チャンプルスター
コガラシとともに、周囲を警戒しつつも移動はやめない。
同じ場所にいたら安全ではないからな。もう身代わりの権利もないし、慎重にいかねば。それに、もう解放はできないだろうな。鬼だって同じ相手に三度も解放されたくないはずだ。もっと対策を練ってくるに違いない。
「あと1時間半。まだ1時間ぐらい残ってると考えるべきかしかないと考えるべきか……」
「まだ1時間半もあるなんて最高っすね! 鬼ごっこなんて小学生の時以来でワクワクするっす!」
「そういう考え方もあるかぁ」
コガラシはずいぶんとポジティブのようだ。私と同じくらいポジティブっぽい。
まぁ、でもたしかに鬼ごっこなんて久しくやってないな。ほかのゲームでもイベントなんてもんはあったけど私って今までやってたの大抵クソゲーだからバグが多かったり難易度が高すぎてゲームとして破綻していたものばかりだし、鬼ごっこなんてやってこなかったな。
「この先も全力で逃げるっすよー!」
と、コガラシが手を天に掲げて宣言した時だった。
分岐している道の片方から鬼が歩いてきていた。
「あ」
「あ」
思わず出会ってしまって鬼もこちらも固まる。私は一目散に逃げだした。
「いきなり出会うなんてラッキー! じゅんぺーさん! 成敗してあげようね!」
「なんで宣言したとたんに出会ってピンチになるんだよ! まじでおかしいよ私の運勢! お参りとかお祓い行っておこうかなぁ!?」
ガチで勝つ決心してからピンチが多すぎる気がする。
どうする? 相手は割とゲームがうまいチャンプルスターという配信者だ。沖縄出身。
あれと対戦は何度かしたことはあるが、強いし、勝つためには搦め手とかも使ってくるし、なんならいろいろはっちゃけてるやつだし相手したくねえんだよな。
そんなやつが素直に逃がしてくれるとは思えんし……。
「無駄無駄無駄無駄! 鬼のスペックは普通のプレイヤーのスペックと段違いだぜ! 逃げ切ることなんてできないね! うん、できやしないね!」
「私をそんじょそこらのプレイヤーと一緒にしないでもらおうか!」
だとしてもスペック差は事実。
頭を使って逃げきらなきゃいけん。
「じゅんぺーさんは反射神経とかもろもろすごいからな。たしかに対面でも割と勝てなさそうだけどねぇ! 俺も一応プロゲーマーなわけですよぉおおおおおお!」
「マジでそれが厄介なんだよな」
「あと少し! もう少しで追いついちゃうねぇ! どうしようかねぇ!」
鋼水の糸は一回放てるだけは回復した。
どこで使うか、だ。まぁ、一応策がないわけじゃない。
私はマップを見て、ここら付近は崖ばかりなのがわかっている。方法は一つしかない。
「飛ぶぜい!」
私は崖を飛んだ。
「わかってんだよぉ! 俺は落ちたぐらいじゃ死なねえ! 地獄の底まで追っかけてやるぜ! 崖に飛び込むってことは着地する算段があるんだよなぁてめえにも!」
と、チャンプルスターが崖に飛び立した。
私は鋼水の糸で崖の側面にぶら下がっている。チャンプルスターは私と目が合って、は?という顔をしている。
「じゃあねー。一人で崖下いってらっしゃい。落ちても死なないけど鬼のスペックもっても空中浮遊なんてできないよねぇ? ここまで泳いでこれる? 漫画みたいに。あっはっは! 私の勝ち!」
「クソがぁアアアアアア!!」
と、断末魔を上げて落ちていった。
私は急いで糸をよじ登っていく。早いところ移動しないとな。また崖に戻ってくるぞあいつ。今度は逃げきれそうにもないから早いとことんずらしちゃおうか。




