物語の終わり
風邪はすぐに治った。
私の中に巣食うウイルスはとても弱く一日で治るものばかり。頭の治療も何針か縫っただけで終わり、退院することができたのだった。
美春とサンキチがあきれ顔で私を見ている。
「ほんとにもう心配させないでよ」
「ごめんごめん。私も熱を出すなんて思ってなかったからさ。お詫びになんかおごるよ」
「じゃあ肉」
「さんせー!」
ということでものすごく高い肉を提供することになった。
鉄板焼きの店に行き、ステーキを三人前注文する。結構いい値段するな……。サーロインなら当たり前だとは思うが……。
私は席に座り、まずは最初の焼き野菜が焼かれるのを待つ。
「じゅんぺーってさ」
「ん?」
「じゅんぺーっていつまであのゲームを配信するの? 新しいゲームとか結構もう発売されてるのにそれとかいかないの?」
「あー」
そういう問題があるんだよな。
私自身、結構いろんなゲームを今まで配信してきた。今のように何か月も同じゲームを配信することはほとんどないくらい、今のゲームがちょっと面白く感じている。
そのゲームをいつまで配信するのか、か。
「そうだなぁ。次に私が面白そうだと思ってるゲーム……。今年の6月に発売予定のParallel X Online from Japanっていうゲームが発売されるまで、かな」
「そういうのでるんだ。どんなゲーム?」
「まだ詳細が出てないからわからないけど、同じVRMMOだよ。まぁ、でるまでに生き延びていればいいんだけど」
「普通は病気でもない限り生きると思うけど……」
「でも生き延びてるかどうかわからないっていうのが怖いよね。じゅんぺーって死神に取りつかれてるような気がするし……」
「いつも不運と踊ってるしね」
最近、死ぬような目にしかあっていない。多分発売までに交通事故とかに巻き込まれそうで超怖い。私の体は頑丈だけどトラックとかにぶつかったら生きて帰ってこれない自信がある。
だからこそ日々をもっと大切に生きるべきだな。あまり外に出ないほうがいいかもしれないとは思うが、つい先日熱で倒れて死にかけてるから外にも家にも危険がいっぱいなんだよな。
「でも、生きるとは思うよ。私だって今死にたくないもん。瀬野もいるしね」
「ナチュラルにのろけやがって」
「幸せだねぇ~」
幸せで何が悪い。
「付き合って間もないけど、瀬野とは結婚すると思うよ。というかしたいからそろそろプロポーズするかな」
「早くない?」
「こういうのはノリと雰囲気だって。好きって気持ちがあればいいと思うよ私は」
「愛だねぇ~」
「結婚は人生の墓場っていうわよ」
「そりゃ結構。どちらにせよ、私の愛の物語は結婚と同時に終わるんだよ。幸せの絶頂を迎えられたら私も幸せだし?」
「なんとなくわかる。結婚っていうのは物語の終わりと始まりだって思ってるよボクも」
「愛という物語が終わって家族っていう物語が始まるんだ」
結婚願望は人並みにある。
瀬野となら結ばれてもいいかな。瀬野もそういう気持ちはあるみたいだし? お互い好きで交際してるんだからいつ結婚してもいいんだよな。
「だから私は多分配信するのは……。その新作ゲーム発売までか、結婚するまで、か。籍をいれたらしばらくは休止するよ」
私の物語の終わりはそこだろう。




