悔しいぜじゅんぺーちゃんは」
だがしかし、諦めるわけにはいかないのだ。
黄金の厄災を止めて、世界を救う。私は、世界を救うヒーローになれる。私の物語は今ここが最高潮を迎えるのだろう。
「テンション上がってきたし、今日の夜配信でもしますか!」
私はそう思いつき、配信予告ツイートを流す。
そして、夜を迎える。私はログインして、カメラを回す。視聴者もたくさん来てくれている。
「どうもー、じゅんぺーちゃんでーす」
私はひらひらと手を振り、辺り一面の惨状をカメラに映す。私以外はすでに世界の崩壊を知っていたらしく、結構地獄絵図だったようだ。
突然戦争が起きて、突然街がなくなったりして、結構ひどかったらしい。私は視聴者に理由を説明していく。黄金の厄災についてのことも、なにもかも。
「で、配信前にもっていこうとしたんだけど失敗。黄金は奪われちゃってさ」
最初の課題はあの黄金の魔人から黄金を取り返す、という課題だ。
厄災は文字通り厄災。人々が争うのを好むし、起こさせるもの。あの黄金の魔人が、この厄災を引き起こしているといっても過言じゃないだろう。
「だから、最初は奪い返しに行く。私は黄金の厄災を食い止めて、世界を救ったヒーローになる」
私の決心は揺らがない。
じゅんぺーちゃんはこの日、世界を救うヒーローになるのだと決めた。
「じゃ、早速行きますか」
「まぁ待てよ。僕も一緒に行っていいだろう?」
「ゼノ」
「僕もあの後殺されたのさ。世界を救うヒーローだとか馬鹿な希望を持っているものだね。まぁ、夢は大層なほうがちょうどいい。あの魔人に再び挑んで黄金を奪い返すのだとしたら何か作戦が必要だ。真正面からやりあって勝てるような相手ではない」
「あれは相当強い。勝つの無理ゲーなんじゃないかなあれ」
黄金の魔人は戦ってみてわかった。あれは勝てない。
というのも、いろいろとチートが過ぎる。一応、黄金をゼノに手渡して双剣で戦ってみた。が、攻撃が通らない。不惜身命など最大限のバフを用いても、攻撃が一切通る様子がなかった。
攻撃が一切効かないタイプ。で、防御が低い私なら攻撃一発で即死レベルの攻撃力。あれは相当まずい。厄災といわれるだけある。
『じゅんぺーがそこまでいう?』
『俺らも手伝おうか』
「手伝いに来れるのなら来てほしいけど……。ここは私も意地だよ。仮にもプロゲーマーを名乗る私がソロ攻略無理だって弱音吐くのはプライドが許さない」
なんとか一人で攻略するのみだ。
一応、奪い返せはすると思う。ただ、逃げる算段がないだけで。奪い返そうと思ったら、いくらでも方法はあるのだ。この天才じゅんぺーちゃんに不可能はないのだから。
奪い返した後、すぐに反撃に移られたら打つ手がない。
どうにかして奪い返して烏兎池にもっていって封印する必要がある。あの黄金の魔人と出くわしたのはここら辺、烏兎池までは距離はだいたい10kmといったところだろうか。
「遠いな……」
「封印場所である烏兎池まで距離がまだあるな。だが、ここでちんたらしていると黄金の魔人を見失うだろう。速攻で決着をつけねばなるまい」
「……考える時間がないか。ゼノ、お前私の彼女なら私の思惑、わかってくれるよね!? もうこうなりゃアドリブだ! これ以上距離を取られたらいろいろときつい! アドリブで行こう!」
「了解だ。君の役に立てるよう僕も全力で頑張ろう」
考えてる時間が惜しい。




