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助かった……

 転移させられた場所は知らぬ崖の上。

 

「こういう運って私無いの忘れてた」


 崖が崩れ、私はそのまま落下していく。

 いやいやいや、転移先がランダムだとしてもこんなピンポイントで引く? 死んだら捕縛と同じだから身代わりの権利が意味なくなるじゃねえか!

 なんとかして生き延びねば……。


『ピンポイントで草』

『強く生きて……』

『どれだけマジになっても運のなさは変わらないんだよね……』


 コメント欄も励ましのコメントがたくさん来ていた。

 くそ、なんで私はガチのときですらこんなお笑いみたいな運のなさなんだ……。とりあえずどうしよう。地面につくまであと数秒しかない。

 鋼水の糸も使いすぎて使う分の魔力が残っていないし。


「こんな形で終わるの? え、マジ?」


 おかしくない?

 私はもうお手上げ状態だ。魔力もないから鋼水の糸も出せない。万事窮す。いや、バンジー窮す……。なんちゃって。うまくないっての。

 しょうがない。覚悟を決めるか。


「こんなお笑い的な死に方、ほんとに納得いかねえーーーーーーー!」

『草』

『これはさすがにどんまいとしか』

『Don't mind Don't mind』

「ちなみにドンマイは和製英語で、Don't mindは気にしないって意味らしいよ」

『無駄に発音良いな』

『うんちくは今いらねえよ』

『勉強になったな!』


 地面がもうそろそろだ。

 私は目をつむり、死を受け入れる。


 だがしかし、衝撃は襲ってきたが、そこまで痛くなかった。それも死ぬようダメージではない。マゾヒストだからわかるんだ。死ぬときの痛みが。

 私は目を開けてみると、髪を刈り上げている女の子の上に着地していたのだった。


「あ、ごめん」

「ごめんじゃねえ! 死ぬとこじゃねえか!」

「ごめんって」


 女の子は声を荒げる。

 すると、なんか鬼の気配がした。私は女の子の手を引っ張り茂みに隠れると鬼がきょろきょろしながら歩いてきていた。

 鬼は通り過ぎ、私は一息つく。


「ごめんネ」

「ちっ……。いや、オレも不注意だった。助けてくれてありがとな」

「いいってことよ。名前なんて言うの?」

「ラピスラズリっつーんだ。友人からはラピスとかラズリとか呼ばれてる。どっちでもいいぜ」

「じゃ、ラピスで。友人っていってたけどその友人は?」

「別サーバーにいるっぽいな。オレとは分かれちまった」


 まぁ、そういうこともあるよな。サーバー分けは運営がやるんだろうし。


「とにかく、助けてくれてありがとよ。オレは先を急ぐ」

「うん、ごめんねほんと」

「もういい。オレもカッとなっちまって声を荒げてすまねェ」


 そういって、刈り上げの女の子は行ってしまった。

 オレ系女子って珍しいな。ボクッ子とかなら出会ったことあるし、なんなら美春ってやつがいるけどオレっていう一人称の女子はいなかったな。


「変わった女の子もいるもんだねぇ」

『おまいう』

『変わってるのはお前定期』

『ナチュラルにブーメラン投げてるの初めて見た』

「私が変わってるわけじゃなくて周りが変なだけだよ」

『違う。お前がおかしい』


 変態だって多様性の一種だろう。

 変態を認めない世の中なんて私は認めない。人に迷惑をかけない変態はいいものだぞ。分かってくれる人はいないか。


「あれ、じゅんぺーさん。こんなところでなにしてるんすか?」

「んあ? あ、コガラシ」

「あ、配信中なんすね! 映ってるっすか?」

『じゅんぺーとは違ったかわいい子だ』

『類は友を呼ぶんだからこいつも……』

「いや、この子はノーマルだよ。ただの空手少女。前回のイベントの準優勝者」

「コガラシっす! 空手を習ってるっす! よろしくおなしゃーーーーす!」


 コメント欄は元気系少女の登場で沸き立っていた。


「お邪魔でなければ一緒に行動してもいいっすか! 自分、誰かと行動していたほうが落ち着くっす!」

「いいよ」

「ありやとっす! じゅんぺーさんと一緒に最後まで逃げきるっすよーーーーー!」


 元気があり余っているのはいいことだな。









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黒猫は眠らない
新作です。VRMMOものです。
読んでもらえると嬉しいです。
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